第2話 出発前

「次はオタリア大陸のカラトリ村に行くぞ。

 母さんもケンも付いてきてくれるよな?」

 夕飯の席につくなり父さんがそう告げたつげた


「オタリア大陸って、ここから南東の大陸でしょ。俺行ったことないよね」

 世界に大陸は五つある。ケン達が住んでいるのは中央のセントレア大陸である。

 セントレア大陸を囲む様に北西、北東、南西、南東に大陸が存在している。南東に位置するのがオタリア大陸だ。


「あぁ、そうだな。私と母さんは行ったことあるが……あれはケンが生まれる前だったかな」

「なつかしいねぇ。その時もあんたの仕事で……」

「そのなんとか村ってどのあたり?」

 昔話が始まりそうだったので、俺は慌てて話題を戻した。

 両親の昔話など面白くないし聞きたくない。


「そうだな。オタリア大陸まで船で行くんだが……ケンはトーリンズ川を知っているか?」

「そのくらい知っているよ」


 トーリンズ川とはオタリア大陸の中央を流れる大きな川のことだ。

 この川が大陸を横断しており、この川を挟み北と南に別れている。

 北側は温暖な気候と広大な平原が広がっており、様々な農作物の栽培が盛んな豊かな土地となっている。

 一方南側は大森林が広がり、川沿いにいくつか小さな村が点在しているのみとなっている。

 

「トーリンズ川の河口にある港町まで船で行くんだが、そこから二、三日馬車で行ったところだな。南側の小さな村だよ」

「ふーん」

 やっぱり田舎の方なのか……

 父さんの仕事で地方に家族ごと移住することが度々ある。今回も同様だ。だいたい一年くらい移住することが多い。

 現地では魔物の生体調査を行なっている。前の移住先では調査のための探索に同行させてもらったので、この移住の話に少しワクワクしている。まぁ、田舎に行くのは嫌なのだが……


「いつぐらいに出発するんだい?」

 そう母さんが尋ねる。

「1ヶ月後くらいに出発になる。おそらく3年以上は滞在することになるからそのつもりで頼む」

 父さんの言葉に母さんが驚いた。

「今回は随分と長いねぇ」

「仕方ないんだよ、今回はオタリアの森林部の調査なんだ。森の中に入る上、探索の範囲が広いんだよ」

 父さんは面倒くさそうにため息をつく。

「範囲が広いってどんくらいなんだい?」

「トーリンズ川から五十kmは森の中を探索するそうだ」

「それは川のどこからの距離なんだい?」

「全部だ」

「全部?」

「そう、全部だ。それも村がある場所は村の活動範囲からの距離らしい」

「それって終わるのかい?」

「知らないよ。まぁ私一人でやるってわけでもないし、真面目に川沿いに全域調査するわけでもないさ。

 実際は川沿いにある村を拠点に報告出来るくらいに調査して、終わったら次の村に行くって感じになるはずさ。

 川沿いの村全てを回れば調査が終わるって寸法さ」

 父さんは戯けたおどけた感じで肩をすくめた。


「クリス兄さんも来るの?」

 俺は以前の調査で仲良くなった父さんの同僚の名前をあげた。

「あー、クリスは別の村の担当になってるんだ。

 出発時期もずれているから今回は会わないかもな。

 今回はアランが後から合流することになっている。

 ケンはアランに会ったことあったか?」

「いや、ないよ」

「そうかクリスと同期の奴なんだが、あいつらは仲が良いからきっとケンとも仲良くなれるんじゃないか」

「ふーん」

「クリスと一緒じゃないからって拗ねてすねているのか?」

「そんなんじゃないよ、まだ会ったことない人のこと聞いても興味が持てないだけだよ」

「そうか、まぁ今回は今までより長いから友達にちゃんと挨拶しておけよ」

「いつもの事だから、オタリアに行く事だけ伝えるよ」

 そう言って俺は食べ終わった食器を台所へ下げに行く。

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