第97話 「見ていた」真実
結界が解かれる瞬間に動き出した独立した意思。
「思惑」、「願望」、「願い」。正確には「思惑と願望」と「願い」のベクトル。
エルビスが結界を完全に閉じる直前に、聖堂から随行してきた老婆マリダは、実は「悪魔」である黒猫ツブリーナの体を、彼女のマナで包む。
それにより、悪魔の力は封印され、「ただの黒猫」となっていたツブリーナは、エルビスが倒れ瀕死になった その瞬間 を見ていた。
◇
彼の持つ強力な黒いマナは、一時的にその力を奪われるも、マリダのマナを吸い、彼の意識のそれは失われていない。
彼は、ここまで来る間に聞いた、悪魔バフォメットの存在やその封印、そして小屋の結界について、継続的に考えていた。
彼もまた、悪魔そのもので、ビュレトと呼ばれる猫の悪魔。
そのため、自分を悪魔バフォメットを置き換え、聞いた内容を考察し、自分ならばと考えることに暇な移動時間を費やしていたのである。
だから、気になっていた。
何故『小屋を封印』する必要があるのかを。
正直、彼には、ゼアス・ピオンの起こした事件如きは小さなことで、国宝と呼ばれるような「宝」を使ってまで隠すに値しないと思っており、真相は、その事件を隠れ蓑に「宝」を使う口実として使われ、実際の目的は他にあったのではないか……と妄想をしながら、その小屋を眺めていた。
一行が小屋に入るために、扉の部分の結界が解かれたとき、ツブリーナは何か「蓋」のようなものを感じる。
それは、彼が黒いマナによる「空間魔法」を得意としていた為に他ならず、彼の腹の中に存在する「アイテムボックス」のような空間を閉じるときに行う「蓋」に似ていると思った。
彼はこのとき、危機感を抱いておらず、マリダの鞄の中で、片目を開けながら欠伸をしながら何気なく「それ」を感じ、自分の創造した物語のひとつの出来事の風呂敷を広げて楽しんでいたに過ぎないのだが、改めて張られる結界から彼を守るために、マリダがマナを彼に流した瞬間、突如あれが発動する。
―――猫の危険感知が。
猫の危険感知は、ビュレトや一部の進化した猫にしか発動しない危険予測能力で、的中率が極めて高く、その危険度も高い。
彼はその能力で、実際に幾度も自身の命を救ってきている。
冒険者組合なんぞが、口伝的に聞き及んでいるその怖さとは比べ物にならない程の危険を孕む事態に陥る可能性を、彼は知っている。
(このタイミングで発動したにょ? しかも、気になったのがあいつにょ? そもそも何にょ……。くそ、この状態では喋れないにょ!)
彼は、その刹那に思考を加速させる。
今の彼にはそれしか出来ないのだから。
危険感知が示す男の行動を目に焼き付けることにする。
そして、自分に力が戻った時に守りたいものを守る為に冷静に備える。
だからこそ、彼は見ていたのだ。
エルビスが何故あのような顔で昏睡していたのかを。
(にょ? どうゆうことにょ!あれは一体誰にょ?)
彼は、一瞬見えたその顔に目を疑う。
そして、決意する「奴を殺してでも、守りたいものは守るにょ!」と。
だから、その瞬間だけは、最悪が起きないでくれと彼は『願う』。
◇
彼は、見ていた。
森の直ぐ外に人間の一行が野営地を作り、牛を狩っているところを。
一見して一番の実力者達が、森に入り偵察をしていることを。
彼は、見ていた。
野営地を作り牛を狩っている奴を見ている人間がいることを。
森の偵察をしている奴を見ている人間がいることを。
深く暗く紅い目でそれを見ていた。
彼は知っていた。
それがあの小屋にいた、あいつの黒いシナリオの上にあることを。
だから、間引く。魔物たちを間引く。
そのシナリオが上手く進むように、ごく自然に、怪しまれないように、自分の力を見せず、兎に角準備を進める。
折角戻った「繋がり」と「思い入れ」という
やはり、シナリオの舞台はあの小屋だ――。
一行の進路を確認して口を吊り上げる。
追跡をしている者の行動と繋がりから、「MPK」で一行を襲うことを把握する。
MPK如きで、奴らを全滅させることは難しいだろう。
だが、何匹か間引ければいい。間引けれずともその実力が見れればいい。
最後に笑うのは、この俺であればいいので、ここは情報を集めるために静観しよう。しかし、
―――ああそうか。
MPKが始まりあのことを悟る。
―――やはり間違いない。
MPKが鎮圧され感知系能力者が「複数」いることを確信する。
まてよ? あの結界は確か……感知系能力を遮断するなと、小屋を見て思い出す。
そして、あいつの能力を思い出し、声を出して笑う。
「これは、あいつの能力を知っている俺へのSHOWだな!」と。
よし分かった。俺は小屋の外でときを待とう。
結界が完全に閉じたら何も分からなくなるが、奴の「思惑」の通りなら、俺は結界が完全に解かれるその瞬間に意識を集中させ、この『願望』を満たそう。
◇
そして、もうひとり。
結界が解かれるそのときまで、自分の『思惑』に酔っている人物がいた。
「なるほど、チームみたらし団子か。よく気が付く、よく考えている。だからこそ、何がしたいのか、分かれば扱いやすい。」
「情報を与えずにこちらが得れれば、相手の必死の努力も茶番になるか。まったく持ってその通りだな。同意する。だけどダメだよ?それが出来るのが、「自分達だけ」だと思ってくれては。」
「ただ、ここで始末しなければいけないね。これが経験を積んだら厄介だ。」
彼?彼女?見えゆるその姿は幾重にも形を変え、気持ちが良さそうに「ほくそ笑む」。
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