第101話 カニバリズム

「これは?」

 ユーリ?であった顔から、表情のない能面の領主の息子の顔になった男が、顔に付いた液体を拭いながら首を傾げる。


「うちの天才が作った特製の魔力抑制聖水だ!」


「悪魔のお祓いから、魔力の麻酔、魔法酔いの気付まで何でもございの自慢の一品だよー!」


 丈二とアビーが、顔お見合わせてニカッっと笑って、領主の息子ラスルトに向かって人差し指で指を刺す。


「うーん、バレてしまいましたか。予想外ですね。ですがっ!」

 ラスルトは、らしくない笑みを浮かべてブツブツ言いだす。


『ジョジさん!詠唱っすよ!何かする気っす。』

『わかってる!サニーさん!』

≪はい!ウインドブレードクロス!≫


 サニーが、風魔法ウインドブレードをクロスさせてラスルトに放つ。


「ふむ。精霊魔法レイスマジック。」

 ラスルトが、サニーの放ったウインドブレードクロスを吸収する。


「おやおや。おかしいね。人間が精霊魔法かい? 精霊の従属契約をしているようにも見えないし。あんた何かしているね。」

 マリダ婆さんが、ぐたっとしている黒猫を抱きかかえて、細く瞑っているような目の片目を開きラスルトを見ながら近寄ってくる。


「そうだにょ。こいつは多分……他人に容姿を変えれて、その対象の能力が使えるにょ。」

 ぐったりしている黒猫が、弱々しく言葉を話す。


「は? おい猫が喋ったぞ!」

「あ。ツブちゃんバレちゃったね。」

「え? アビーちゃん知ってたの?」

「ベースで可愛くてモフッってたら怒られたの!」

「お前は嫌いにょ!犬人族!」


 猫が喋ったショックと、アビーが知っていた驚きと混合して丈二は口が閉まらない。


 ◇


「いやいや、それは後にして。まずもって、他人の容姿に変われて能力を使えるって……。」


『わー。こいつやっぱヤバいわ……。ほれ。』

 八木が、その能力に見合うスキルを見つけたらしい。


→【固有スキル カニバリズム:人を食べる衝動を持つ者に稀に生まれるスキル。食べた人間の容姿に変わることができ、尚且、その対象の特性・特技をそのまま実行出来る。認識阻害スキルのひとつ。また、記憶を断片的に読み取ることが出来る。】


→【スキルカニバリズムの使用条件:変身対象とは別の『食した者の数』が使用回数となり、使用するとその回数が減る。変身対象は最大5人まで選択ストックができ、任意でそれを入替することができる。】


