第102話 何でそんなんがおるんや!(再)

『やはり、この方ですよね。どれだけ綺麗に変装しても、息遣いや身のこなしは、そうそう替えれませんものね。私からしてみれば、なものでしたから、何故、皆さんはお気付きにならないのかと思っていたのですよ。』


 若月は、未だ『歪モード』のまま、映像をじっと見入り、表情を変えずに唇だけを動かす。


『そうっすね。分かりやすいのは蜃気楼みたいなものだったんす。』

『蜃気楼?』


『カニバリズムによる変身、気配遮断と気配偽造を上手く使ってたんすよ。』

『んー。私はその辺りの知識が乏しいですから、気が付かないことに結びつかないのですけれど。』


『そっすね。若ちゃんは、そのモードに入り込むと自分の自我を抑え、見たままで判断してるっすからね。というか、この世界のスキルに引っ張られず、あっちの世界の身体的情報で判断しているというのが正しいっすかね。』



 先程ツブ猫は、この若月の判断に「御し難い」と称したが、ケレースには「情報」を戦いの第一線で活用し頼りがちな『チームみたらし団子』の戦術に、別視点で見れる彼女の存在は、大きな戦力になると確信していた。


 ~・~・~


 一方、バフォメットに対峙している『三つ葉』と組合長との戦況も膠着状態にあった。

 最も、こちらは、心理戦による戦闘の中断ではなく、一進一退の戦闘状況であると言ったほうが正しいのかもしれない。


 バフォメットは戦闘を楽しんでいた。

 自分のほうが、スピードと戦闘経験は上なのであろうが、こいつらは、戦い方が上手い。

 恐らく、女3人は同じ仲間なのだろう。連携に穴がない。

 そこに合わせてくるエルフの男。

 こいつが曲者だ。女3人の連携に+αをもたらしている。


 また、自分の体はひ弱な人間の体だ。『あれ』のお陰で本体の体を保てているが、一発でも渾身の一撃を喰らえば、そこでゲームオーバー。

 逆にこちらの攻撃は、一発で致命傷を負わせるには力不足だ……割に合わない。

 

―――だが、それがいい。 背中が放り付き、たまらない緊張感がある。


 山羊顔の大きな鼻から、息を強く吐いて、興奮を抑える。

 正直、ここで倒されたとしても、自分としては、暇潰しがなくなる程度ではある。

 だが、彼はその考えを封印し、戦闘を楽しむために蹄に力を込めて、好敵手に向かって突っ込んでいく。


 ◇


「ラスルト様よ。それは、殆ど合ってたということでいいのかな?」


 余裕を見せるラスルトに、苛立ちを隠さずに丈二が言う。

 とはいえ、交渉術はONのままで、ある意味舌戦に持ち込もうとしているのだが。


「今言った通りだ。ひとつ以外は合っているぞお!」

 指を一本立てて、ラスルトは1歩1歩と歩きながら、小屋の方に歩きながら言う。


「そのひとつを、私は君に教えないのだが、さてさて、何だろうね。フフフ。」

 小屋の扉の前まで彼は歩き、そこで止まり、転がっているエルビスの首を蹴る。


「さて、お話はこのくらいにしておこうか。」

 ラスルトは、立てていた指を自分に向けると、彼の姿が、中肉中背中年の神官女性の姿になる。


「メーリエ! お前さんかい!メーリエをあんな目に合わせたのは。」

 マリダ婆さんが、ラスルトのその姿を見て叫ぶ。


「婆ちゃん。そのメーリエのスキルは何にょ……。」

 黒猫が少しふら付きながら、マリダの手から飛び降りて言う。


「あの子の能力は通信能力だった。特定の人の座標……位置さね。それが分かれば、何処でも話ができる能力ね。だから、こいつは誰かと連絡を取っているはずだよ!  それ~!」

 マリダが、メーリエに化けたエルビスに光の矢を放つ。


「ほ~のだな。流石は神殿の神官といったところか。」


 ラスルトは扉を開け、小屋の中に入る。

 と、同時に「エルビスの首から下の胴体」が赤黒く光りだし、足元と頭の上に魔法陣が現れると消え去り、他の何かがその場に姿を現す。


 ◇


―――これがキャスリングか!?


『すまない八木。こっちにヘルプだ。エルビスの胴体がキャスリングで消えて何か召喚された。』


 丈二は、組合長達の援護をしていた八木にこちらを助けるよう頼む。


 銀色の身体、鋭く尖った3本の鍵爪を持つ無機質な人型の魔物。

 八木はすぐさま『万科辞典』で調べ出し、丈二はマリダ婆さんと黒猫の元に駆け寄り構える。

 そして、サニーに少しの間、魔物との闘いをお願いして、カットレイに指示を出す。


『カットレイ! イヤフォンをこっちに!』

『急に何や?』

『マリダさんとイヤフォン越しに話しながら戦いたい。』

『! そうゆうこっちゃな。』


 カットレイからイヤフォンを受け取り、マリダに渡す。


「マリダさん。すみませんがそれを耳に着けて貰えませんか?」

「耳……にかい?」

 マリダがイヤフォンを装着する。


『聞こえますか? これが俺のスキルです。先ほどのメーリエさんと近いスキルだと思います。』

『驚いたね! 通信能力かい。』

『えぇ。これを装着している人達複数と話すことが可能です。後……。』

 丈二は、手短に自分の能力と自分が迷い人であることを伝え、八木とケレースを紹介する。


『へ? 女神ケレースですって?』

『まぁそうなるっすよね。出来れば「おかあさま」の信者の人と話はしない方がいいんすけど、そうは言ってられないっすものね。』

『マリダさん。色々思うところがあると思うけど、それは後程。じょっちゃん取り合えずこれな。』 


 八木から、魔物の情報が送られてくる。


→【闇の復讐者:中級ダンジョン下層の階層ボスモンスター。光魔法を一切受け付けない銀色の身体と、鋭い鍵爪が特徴で、その爪には猛毒・混乱毒・麻痺毒がそれぞれ仕込まれている。

 光魔法を受け付けない身体を持つがアンデッドであり、銀色のボディとの継ぎ目には銀武器が有効である。

 魔法や特徴的なスキルの使用がない代わりに、攻撃と硬さ、そしてスピードと近接戦闘だけ見れば上級ダンジョンのボスモンスタークラス。】


「おい、カットレイ! トラウマの中級ダンジョンの階層ボスモンスターだぞ……これ!」

「はぁ? な…なんやてぇ! 何でそんなんおるんやぁ。」


「しかも……猛毒・混乱毒・麻痺毒の毒攻撃持ちだわ。」

「あぁ……うん。さよか……。」


「「はぁ……。」」


 丈二とカットレイ、そしてこっそりとサニーは、『また……このパターンか』と、大きく、大きく、ため息を付く。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る