第103話 三方への苦慮

 ここへ来て、新しい敵が登場してしまった。


 ある意味で、一番敵としての登場であるのだが、こちらの人数的な優位性が完全に逆転してしまったなと……丈二は困惑する。

 その考えは、八木もケレースも同じで、徐々に追い込まれている感情を払拭できないでいた。


 ※ ※ ※


 現在の戦況はこうだ。

 バフォメットについては、『三つ葉』のB級冒険者3名と組合長とで一進一退。


 ラスルトは、小屋の中に消えたため、現状は自由にしてしまっている。

 恐らくは、ラスルトが元神官のメーリエに化け、ゼアス・ピオン辺りに連絡を取っていて、それでもって何らかの悪意を張り巡らせているだろう。


 本当は、こちらを早急に潰したいのだが、目の前には『中級ダンジョン下層のボスモンスター闇の復讐者』が、その行く手を阻んでいる。


 対「闇の復讐者」に充てられる人員は、攻撃が出来る者としては、丈二、サニー、カットレイだろうか……。ミッツはある程度は回復していそうだが、どうだろう。


 支援する人員は、アビー、ベンジー、マリダ婆さんとしゃべる黒猫。

 マリダ婆さんは、ある意味で後衛職としては、優秀なアタッカーではあるが、今回ばかりは相手が悪い。


 何せ、アンデットにも関わらず、『光魔法が通じない』相手である。


 ◇


 サニーが、闇の復讐者を牽制してくれている。

 その間に、丈二は、マリダ婆さんに2点確認をする。


『マリダさんすみませんが、その黒猫について教えてもらえませんか? ラスルトと戦っていたようですが、戦力としてどうなのでしょう。』


『仕方がない……さね。この子は普通の猫ではなくてね、『悪魔』なのよ。』


『悪魔? そこのバフォメットと同じ悪魔なのですか?』


『ええ……。ただ、何故か人間の記憶を持っていて、人間に対する敵意がないの。寧ろ人間に感性が近いわ。緊急時だから馴初めは割愛するけど、一部の神殿の人間も把握しているの。』


『神殿も……ですか。』


『流石に害悪があるかどうかの判断があってこそ、初めて私の子として一緒にいることが許可されますからねぇ。それで、戦力としては……とても強いわ!』


 マリダから、黒猫の強さを掻い摘んで説明を受ける。


 黒いオーラを纏い、自身の爪での引っかき攻撃時に、そのオーラで攻撃範囲を拡大して、切れ味が信じられない程鋭く強化して敵を葬る。

 猫の速さやしなやかな戦闘スタイルで、それが信じられないほど強化されているイメージで良いらしい。


『もうひとつ。マリダさんも『封印魔法』を扱うことが出来ますか?』


『小屋を封印している宝珠を使えるかという意味ならNOね。使い方を知らないから。でも、そこにいるような『悪魔を封印する術』を持っているかという意味なら可能よ。』


『正直俺は、小屋を封印し直す理由がわからないのです。ラスルトが隠したかった秘密については、暴いてしまった以上、意味がないと考えていますが。』


『そうね……。あの悪魔は「未だ封印されている」の。どうやら、自我は悪魔自身が乗っ取っているみたいだけれど、あれはただの傀儡……ね。その封印の鍵が何処にあるのか知っている?』


『え? まさか……。』


『そう。あの『小屋の中』よ。正確にはあの小屋の下。多分ラスルト様は、小屋に秘密があることまでは知っていそうね。でも、何処にそれがあるのかは知らないでしょう。ただ、何らかの方法で、その力を弱めることは、出来ているようね。』


『ああ。だから、そこのバフォメットの傀儡が存在している。』


『そういうことね。』


 思いもよらなかった情報であった。

 ぼんやりとであるが、今のこの状況の全体像が見えてきた気がする。


 ◇


 丈二は、マリダを含めて、八木とケレースとで作戦をまとめはじめる。


 闇の復讐者は、サニーの牽制に痺れを切らし、既にサニーへ襲い掛かっている。

 サニーは銅鉱山での戦いから、格段に強くなっており、如何に中級ダンジョンの下層ボスモンスターであっても、すんなりとダメージを与えられない。


 それは、戦いが始まると同時に、『歌』で能力向上バフを掛けながら支援をしている「吟遊詩人のベンジー」の功績がでかい。



 定石ならば、このままサニーに闇の復讐者を宛がい、増援に手を回すことで相手を打破するべきであろうが、ラスルトのしていることが気になる。


 あれとの化かし合いは、丈二が適任であるが……あの悪意を正面から受けると相手の策にハマってしまう気がする。そのためにも、それを癒し緩和すことの出来るサニーの存在はは不可欠であると、話はまとまっていく。



 そこで、サニーと戦闘をスイッチして、闇の暗殺者を倒す役に「黒猫」のツブリーナに任せるとなったのだが、当の本人がそれを断固拒否。


 それは、彼が、ラスルトの恐ろしさを唯一人『見ていた』からであり、彼にとっては、たかだか中級ダンジョンのボスや、自信と同じ悪魔の分身程度のMOBよりも、『ラスルトの得体のしれない恐怖』に対して、ここにいる面々は全力を注ぎ、その恐怖に対処をすべきだと判断したに他ならなかった。


 ◇


 さて、どう立ち回るべきかな? と、再び悩んでいる丈二に対して、カットレイが見かねて提案を出す。


「なぁ、にいちゃん。思うんやけどな。にいちゃんとサニーはん、相性の悪いマリダはんと我儘言ってる黒猫で、小屋の中をお願いできへんか? ミッツも戦えるだけは回復しとるで?」


「でも、それだと戦力が心もとなくないか?」

 神官長を守りながら、カットレイと手負いのミッツ、サポート役のアビーとベンジーだけでは、どうしても、対ボス級モンスターに対して『攻撃力』が心もとないと思ってしまう。


「それなんやけどな。ワシの感がそろそろやと、ギンギン言っとるんや! それに、ワシかてレベル1であれを倒した片割れやで?」


 は?そろそろって何だ?

 ……あ!!! 成程な。こいつらやっぱり、スゲー面白いわっ!


「正解だ! やっぱお前スゲーよ! ここは任せたぜ! 死ぬなよ!」

「上等や! ここは任せとき!」


「マリダさんに黒猫! それにサニーさん! この銀色能面野郎は、カットレイ達に任せて、俺たちはラスルトの『サイコ野郎』を追うことにするぞ!」


 気が付いた一手で、自分達が再び有利になることを確信した丈二は、考えられる対ラスルト『最強のツーマンセル2組』に声をかけ、恐らく決着のつくであろう森の小屋の中に向かって、武器を構え歩き出す。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る