第111話 対人間同盟人間×悪魔
マリダにイヤフォンを渡され、ゴクリと唾を飲み、黒猫は恐る恐る脳の中で思っていることを口にする。
今し方、悪魔同士で思念による会話をしたばかりだ。いやそれは今も続いているであろう。
それなのに、いざ自分達とは違う方法で、尚且つ、今多少なりとも恐怖を感じている人間との脳内での会話である。
悪魔であっても怖いものは怖い。
黒猫が、小屋の結界が解けた時に感じたラスルトへの恐怖、バフォメットが自分の処遇について、今現在感じている恐怖。
これらは、悪魔同士では感じたことのないもの。
人という、弱くて脆弱で、愚かで、馬鹿で、それでいて……狡猾で抜かりなく、嘘つきで欺いて、無慈悲で無自覚で、何よりも自分本位で自分勝手な生き物が、たまらなく怖い。
半面、この悪魔の意思は、たまらなく好きになってしまっていることが御し難い。
だから、祈るように……、僕の、俺の、俺達の好きな方であってくれ! 祈る2人の悪魔。
◇
「き……聞こえるかにょ? こいつを倒すことで話がしたくて、ばぁちゃんにお願いをして『お前ら』に話してるにょ。」
自分の声が震えていることが分かる。
一体僕は誰と話しているんだろう……その恐怖もプラスされて声が引きつっているのも分かる。
「大丈夫よ。この人たちは大丈夫。」
マリダ婆さんは、震える黒猫を見て優しく背中を撫でる。
「お? お前ツブ猫か? さっきは助かったぞ。ありがとな!」
「なんや? その黒猫がしゃべってんのかいな? さっきから喜怒哀楽激しくて、ホンマ人間らしい猫の悪魔やでぇ君。 今度、魚食わしたるさかい、ここ踏ん張ろうなぁ!」
「あー。てすてす。こちら異世界の天才サポーター。黒猫どうぞ?」
「あーてすてすっす。同じく異世界に居候中の女神ケレースっす。悪魔しばくべしっす! 嘘っすよ。きゃっは~!」
「な……なんなんにょ? ば……馬鹿にしてるんかにょ?」
「んな訳ねーだろ? 命の恩人だ。こうして脳内会議に参加してくれてるのを歓迎してんだぞ? みんな!」
「……時間がないにょ。信じていいのかにょ?」
「らしくないっすね。ずっと『見てた』っすよ? ここにいるメンバー誰も君を敵だの悪魔だの思っていないっすよ。」
どの世界でも、悪魔と呼ばれる存在の天敵である女神が、誰よりも優しい言葉をかけるてくれている。
この時、ツブ猫はこの場に女神がいることなんて知らなかった。
だから、この声の主が女神であることなど知る由もないのであるが、そこは八木が「交渉術」をONにするよう丈二に依頼済みで、黒猫はそれを受け入れる。
「すまなかったにょ。取り乱したにょ。まず、言わなくちゃいけないことがあるにょ。僕は今、先程外で倒されたバフォメットの意思と話しているにょ。」
「え?! まじかあああ! あのバトルジャンキー?」
八木が疑いもなく、喜び爆発の声で確認をしてくる。
「わあ。あのあたしの殺法で負けた悪魔っすね! ナイスファイトでしたっす。 って、要は思念で会話している最中ってことっすよね。 ちょっと待つっす。」
ケレースが何かを思いついたように八木とゴニョゴニョ言っている。
そして……。
「ほい。チャンネル更新。てすてす。バフォメットさん。先程はナイスファイト! いい戦いだったー!」
八木がおもむろにバフォメットに向けて話し出す。
「な? 何だこれは! 先程の戦い? お前の声なんて知らないぞ!」
バフォメットの意思は、黒猫の思念を通して聞こえてくる声に驚く。
「あー。あの時の戦いな。僕らもこの交信術でサポートしてたんだよ。だから戦友!! ナイスファイト!」
八木がとってもとっても嬉しそうに言う。
「良く分からないが、あのエルフの雄に見え隠れしていた得体のしれない存在……なのか?」
「「イエース!!」」
「あ……なぁ、バフォメットはん。さっきはすまんかったな。あの戦いに水を差したのはワシや。『三つ葉』のねぇちゃん達にエルフの組合長はんが気が付かないタイミングで、スキル発動して底上げしたねん。気にしとってん。だから、謝らせてくれるようになってホットしてんねん。」
カットレイは、プライドとプライドの戦いにズルをしてしまった罪悪感が、どうしても抜けていなかったため、変な感じではあるが、このシチュエーションに感謝をする。
「いや。それはいいんだ。それよりお前は、お前たちは俺のことを『戦友』と言ってくれたな。おい黒猫よ。俺はこいつ等を信じるぞ。時間がない。説明するからな。」
「ふんにょ。僕も構わないにょ。」
黒猫の了承を一応とって、バフォメットは事情を説明する。
口早に、しかし丁寧に、自分の考えを伝える。
その説明の時間は、サニーとマリダ、そして並行して考えることが出来るカットレイが、丈二にサポートされながら稼いでいる。
そして、バフォメットの嘆願とも言える作戦を聞き終わったとき、不思議と言ってしまった言葉「頼む!」その一言に彼らは弾んだ声で楽しそうに叫ぶ。
「「「「 ええで!!! 」」」」
ブレない奴らのブレない言葉―――。
暗中模索していた「ネクロテイマー:ゼアス・ピオン」との、プライドを突き合せた
※ ※ ※
ここまでの戦い、恐らくはこの過去を振り返る映像のラストシーン。
それを黙って見ている若月は、不思議と涙を溜めながらその場面を見ていた。
『歪』なあのモードは、半分は解けているであろう、微妙に優しい何時もの若月の顔が見え隠れしている。
それを見ながら、女神ケレースは、最後の歓喜と絶望と奇跡を、この子に見せたことは間違いないなと思い、こっそりと丈二に伝えた。
「若ちゃん。バフォメットとの共闘場面で泣いてるっすよ。この記録で少しだけ『歪』がコントロールしだしたっす。良かったっすね。吉報っす。」
それを聞いた丈二が、珍しく彼女に言った。
「ありがとう。」 と。
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