第113話 悪魔の意思達の駆け引き
バフォメットの意思はまず、自分の「魔核」と対話する。
ゆっくりと、休眠をしているかのような「俺」を優しく起こすように語り掛ける。
「戻ってきたぞ俺の「魔核」。」
「おお、珍しいこともあるものだな。「魔核」の俺に戻ってくるなんて。」
「ああ……。色々あったんだが面白いことに面白いことが上書きされてな。」
「ほう? それでここ戻ってきた? というのは些か理解に苦しむが?」
「実はな―――。」
バフォメットの意思は、自身の「魔核」の意思にここまでの出来事を共有する。
時間にして1秒にも満たないお互いの意思の共有である。
「なるほどな……確かに面白い出来事だ。俺としては混沌で狂っているネクロテイマーが面白いとは思うところではあるが、この人間達と黒猫の悪魔との関係性や戦いの高揚感は確かに……。」
「何物にも代えがたい……だろ?」
「ああ。」
「それで、分かっているとは思うが、決断は迅速に――っとなる。」
「それは感じている。お前が戻ってきたことを切っ掛けに、ここへの道が示されてしまったようだしな。」
「ああ。不本意ではあるがな。」
「なぁに! ある意味で「魔核」としての封印が解けるんだ。やりようはある。」
「俺的にはその部分も含めて、あの好敵手達へのコンタクトであったし、あいつ等の戦いへの好奇心は同類と確信している。だから俺に乗ってくれないか?」
「うーむ……。」
「それが、再び本体と「魔核」がひとつになる最後のチャンスだと俺は思っているのだがな?」
「それは叶ったとして、本体の封印を人間は解くとは思えないのだが?」
「そこは俺に考えがある。実は―――。」
バフォメットの意思は、最後のステートメントとして「魔核」の意思に、思いを込めて伝える。
※ ※ ※
―――フハハハハ!
不敵に笑うゼアス・ピオンが、いい加減気持ち悪いとカットレイは心の中で突っ込みを入れるが、如何せんここは自分を許してくれた「悪魔」の漢の見せ所、その狂った笑いを嫌悪感丸出しの顔で見つめる。
『何やけったいやな。笑い出して5分やで? なんなん?』
『恐らくはゼアスの中にいる「バフォメットの意思」が笑っているにょ。ほれ見てみるにょ! 下から「魔核」が上がってくるにょ。』
『あれが悪魔の「魔核」なのか? すげえな。マジでデカい宝石で……美しい。』
『まぁあの山羊頭もそこそこの悪魔にょ。そして生命力が高い方の悪魔にょ。生きる力が強ければその輝きは美しいものと相場は決まっているにょ! お前達人間だって似たようなものだにょ?!』
『良く分からないが、命を懸けて必死に戦う奴は、気高く生き方が美しいみたいな感じか?』
「だにょ。でもって、そろそろ……あっちの意思と意思の戦いが始まるにょ。」
◇
ゼアス・ピオンはネクロテイマーとして、死体を操り使役する。
彼の得意とする死霊術は、その者との親和性にも依るが、生前の意思をその死体に付与することが可能なこと……それは特質すべきことで、他のネクロマンサーや帝国にいるもう一人のネクロテイマーと異なるところであった。
故に「死体に意思がある」という状況を尊重する気持ちが強く、勿論、従者としてそれらを縛るのことをするのだが、『対話』ということは彼にとっては普通であった。
それもあってであろう。
彼は「バフォメットの意思」を自分の中で育って行く様を常に見ており、その意思を尊重していたし、対話をしている。
歪んでいる彼ではあるが、相手を尊重する精神は常に持っており、だからこそギムルの町で冒険者をしていた時も関わる人々の考えを尊重してはいた。まぁ下手に見ていたし、結果として彼等に絶望するのであるが。
だが、そのリスペクトを根本に持つゼアスは、育っていくバフィメットの意思の考えを尊重し、結果として同意する。
彼の中にあるバフォメットの意思の思いの丈―――。
自身の身体を完全なものにすることと、こんなにも長い間自分たちを閉じ込めた人間への復讐。
奇しくも、直接的に封印をして来た領主については、ラスルトが先程死んだことで、現状の子孫繁栄を絶ったこととなり、領主が高齢と考えると実質上潰えたこととなる。
後は、神殿である。
それももう直ぐ叶えてやることが出来る。
このバフォメットの心臓とも言える「魔核」「魔核」をこの意思が取り込めば、自分のネクロテイマーの力を持ってすれば、何とかなる。
その先、神殿の強い力を持つ人間の死体を手にすることで、自分の力とラスルトの力を駆使すれば、バフォメットの封印を完全に解くことが出来るであろう。
それもあり、ゼアス・ピオンは疑っていなかった。
彼に憑りついている「バフォメットの意思」が、魔核を取り込むことを確信していた。
まさか、自分の弟「ジアス・ピオン」に憑りついていたバフォメットの意思が、戦いの高揚と好敵手に魅了され、既に「魔核の意思」をも取り込んでいることを―――。
※ ※ ※
自分の「魔核」についに辿り着いた「ゼアス・ピオンに」憑りついているバフォメットの意思は、ゼアスの身体を使い、不敵に笑い続けていた。
ゼアスという同志を得た今、完全なる俺の復活は決まったようなものだ!!
まずは人間を滅ぼしてやろうか? 兎にも角にも面白い同志ゼアス・ピオンとの共闘を、まずは俺の意思達に教えてやろう。なんせ奴らは暇を持て余していたはずだ。
この刺激、この狂った思想、共有してやるから存分に楽しめ!
そう思い笑い続けること5分が過ぎたであろうか―――遂に「魔核」が顔を出し、その意思に彼は触れることとなる。
それは、思いがけない自分の意思との戦いの幕開けとなるのだが……。
高笑いをする彼には、当然知る由もないこと。
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