第115話 死に返り『分体復活』~サニーの決断~
◇
「あぁーおしかった! 結局は悪魔といっても移り気な存在。最後の従順なる悪意だけ切り離して、その猫を乗っ取ってやろうと思ったのに!」
「お前の……仕業なのか?」
丈二は、下から覗き込むようにゼアスを睨みつける。
「欲しいのは悪魔だからね。その意思の増殖・切り離し、僕の死霊に降霊と、それで全ては僕に平伏すはずだったんだ。まさか、あの糞兄貴についていた意思が……貴様ら如きとの戦いに感化されやがって。」
壊れたおもちゃを見る子供の死んだ目でジアスは言う。
「ということは、お前といた意思が裏切ったと?」
丈二は、辛うじて怒りを抑え交渉術をONにして話す。
「流石は僕の……というのも変なのだけれど、最後の最後まで、あの意思のひと欠けらが抵抗していたけどね。それが、どんどんと憎しみが開花していったんだ。ちょっとだけ手助けをしてあげて、切り離してあげたんだけど、僕もここまで来たら目的を果さないと大損じゃない!?」
交渉術が効いているのであろうか、饒舌に語り始めるゼアス。
「それは知らんけど、結果的に黒猫狙いに切り替えたってことか。」
「コレクト!」
◇
「そんなことの為に……ばぁちゃんをこんな目に……にょ?」
黒猫の黒いオーラが酷く『歪』んでいる。
「おい!」 「いいね!」
そのオーラの異変に眉をひそめる丈二と、嬉しそうに指をパチンと弾くゼアス。
その反応の違いが、黒猫の危うさを物語っている。
全身を歪ませるような黒いオーラがアメーバのように形を変えてうねり出し、ゼアス目掛けて放たれる―――。
「―――いけない!!!!」
マリダが、再び黒猫とゼアスの間に割って入る。
「にょっ!!!?」
自我を取り戻す黒猫であったが、半個分ズラスのが精一杯であり、それはマリダの体をカスめる……。
「ぐっ……。だ…大丈夫よ? 大丈夫だから。」
フラフラとよろめき倒れるマリダ。目を見開き瞳孔が開く黒猫―――。
―――ぐわあああああ!
その後方……半分が直撃し悶絶するゼアスに粒猫は目もくれずマリダに泣きすがる。
「ぐぁ……流石に、悪魔の本来の負の力。なかなか来るねぇ。だがこの感情――これだよこれ! ハハハハハ!」
苦痛に耐えながらも笑い叫ぶゼアスに、丈二は冷たい目線を送り呟く。
「その余裕も含めて消えてなくなれよ!!!!」
入口から迸る強烈な光の槍! 小屋の封印に意味をなさないことを悟った神官長の怒りのイカズチがゼアスの身体を直撃する!!!!!
ゼアスは、その衝撃で手に持った、バフォメットの『魔核』を放す。
―――サニーはそれを見逃さない。
よれよれの身体ではあったが、ぐぐっと力を溜めて垂直ジャンプから空気の壁を蹴り『魔核』を口でキャッチする。
口を横に振り、カットレイに『魔核』をパスし臨戦態勢に戻るサニーであったが、再びゼアスを見て彼女は衝撃を受ける。
ゼアスのイカズチで射抜かれた半身が崩れ落ち、禍々しくも膨張している。
そして、足元にはキャスリングの魔法陣―――。
―――ヤバいッ!!!
サニーは全身を拡大させて全ての魔力を身体に集中させ叫ぶ―――!!!
《ご主人様、皆さんと外に! これは自爆型のスキルです。私が盾になりますから! 早く!》
《サニーさん!? 何を……。》
《私なら、『分体復活』の固有スキルがあります! 急いで!》
《で……でも。》
「ほんま、にいちゃんも余裕がないんやな。痛いで!?」
カットレイが、くるりと回転して後ろ回し蹴りで丈二を小屋の外に吹き飛ばし、盾スキルシールドダッシュを使って、マリダと放心状態の黒猫を抱えて壁を突き破る。
◇
残された小屋の中、キャスリングで逃げるまでの間、ゼアスはサニーに向かって言う。
「考えてみれば、君が一番イレギュラーな存在だったよね。一歩引いていて、彼ら、僕らの物語に極力干渉しない節がみられた。」
グルルルルル―――!
