第100話 やっぱりお前だったか!
「ツブちゃん!!! ベンジー、ここはあんたに任せるよ!」
マリダ婆さんがツブ猫の奮闘に気が付き、丈二とケレースが懸念した通り動く。
「マリダさん援護する!」
丈二が、土魔法でマリダさんに身の守りを強化しながら走る。
併せてるように、サニーが風魔法をユーリ?に放つ。
「チッ。 面倒なのが一緒に着いてきましたね。」
ユーリ?が面倒臭い顔をして風魔法を避ける……いや、魔法が避けた?
丈二は、その状況を見て危険度が増した感じを受ける。
≪サニーさん今のは……。≫
≪ええ。恐らく強烈な認識阻害ですね。≫
やはりかと思い、マーキングをユーリ?に付ける。
「アカツキ・ジョージ君か。やはり君は侮れないですね。カットレイ君が頭脳に見えて、その後ろに君が常に見え隠れする。最初にターゲットにすべき標的のひとりだね。」
ユーリ?は、手に持ったエルビスの首をひと齧りして、その首を投げ捨てて、鞭のような剣を抜き構える。
『ウルミ。』
剣の容姿を見て、嘔吐から戻った八木がその剣の名前を呟く。
『八木か? 大丈夫か?』
『すまね。流石に生首齧るのは耐性なかったー。』
『そりゃそうだな。それよりウルミって?』
『ほいこれ。』
八木から、その剣について地球での検索したものと、この世界での情報が送られてくる。
ウルミ……インド古来の武術で使う弾力性のある金属が幾重にも連なった長剣。
こちらの世界でも、同種の武器があり、チェーンソードの一種でウルミ型チェーンソードと呼ばれているようだ。
インドのモノは破壊力があるが鞭のように巻き込まないのだが、こちらのこのタイプはマナを込めてそれも可能。要は、鞭のように使え、剣として切り裂くことが出来る厄介な剣。
「ウルミ……また厄介な武器を使うな。」
「ほう。知っているのかね? いや今知ったが正しいのかな?」
情報戦を仕掛けているのだろう。ユーリ?が丈二の能力を把握していることを臭わす。
「まぁね。流石に組合長から聞かされてるよな。」
『すまん。彼女には全幅の信頼を置いていただけに。』
組合長が悲痛に謝るが、丈二としては、ここまで信頼を勝ち取ってからの裏切りであろうから、仕方がないと思っている。
『仕方ないですよ。それよりも、その悪魔とこいつの繋がりが謎ですから、組合長はそちらに集中をして下さい。』
『すまん……。』
組合長は、気持ちを切り替えて、目の前の悪魔に集中する。今はこの事態の打開を優先させるべきと、彼の豊富な経験から知っているからであろう。
「頭の中の相談会は終わったようだね。しかし、流石にこちらが不利か。」
ユーリ?がエルビスの胴体に何か赤い液体をかける。
◇
「え……? それ……。」
アビーが何かに気が付き、それを言おうとした瞬間――。
エルビスの死体が、電池が切れかけた人形のように、奇怪に動き出だし光魔法をツブ猫に放つ。
意表を突かれ、魔法に当たり飛ばされる猫をマリダが受け止める。
「キモッ! あそだ、丈二さん! さっきかけた赤いのゼアスの血だよぅ。」
アビーが叫ぶ。
なっ? ゼアスの血……をかけたら、首がないエルビスが動いた……?
ラスルトの手が入っているのは分かる。分かるが何故そんなものを持っている。
くっ。ダメだ俺は今、相当焦っているな……。
丈二が額に汗を貯めて、迷いの表情を浮かべると、何度も助けてくれたあの風が彼を通り過ぎる。
(サニーさんありがとうございます!)
とサニーの顔を見ると、サニーは目で微笑む。
「ふむ。あの子も本当に厄介ですね。ひょっとして小屋で何か見つけていそうですね。」
ラスルトがアビーを見ながら、冷たい目をして呟くのを丈二は見逃さない。
流石に、脳内での会話までは聞かれていないようだな。なら、こちらが見つけたことまでは、把握していなさそうだ。それはそれで、揺するカードにはなる……か。
しかしこの違和感は何だろう。このサニーさんと真逆な嫌な感じは、まるで……。
「丈二さんこれ!!」
アビーが、小瓶を丈二に投げる。
成る程、アビーもそれを疑っているのか。なら!
「サンキュー、アビーちゃん! やっぱ君最高!
丈二は、自分の持つ総てを賭けてこいつを倒すために、ギアをトップに上げる。
◇
《サニーさん。リスクを捨てて「あれ」を倒そう。》
《了解しました!》
―――土魔法アースグラップ!!!
あらかじめ、想定をしていたのであろう。
八木が詠唱を事前に先回りしてコマンドでアシストをする。
これが、最近ふたりが試していた秘策。中級以上の魔法で安定した魔法威力を維持する為に必要な魔法の詠唱を八木がコマンド入力をして、ショートカットする「なんちゃって無詠唱」。
土が隆起してユーリ?の足に纏わりつく。
―――土魔法クリーパーバインド!!!
周囲の樹木から
《ご主人様!》
サニーが丈二の前面に移動し、乗れと合図を送る。
丈二が跨ったその瞬間。サニーは空中に飛び空気を2度蹴って、ユーリ?との距離を縮める。
「くっ! 無詠唱で攻撃ではなく阻害魔法を選択か!」
ユーリ?の全身が霞み土魔法の拘束が緩む。
―――その前に叩き込む!
ユーリ?にすれ違う直前、丈二はサニーから飛び降り、棍を地面に立て、それを軸にして後回し蹴りを、サニーは水銀毒を込めた牙でユーリ?に飛び掛かる!
「チィイイイ!」
丈二より一瞬早いサニーの牙を左に避け、ユーリ?は丈二の蹴りに合わせて、ウルミ剣で受けようと一歩踏み込もうとする。
―――シュッ
ユーリ?は、踏み込むのを寸前で止め首を右に傾け何かを躱そうとするも、頬がザックリと切れその僅かな痛みに動きが止まる。
そこに丈二の後回し蹴りが脇腹に!
「グッッッ!!!」
ギリギリのところで、肘でガードしたユーリ?だが、そのまま後方の小屋の壁に叩きつけられる。
「やるじゃないか! D級冒険者! まさかアビー君がスティングかな? これを投げてくるとは思わなかった。しかし、この程度では……ん?」
『彼』は自分の顔に違和感を感じる。
「まぁ、確かに俺たちは弱いよな。でもな!先を読むチームプレイはそこそこ自信があるんだよ! そして……やっぱりお前だったか!」
丈二は、鋭い眼光で睨みつけ、ユーリ?の本当の名前を口にする。
「やっぱりお前だったか! 『ラスルト様』よおおおお!」
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