第116話 脳内人魔一蓮托生
『俺たちの命を賭ける『覚悟』?』
丈二は、その言葉の意味が分かっていなかった。
銅鉱山での戦い。
追い詰められた丈二を救った協力者『八木』と『女神ケレース』。
このふたりが突如現れて、自分の権能である「万科辞典」のアップデートと、いわゆる『脳内会議』と『情報検索』を使って、八木が丈二を窮地から救ったあの出来事。
その裏で起きていた八木の試練とケレースの分体との契約。
その事実がここに来て、初めて八木から伝えられる。
『な!? お前も『あれ』を経験したって言うのか!』
『うん、まぁ成り行きで? それでケレたんを娶った。』
『思い起こせば、あの時のお前たちの疲労感と、ことある毎に俺に『マナの補充』と言っていたのは……そういうことだったのか。』
『そっす。とどのつまりは、こっちの『マナ』がない世界では、あたしが何かするためには『マナ』の補給が必要なんっす。おかあさま、おとおさまとの約束もあって、最低限の『マナ』しか分け与えられていないっすからね。』
『理解はしたが……それで命を懸けるってのは?』
『ふたつあるっす。ひとつは「箱庭」に帰るためのマナの補給っす。じょじさんの今のマナを考えるとぎりぎりっす。まぁこれは『痛み』に耐えて盛られれば多分クリアっす。問題は……。』
ケレースは悲しくも切ない目で八木を見つめる。
『問題は、おかあさまの答え次第では『あたしは消滅』するっす。実際は『本体』に戻されるってことっすけど。その場合……。』
『契約が不履行になって、僕も消滅するってことだよね? そして、僕と契約しているじょっちゃんも……恐らく同じ……かな?』
『流石じんじんっす。その通り……。いいっすか? その何とかなるかすら未確定で、場合によっては皆でドロンな賭けに命を張れるかってことっす。』
『……。』
即答が出来ない丈二は、自分が歯がゆい。
たった今、同じ分体として消滅してしまったサニーが事実として「消滅する現実」を彼に植え付けてしまっていたし、また、そのサニーが自身のスキルで「死に返り」で戻ってくることは分かっていて、彼女との約束を果たす契約と義務を丈二は負っている。
彼女が居ない今、そんな無責任な決断をし難い自分が居て、決断を出せない。
『助かる見込みがあるなら、戦ってみろ人間―――。俺のこの魔核「コア」の力を多少貸してやる。』
頭の中にバフォメットの意思が語り掛ける。
『ひっぐ……僕からもお願いするにょ。こいつと話していて、ばぁちゃんが自ら制約を掛けて『悪意』を抑え込んでいる以上、僕達ではどうにもならないにょ……。それにもう、ばぁちゃんには僕の声が届かないにょ……打つ手がないにょ。僕も背負えるなら何でも肩代わりするにょ。お願いにょ!!!』
か弱く泣く黒猫の悪魔……。
『なぁにいちゃん。今の話聞こえてしまってんけどなぁ。よーするに八木はん、ケレースはんは、命を懸けてあの時にいちゃんとワシを救ってくれてんで? それに慈悲深い地母神様のところに行くんやろ? ワシが言うのもあれやけど、ワシら脳内会議で今繋がってる面子で一蓮托生してみるってのはどうや? ワシも命懸けるさかい。』
『カットレイ……お前。』
『さっきの悪魔との戦い、ワシは半分戦いを汚したと思ってるんや。自分でもダサいことをしたと思っとる。後悔はないけどな? でも、そんなワシを許してくれた、認めてくれた『悪魔』が自分の命を張ってもええ言ってるのが感動してまってなぁ。』
『だな……。あの地母神が、あの慈悲深い瞳が救いの手を差し伸べないとは思えない。だろ? 堕女神。』
『はぁ……あの人の怖さを知らないから……とも思うっすけど、確かにその通りっす。それにこの『脳内会議』はある意味参加者全員の『パス』を繋いでいるようなものっすから一蓮托生は助けになるかも知れないっすね。』
『決まりだな!』
『それでは、最初の覚悟を決めるっす。あたしが行って戻れるだけの『マナ』を頂くっすよ?』
『『『『おう!』』』』 『にょ』
その返事を合図に、ケレースは八木に熱い口付けを交わす。
それにより訪れる苦痛、激しい痛みが彼等の身体を駆け巡る―――。
だが、それは八木にしてみれば、何時もの1/5の痛みで、その痛みの軽減に八木は『ここ』に集うもの達の優しさみたいな温かさを感じていた。
……とは言え、マナが残り少なく満身創痍な丈二とカットレイは、仲良く金縛りのように動けなくなってしまうのだが。
『これで、行って帰って来るだけの「マナ」は補充出来たっすね……では。』
―――止まる時間、感覚だけのような静止世界。
ケレースの感覚に精神だけが一緒になり、動かない身体。それは、こっちの世界もあっちの世界も等しく起きている現象―――。
丈二や八木からすれば、永遠を感じる絶望の暗黒世界も、女神には一瞬の出来事。
そして、辿り着く始まりの場所『箱庭』。
女神ケレースの分体の、ある意味ひとつの国を救うかも知れない、ひとりの老婆を巡る「真の女神オプスとの『謁見』」が始まろうとしていた。
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