第121話 女神への悪戯(いたずら)
丈二と八木の悪巧み。
その会話を見た若月の顔は、すぅーと忌物が落ちたように何時もの少し呆けた女の子に戻っている。
彼女特有の「暗殺家系」で植え付けられた『歪』モードは消えており、スッキリ出来なかったこの映像の顛末も、最後の起こる悪巧みに心躍らしている。
(……と、言うことは、多分ですけれど、私達がこのお話を見ていることを?)
若月は、ふふふと笑い、恐らく待っているサプライズに気が付かないフリをする。
一方で、黒猫のツブリーナは、彼女へのサプライズなんて考えておらず、「じゃぁ、続きを話してやるにょ。」 と、最後のシーンを話し出す。
※ ※ ※
結論から言うと、『悪魔バフォメット』の封印は解かれることとなる。
厳密には、あの森「深き闇の森林」のあの小屋の更に奥にある、「死滅の墟城」にある不毛地帯。
その中心に顔を出すダンジョン……『死滅のフィルムダンジョン』の主として、フィルムの街の近衛兵や冒険者組合に対してのみではあるが、ダンジョンへの進行を許し、第30階層もあるダンジョンの最奥まで辿り着いたツワモノと戦うのを楽しみに過ごしている。
◇
フィルムの街の領主、神殿、冒険者組合、そして……カットレイに憑依した『悪魔バフォメットの魔核』とが、今後のフィルムの街の今後の安寧について、即ち『悪魔バフォメット』の処遇について、話し合われた。
その話し合いは、マリダが旅立つ、あの日から5日後までには結論が出ることはなかった。
オブザーバーとして、あの遠征に参加した『三つ葉』の3人、そしてチーム『みたらし団子』の面々を加えて、話し合いは1か月程度続いたとのことである。
黒猫からは、マリダの顛末を話す次いでとして、その話を簡潔に伝えられた。
現在は、神殿の盛大なる封印魔法、呪法、アイテムを総動員してダンジョン全体を封印し直し、そこへ『悪魔バフォメットの魔核』を持ったライバル「三つ葉」「組合長」、そして、八木とケレースとパスを繋げた「カットレイ」が、封印を解かれた『バフォメットの本体』の場所まで行く。
そこで、『本体』に魔核を返すと、再戦を熱望している『魔核』が、怒涛の“口撃”で、本体を説得してあっさりと融合したのだが、当然その『魔核』の交渉には、丈二の交渉術が施されていたそうだ。
そんなこったで、あっさりと『悪魔』バフォメットは復活することとなる。
そして、悪魔である黒猫ツブリーナと共同で『ダンジョン』を彼らのテリトリーとすると、入口に特別なギミックを施す。
それは、魔力認証システムの導入―――。
領主と組合長の魔力を施したカードを持っていなければ、神であってもダンジョンに入れないという
「八木と女神ケレース」渾身のセキュリティーシステムの実装。
これによって、『死滅のフィルムダンジョン』は、こっそりと「フィルムの街の訓練場」で、「丈二達のアトラクション」と化している。
バフォメットに対する顛末は、大体そんなところであった。
※ ※ ※
では、マリダの方はどうであったのか。
前にも述べたが、その日までマリダは、ベンジーやツブ猫とゆっくりと穏やかな日を過ごした。
バフォメットの魔核と相性が良かったのであろうか? ベンジーの封印術はマリダを日常くらい動けるようにしていたし、マリダ曰く、痛みを全く感じなかったそうだ。
そして、迎えた旅立ちの日。
マリダは神殿に向かう前に、丈二を部屋に呼ぶ。
呼んだ理由は、自分が旅立った後に残される「黒猫ツブリーナ」について。
そこで、丈二は、マリダから黒猫を託される。
丈二は、それを了承する条件として、ふたつマリダに伝える。
・食事や寝る場所の提供はするが、この悪魔の飼い主にはならない。
・暫くの間、丈二の日課に黒猫を付き合わせることを黒猫が了承すること。
マリダはこの場に黒猫を呼び、それを誓約させる。
その日から、丈二のBARに黒猫が居候をすることとなり、そして図書館に通うこととなる。
そして、丈二は「料理友達」として、マリダに何かやり残したことはないか尋ねたそうだ。
それが、あの美しい街を流れる川を眺めながら、美味しいお茶を飲める屋台……丈二や若月からすれば、『カフェ』を営むことであった。
若月と丈二が最初に出会ったあの川沿いオープンテラスのカフェ。
丈二は、この遠征で手にする賞金(カットレイが領主と組合長に更に吹っ掛けて大変な額になるのだが)を翌日ほとんど全てを使い、あの場所を確保する。
