第119話 悪魔と人の祭りの後
女神ケレースの力を借りて、黒猫の悪魔ツブリーナは丈二達一同に今起きていること、今から起こすことを丁寧に説明することになる。
その前に黒猫は自分について、簡単にだが説明をする。
組合長のシトラウスは、黒猫が話すことに特に驚きはなかった。どうやら知っていたようだ。
何とか歩けるまで疲れが回復した『三つ葉』の面々、ローズヒップ、ライティア、フリージアも、バフォメットとの戦いを経ていることから、可愛い~と、途中から頭を撫でる始末。
その、組合長と『三つ葉』タッグにリベンジしたい悪魔バフォメットの魔核は、カットレイが手に持っていて、驚いたことに彼女はバフォメットに時折自分の体を貸して、彼にも会話へ参加させていた。
黒猫が伝えたことは、女神との契約について概ねすべてを伝えている。
マリダがこちらの世界で死ねば、忌々しい『ゼアス・ピオン』が彼の能力でマリダを奪い、死人となっても、自我が与えられているラスルトがスキル「カニバリズム」を使いマリダの血肉を食らってバフォメットの本体を手に入れようとすることは間違いなく、それを女神も好ましく思っていないこと。
ただ、それはこの世界では自然の摂理でしかなく、女神は直接介入出来ない。
だから、地母神として『世界樹』に所縁のある、こことは全く違う世界にマリダを転移させることで、彼女にかかった『呪い』は、そもそもその理論が存在しないため消滅させることができる。
それをすることで、この世界もマリダも救えるという説明を、まず行った。
丈二や八木は、そのことを『迷い人』として理解できる。
バフォメットも納得しているようで、現状一心同体となっているカットレイも、そこは分かったようだ。
神官長は、逆に地母神女神オプスのご加護を目の当たりにしている訳で、両手を胸元で繋ぎ天に祈りを捧げている。
その話を聞き、一時の呪いの負担を黒猫に任せたマリダも、顔に精気が戻ってきており、寝たままではあるが、手を胸元で繋ぎ目を閉じている。
それの姿を見ながら、黒猫は悲しい顔をする。
恐らくは、これから伝えることを聞くと彼女は反対をするし、拒否をするのだろう。
ただ、もうこれは、黒猫の悪魔と地母神の女神とで契約がなされたこと―――。
彼女の意思は、もう何の意味を持たないのだ。
(ばぁちゃん……怒るんだろうにょ。)
黒猫は、それでも言わなければならないと、奥歯をぎりりと噛み締める。
◇
「ばぁちゃん、怒らないで聞いてほしいにょ。」
「うぅん? どうしたんだい?」
「今の説明の通り、ばぁちゃんは別の世界に旅立たなければならないにょ。」
「心配してくれているのかい? そりゃ知らないところに行くのは不安だけれど、女神さまのお力で健康な状態でその世界に行けるんだろ? 何の問題もないよ。」
「そうにょ……。でもにょ、それには対価が必要にょ。それを僕が担うことに決まっているにょ。」
「んんん? どういうことだい? まさかつぶちゃんの命なんて言い出すんじゃないわよね?」
「死ぬことは無いにょ。でも……。」
「でも?」
「僕の半分が、ばあちゃんの行く世界とは、更に違う世界に行くことが条件となったにょ。」
「半分って?」
「僕は悪魔にょ。その一方で様々な世界を流浪する存在にょ。それもあって、女神の力を借りれば体をふたつに分けることが可能にょ。それだけのこと……にょ。」
「残りの体はどうなるんだい?」
「それは、ここに残るから心配しないで欲しいにょ。」
「半分になっちゃうてことは、つぶちゃんの存在、命に影響はないのよね?」
「記憶と力は半分になる……にょ。寿命という概念は僕にはないので、そこは安心して欲しい……にょ。」
「それって、全てが半分になっちゃうってことよね? 私のためなら……いえ、この世界のために貴方がそこまで背負う必要なんてないのよ?」
「ごめんにょ……、それでも僕はばあちゃんには、幸せに天寿を全うして欲しいにょ。正直この世界はどうでもいいにょ。それにただ……。」
黒猫は丈二の方を見る。
女神ケレースから自分と八木、そしてケレースの関係性を聞かされ、そして、黒猫がその役目を担わなければ、ケレースしかその役を全う出来ないことと、その意味を聞かされていた丈二は、何も言えずに目を剃らす。
それを見てマリダは、それが何を意味するのをは悟ってしまい、黒猫の覚悟と優しさを尊重することにする。
「そうね……。女神さまも含めて、ここまでしてくれるこのお話をこれ以上拒んではいけないわね。」
「ばあちゃん……。」
「私はこの世界に後どれだけ居ることが出来るの?」
マリダが、黒猫ではなく『丈二』に聞く。
死を覚悟し、この奇跡を受け入れた老人には、隠し事は出来ないなと丈二が口を開く。
「俺に繋がりのある女神はオプス様じゃないですが、近い女神が言うには5日程度だそです。ただ……呪いの影響次第では早まるかと。」
「そう……。なら一度お家に帰ることが出来るわね。」
「つぶちゃん申し訳ないけれど、もう少しだけ呪いを受け止めておいてくれる?」
「こんなの屁でもないにょ。僕がずっと受け止めるにょ!」
◇ ◇ ◇
泣きじゃくる黒猫を見て、カットレイ……いや、バフォメットの魔核が笑う。
「ハハハ、人間と悪魔のこの関係もおもしれぇな! おい、糞猫。忘れるなよ? その『呪い』は俺の一部のようなものだ。そこの忌々しい神殿の人間が片目瞑ってくれるっつーなら、俺がその時まで肩代わりしてやるよ。」
「お……お前なんかに、ばあちゃんを任せられないにょ。」
「まぁそう言うな。その代わりの条件ってのは当然ある。おい! エルフと女3匹。俺はお前達との再戦の為に今存在していると言っても過言ではない! この5日間は、俺に会いに来て色々戦いの話をしようじゃないか!」
バフォメットが憑いたカットレイが、ニヤリと笑い、組合長と『三つ葉』を指さす。
それを聞いて、特に『三つ葉』の戦闘狂が目を覚ます。
「いい度胸ね! いいわ。分かった。約束する! でも戦いの話をするだけではダメね。どうしたら、人間に迷惑を掛けないように、あなたを完全復活させて、本気の戦いが出来るか私達と考えるのよ! 流石に組合長は立場があるから無理でしょうけれど、私達は自由な冒険者。好きにさせて貰うし。」
握手を交わす『三つ葉』のリーダーローズヒップとバフォメットが憑いたカットレイ。
再びニヤリと笑ったバフォメットは、カットレイに体を返す。
「おもろいなぁ、自分ら。羨ましくもあるわ。わしはこの悪魔が気に入ったさかい、明日からの悪だくみ同席するでぇ?」
そう言って、魔核をマリダに渡す。
綺麗なワインレッドの魔核は、一瞬紅く光り、クリムゾンレッドになる。
「これでマリダはんも大丈夫そうやな。組長はん、こんな鬱蒼とした場所に長居は禁物や! それに忘れんなや? わしらチーム『みたらし団子』は所詮駆け出しの冒険者やで? 限界や、げ・ん・か・い!」
カットレイはそう言うと、そそくさと必要なものを手に持ち引き上げる準備を進める。
それに呼応するように、この戦いに生き残った面々も荷物をまとめ、この忌々しい「森の小屋」を再び封印をして後にするのであった。
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