第3話 上陸

 セントレア大陸を出て7日間船に揺られ、ようやくオタニア大陸のトーリンズ川河口にある港町が見えてきた。

 あの港町から馬車で川沿いの街道を通ってカラトリ村に向かうそうだ。


 俺と父さんは甲板に出て、船から見える街並みを眺めている。

 かなり大きな町のようで多くの船が停泊し、荷下ろしなどで活気のある声が響いている。

 船の奥に見える、建物は屋根がカラフルで華やかさを感じる。

 もうこの町が目的地でいいのでは?そんな風に思えるほど魅力的な街並みをしている。


「あとどのくらいで、なんとか村に着くの?」

 どんなに魅力的な街並みでも、ここに住むわけではない。

 目的地までの距離の方が気になる。

「カラトリ村な。あと三日くらいで着くはずだ」

「えー、まだ三日かかるの!!」

 俺はまだ移動が続くのかと不満の声を上げた。

「贅沢を言うな。そもそもここまで相当短い日数で来れたんだ」

「魔法船のおかげででしょ。分かってるよ」

 魔法を動力として動かしている船のことを魔法船と呼んでいる。

「そうだ、今回の調査は教会からの依頼だから特別に乗れるんだぞ」


「でも、魔法を動力にするってどうやっているの?

 魔法って『都合の良い物じゃない』っていつも言っているじゃないか」

「そうだな。船の動力にできる様な都合の良い物じゃないな。

 これは教会の機密になっていて父さんも分からないんだよ」

 と父さんは肩をすくめた。


 いつも聞いている魔法についての説明を俺は思い出した。

「いいかケン、魔法はそう都合の良いものじゃないんだ」

 だいたい、この言葉から魔法の話が始まる。

「魔法は神様が私たちの祈りや願いを聞き届けて奇跡を起こしてくれるものだが……

 私たち人間の都合など考慮してくれないんだ」

 雑な例えをするとコップ一杯の水が欲しいと願った場合、コップの中に現れるのは泥水かもしれないと言うことである。

 これでは願いは叶ったが喉を潤すと言う目的を果たせない事になる。

 いや喉は潤せるかもしれないが神様に文句の一つも言いたくなるだろう。


 ちなみに祈りや願いの方法は何でも良いそうで、簡単な物だと手を組んで祈るだけでも魔法が発生することもあるそうだ。

 地方のシャーマンなどは大掛かりな儀式を行って魔法を使うらしいが……


 コップの例のようにトンチめいたことも起こる魔法を船の動力としているのだ。

 まともな船として航行出来る気がしない。

 しかし安定した動力として船を動かしているのだ。

 どのようにしているのだろうと興味が湧くのも仕方がない。


 2人して考え込んでいたところ。

「あんた達何しているんだい? そろそろ船を降りるよ」

 と母さんが遠くから声をかけてきた。

 俺は考えが中断されたので、返事を返し母さんの方に歩き出した。

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