唸るサニーに、ゼアスは話を続ける。
「ん!? あぁ聖霊の類なのかな? 興味があるが……今は僕も瀕死な状態だからね。それに、君ならわかっているだろうけれど、僕の育てた悪意を喰らった神殿の神官なのだが、当然その位置は把握出来るから、死んら僕は迎えに来るよ? あれは、恐らくはバフォメットの封印を施した聖人のひとりだからね。これは、おいしー展開になったもんだ!」
サニーとのパスを通じて、丈二も八木もゼアスの言葉が届いているが、外まで飛ばされるようなカットレイ渾身の蹴りで、丈二は身体がまだ思うように動かず何もできない……。
「僕の存在が公になるし、使いやすい状態でのジアスやラスルトは失ってしまったけれど、僕はネクロテイマーだからね。あの婆さんが手に入る確約が出来ただけで、今日は由としておこう。」
魔法陣が光、スッーと消えていく瀕死のゼアス―――。
『それに、悪魔を使役する『夢』は、婆さんが手に入った後に、ゆっくりとバフォメットの本体を復活させればいいだけだしね―――フハハハハハッ――――――。』
そのゼアスの去り際の言葉を最後に、丈二達の脳内から、サニーとの繋がり……パスが途切れる。
◇
小屋の中から、弾ける爆発とその怒号。
サニーに守られてなのであろう、その爆発の余波は入り口と正反対の方に向けられている。
――――クソッ。
バフォメットとの意思との共闘は、その目的は狙い通りであった。
倒すべき奴らも、結果としてゼアスを瀕死にし撤退させたたことを考えれば、『倒せた』と言ってもよいのであろう。
だが、最後にあいつが言い放った言葉……。
ゼアス・ピオンは、深手を負って回復の時間が必要となっただけ、ジアスも元々は死んでいたため、そこに転がっている死体がなくとも自分の手の内で復活させる術を持っているのであろう。
ラスルトについても、結局は奴が生命を捨て死人になっただけで、奴自身の自我もスキルも形を変えているかもしれないが、それはラスルトの望みであり、ゼアスにとっても「ラスルトが領主の息子として都合がいい」部分がなくなっただけである。
一番の成果……なのか、バフォメットの『魔核』の中で、彼らの意思が統一されこちらとの共存を手にしたことなのであろうが、それも、ある意味『マーキング』をされたマリダが死ねば死人となり奴の手の中に落ちる。
……この事態を報告したところで、封印されているバフォメットの封印を、国が、領主が、神殿が認めるとは思えない。
状況としては、こちらも形を変えただけで、このままではゼアスの目論見の通りで終わる。
その敗北感と、復活をすることを知っていながらもサニーを犠牲にした喪失感、そして何よりもお隣さんでこの遠征で好意的に思えた老婆のこの姿……、奇しくも『悪魔』である黒猫の、この老婆を思って泣きじゃくるこの姿がたまらなく遣る瀬無い。
何かできるなら何かをしたい。事態を好転させなければ……。
このままでは、異世界に迷い込んでしまった自分が見つけた『居場所』が無くなってしまう。
「ばぁちゃん―――。ばあちゃん。どうしてにょ……。いずれにしてもこれじゃぁ。」
聞こえてくる黒猫の声に胸が詰まる。痛い。
だから! 泣きじゃくる黒猫を見て丈二は脳内で叫ぶ―――!!!
◇
『おい! 堕女神!! 何とかならねぇのか! お前達の世界だろ!? これじゃ……流石にあんまりじゃないか?』
そのひとことで、顔付が変わる女神ケレースの分体。
そして、意を決したように丈二と八木に『覚悟』を問う。
『何ができるかはわからないっす。でも……今からおかあさまの所に行ってみるっす! そのためには……。』
『あ? そのためには何だって言うんだ?』
『そのためには……じょじさんとジンジン、そしてあたしの命を賭ける『覚悟』。それが必要っす。』
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