その『料理友達の夢』を聞いたとき、丈二は『餞別』をマリダに渡す。
そして、彼女の耳元でゴニョゴニョと小声で話す丈二。
それを聞いたマリダは、目をまん丸に見開いて、ひと言「まぁ……」と言うと、
「ウフフフフ」と楽しそうに笑う。
✿ ❀ ✿ ❀ ✿
別れのとき。
神殿の聖堂で、所縁ある人々と最後の挨拶を交わすマリダ。
地母神オプスと今後のことを脳内で話込む黒猫の悪魔。
そして、最後の言葉を皆に伝え、マリダは穏やかな顔で皆に深々と頭を下げる。
頭を上げたマリダの目線には丈二。
そして、悪戯っ子のようにマリダは片目を閉じて、クスっと笑う。
「時間だにょ……。」
黒猫が小さく言うと、皆が神妙な顔をする。
眼前に女神オプスの黄金像、その周りにケレースを含むオプスの子供達の像のある祭壇に向かうマリダと黒猫。
そして、マリダが片足を付き、祈りを捧げるマリダ。
「にょおおおお!」
目を閉じ、黒猫の悪魔ツブリーナが吠えると……。
黒色の禍々しいオーラが金色に代わり、マリダの体を包む。
フワリッ―と黒猫が宙に浮き、マリダの体も宙に浮く。
―――『どんどん、どんどん、どんどんと輝きが増す光。』
そして、一閃の光が聖堂を飲み込んでいく!!!!!!!!!!
『またね……。』
マリダの声が、聖堂に静かに優しく響く―――。
光が……消えて、何時もの聖堂に戻ると……。
マリダの……姿は、既にそこには……存在してはいなかった。
「行ってしまいましたね。」
誰かがボソリと言う。
「ばぁちゃん、あっちでも元気でやるがね。」
孫のベンジーが静かに呟く。
そして……。
『にょおおおお!』
一回り小さくなった、自らの半身を捧げた黒猫が、フワリ と丈二の手の中に降りてくる。
※ ※ ※
ここまでの映像が『理』に触れるらしく、ここからの話は映像が残っていると女神ケレースが、ノリノリで若月に言ってくる。
若月は(やっぱり……ですね!)と心の中で思うが、気が付かないフリをして映像をお願いする。
黒猫も、にやにやとしているのが可愛らしい。
(これは、盛大に驚かないといけないですね。)と若月の口元は緩む。
◇
「粒猫……記憶は何処まで覚えてるんだ?」
丈二は、慈悲深い目で彼に聞く。
「にょ……女神の計らいで『バフォメット』の力を加えて貰えることになったにょ。だから記憶はそのまま残ってるにょ。でも、だから……ばぁちゃん……。」
少し儚く、切ない目で答える黒猫。
そんな黒猫の頭をワシャワシャと撫でる丈二。
「お? どうやら作成は成功したようだな!!!」
「せやな! 契約通りやな!」
にやにや、にまにまする丈二とカットレイを見て、黒猫は「にょ?」と涙いっぱいの瞳を大きくする。
「ふ、ふっふっふー! ほれ、これを耳にしてみろ。」
「!?」
と、驚く黒猫の耳元に、さっきまで聞いていた……もう聞けないと思っていた女性の声が聞こえてくる。
『つぶちゃん? 聞こえるツブちゃん。ありがとうね、呪いは消えたよ。』
『え? ばぁちゃん!?』
『そうよ~♪ 丈二さんの悪巧みでね~、ウフフフ。『耳栓』こっちに持ってきたの♪』
『にょ!?』
『理、理、うるせぇーんだよお! こちとら仲間の老人ひとりと、1匹の悪魔が命を懸けてんだあああ!』
『馬鹿め! この八木君の現代知識とじょっちゃんの権能パワーを舐めんなよお!』
『いやなぁ、まさか「異世界」ゆうんか? そっちの世界と「耳栓」通じて『脳内会議』が出来るなんてなぁ、おねえちゃんびっくりやでぇ~!? これ、女神はんも想像しとらんかったとちゃうか?』
『何にせよ、「理」の裏をかけたのなら大成功だ!
何時でもマリダさんと話はできるぞ! 『ざまあみろ!!!!』だあ!』
舌を出し、中指を立てる丈二。
力瘤を作ったり、ガッツポーズをするチーム『みたらし団子』の面々が、
『ざまあああああああみろおおお!』 と女神像に向かって叫ぶ!
◇
その映像を見て……若月は片目から涙を流しながらも、彼女も笑顔で中指を立てて笑う。
そして……優しく、穏やかな声が、若月の耳に聞こえて来るのだが、これは若月の想定内であったようで、彼女は「クスリ」と笑うと、ビックリとしたような顔をしてその声に答えるのであった。
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