第114話 悪魔意思の戦いの決着と狙い

 ネクロテイマーであるゼアス・ピオンに憑いていたバフォメットの意思は、自身の存在の根源のひとつの意思である『魔核』とのファーストコンタクトを楽しみであった。


 自分が『魔核』の意思として覚えているのは、「退屈」であり、「完全体」への帰還願望。


―――今俺は、その二つを満たす相方を見つけている。さぁ大本の俺の意思よ! 俺にその意思を委ねよ!


 その思いで、触れる懐かしい自分の『魔核』。

 その瞬間に、向かい合うバフォメットの意思達。


(おかしい! 何だこの俺に対する敵意と嫌悪感は!)


 近づく、余りにも巨大な真のある意思にゼアスに憑いているバフォメットの意思は恐怖を覚える。


「ちょっと待て! 俺は俺達の救世主だぞ? 敵意なんてものはない。」

「……。」


「俺の話を聞け。」

「……わかっている。お前は俺から分かれた意思だからな。」


「はぁ? どいう……。はっ! お前はまさか!?」

「あぁ、せせら笑っていたんだろうな。お前が生まれたジアス・ピオンに憑いていた意思だよ。」


「そう言えば、外で戦っていたんだっけか? で、負けたのかお前? そんなお前が『魔核』に戻って意思を統一して、俺に敵意!?」

「……。」


「おい! ゼアスに憑りついている俺だぞ!? ジアスに居た俺の『元』なら分かるだろ? 俺に委ねれば全てが上手くいく! そうだろ?」

「……そうはならん。だから俺は『魔核』と対話したんだ。そして俺の考えに賛同を得て今がある。」


「は!? 退屈だったんだろ? 本体に戻って完全に復活してえぇんだろ!!!」

「ああ、だからだよ。」


「あぁ?」

「あいつのゼアスの考える末路は、あいつに就いた俺の未来では―――俺はもう満足できねえ。」


「訳がわかれねぇ……。」

「ならば、俺の意思に触れ、お互いの意思を共有してみろ。それで分かる……。」


―――触れ合うふたつの意思。

 結果は一瞬で決着が付く。



 ※ ※ ※


『ふんにょ。どうやら決着が付いたようにょ。』

 黒猫の悪魔ツブが目を細めながら、光り輝くバフォメットの『魔核』を見る。


『そうなのか? 確かに光の輝きが澄んだように感じるが。』

 丈二もその『魔核』の雰囲気の違いを感じ取っている。


『でも、どちらが勝った……というのは分からないんだよね?』


 八木はその行く末によって、対処する方法を2パターンで練っていた。

 それは、当然女神ケレースの分体もそうであって、そのパターンに合わせた行動資料を作っているのであろう、ふたつの「カタカタカタカタ」とうキーボードを弾く音が『脳内会議』に響いている。


『そうだにょ……。僕はあの山羊が勝ったと信じたいにょ。それに……。』

『あの不快なゼアスの笑い声が……止まったちゅーことかいな?』


 ◇


『にょ。』

 更に目を細め鳴く黒猫の悪魔。


《おい! 山羊顔! 終わっているんにょ? 結果を報告するにょ!》


《………ぁ。》

《にょ? 聞こえないにょ!》


《こ……この糞猫! そのそこから離れろ! 狙いはお前だあああああ!!!》


 放心状態のゼアス・ピオンの胸元から巻き上がるどす黒い靄―――!

 プツンッ――と耳元で鳴った瞬間に、それが黒猫に向けて襲い掛かる!!!


《にょ!?》


 尻尾を振りそれに対応しようとした黒猫であったが、彼の魔法が何かにかき消される。

 どさりと崩れ落ちる何か……。透明化していたカメレオンが姿を現しその首が落ちている。


『や……やばいにょ!』


 対処が出来ない訳がないと思った黒猫の傲り。ここに来ての痛恨のミス―――!!!




「――――――ツブちゃん!!!!」




 黒猫のツブを守るように……必死に子供を守るように……。

 老婆……マリダが黒猫に覆い被さる。


「ばぁあちゃん―――!!」


 マリダの身体に吸い込まれていく黒い靄。


《すまん。あれは最後まで俺の意思に反発した出がらしだ……だが、恨みの色が濃く切り離された時のそれは……呪いに等しい。》


《な! お前それを止めれなかったのかにょ!》


《狙いは同じ悪魔のお前だ糞猫。あわよくば乗っ取るつもりだったようだ。》


《……そんなことよりも、ばぁちゃんを救う手はないのかにょ!?》


「ぁ……ぅ……ごめんね、ツブちゃん。この悪魔の欠片みたいな子……解放せないわぁ……。」


 マリダは自らの聖魔法を自分に覆いその『呪い』と言われた靄を抑え込む。


「ばぁちゃん! 大丈夫にょ! それを僕に渡すにょ。僕はこれでもそこらの悪魔より格上にょ。」


 涙をいっぱいに貯めて、マリダを揺するその手は、聖魔法にあてられて火傷のように炎症となっている。


「ダメ……よ? そんなことをしては。可愛いツブちゃんの手が……ほら、こんなじゃない……。」


 聖魔法を右手にのみ込めなおし、マリダは左手で黒猫を傍らに移動させて頭を撫でる。


「ば……ばぁちゃん。ばあちゃあああん。」



 泣きじゃくる黒猫と、弱弱しい声でその猫をなだめるマリダを、恨めしそうに見る目。

 電池の切れた人形のように固まっていたその男ゼアス・ピオンが、仰け反っていた上半身を、ぐぐぐっと起こし、せせら笑いながら口を開く―――。


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