「酷いな……。カニバリズム、食った人間をそのままコピー出来る能力か。ということは……ユーリさんはもう。」


「ほお、またお前の情報検索能力か? 丈二君、その通り! 組合のあのエルフ君は美味しく頂いたよ! たっぷりと体を重ねた後にね。」


「弟も弟だが……お前もお前だなぁ。糞野郎が!」


「あの味、あの背徳感。そしてあの快感! 分かってもらおうとは思わないし、分かってもらいたくもない! あれは、私だけの思い入れ!」


「狂ってやがる! しかも、お前まで『思い入れ』かよ!」


「ハハハ! そりゃそうだろう? 全ては『思い入れ』から始まっているのだからな!」


 訳が分からないと思う。分からないと言えばもうひとつ。

 丈二は、交渉術をONにしてラスルトに聞く。


「参考までにだが、お前は森に入ってからずっと俺たちと一緒にいたのか? そもそもユーリさんは、ナッツ達とベースで留守番をしていた気がするんだが。」


「んー。私にはそれを君に教える必要がないと思うのだがね?」


「連れないこと言うなよ。同じ認識系スキル仲間だろ?」


「ならお得意の推理をしてみたまえ。合っていたら素直に答えてやろう。」


 丈二がアビーを見ると、彼女は「嘘は言ってないと思う」と首を縦に振る。

 だが、こいつは認識の阻害を含めて嘘を誤魔化せそうなんだよな……。でも、この自分に酔い過ぎてるサイコパスは、当てられて嘘を言えるほどプライドが低くはなさそうだな。


 それに……前方の悪魔とこいつの共闘は既定路線だろうから、少しでも時間を稼ぐ必要もある。



『八木・ケレ。組合長のサポートをしてやってくれ。』


『『 了 解 』っす』


 ◇


「違ったら違ったでお前を倒すだけだから、まあいいか。」


 敢えて、あちらの時間稼ぎに乗るフリをするが、こちらも時間が欲しい。

 あちらの時間稼ぎを警戒しつつ、丈二は推理を始める。



「まず、お前は最初からキャラバンの中に居た訳ではないのではなかろうか。」

「ほう。」


「俺は、マーキングというスキルを使うことが出来るが、ユーリさんの姿をしたお前ににも施している。それなのに、ラスルトお前に戻った途端にスキルが消えた。」

「ふむ。」


「実は、今も警戒している人物がいる。盗賊に扮した追撃者のひとり、最初にMPKに来た奴なんだが、それはお前だったっと思っている。」


 この可能性は、ラスルトが来ないと聞いた時から、ずっと違和感を持ち続けていた丈二としては、あり得ると思っている。追撃者にはマーキングをしているのだが、全く気配を感じずにいたのもその可能性を高めているのではないか。



「その追撃者がお前だとする。お前はMPKをし姿を消したままベースのユーリさんを襲う。そしてユーリさんの姿で、ミッツとエイディを上手く言い包めて、気配を遮断してこちらに向かった。その間もMPKは他の2人から継続して仕掛けられて来ていたし、その後の警戒で時間も取られたしな。」


 アビーの方を丈二はチラッと見るも、心をは動きはなさそうだ。



「小屋に着き、エルビス達が小屋の中でゴソゴソしている間、俺は気配感知を解き、小屋の中の盗撮に力を注ぎ、サニーさんもお前の刺客の近衛兵を警戒していたからな。その間に気配を消したまま、しれっと一行に加わったんじゃないかな?」


 恐らく、その後の茶番の打合せも聞いていただろうし、少なくとも『三つ葉』の面々が把握している情報程度は知ったうえで、小屋の中に入り、俺たちが対エルビスに茶番を仕掛けている間に、作戦を整えて、エルビスが結界を発動したと同時に何かを仕掛けた。


 それならば、真っ黒確定君が結界により、憑いていた悪魔を浄化されたタイミングに、俺たちの意識が向くことを知っているラスルトが、エルビスを狂わせ使い物にならないようにするメリットができ納得ができる。


 恐らく、組合長が戦っている悪魔の襲撃は……こいつの思惑。


 こいつは、それを封印ないし、払えるのは神官長のみと考えたのではないか。

 それが可能な神官長のマナを、小屋の封印術に使わせて使えなくする。


 きっとこれがエルビスをこいつが捨てた理由。



 こいつの強かなところは、どうせ捨てる家臣であるなら、有効活用をしようとするところなのだろな。


 エルビスが、ゼアスの血を受けて死体傀儡にした仕組みは分からないが、この局面で、こいつはエルビスを殺し、傀儡駒にしたことと、もうひとつ。

 カニバリズムのストックの補充を、彼でしたのだろう。


 この辺りは、話を聞いていたカットレイの推理であるのだが。


 ◇


「俺の考えはそんなところかな。どうだろう?」


 丈二は、自分の推理をラスルトに投げかける。


「ふむふむ。いいね! いい線行ってるよ! でも、ひとつだけ間違いがある……かなぁ。それは教えないけどね!」


 ラスルトはとても楽しそうに丈二に拍手を贈る。


 この余裕。絶対何かを隠しているのだろう。

 ただ、それを見破ることは、この短い時間の中では誰もが叶わなかった。

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