第96話 3つの意思
「また、あのクズの名前が出てきよったな。」
カットレイが、難しい顔で傀儡となっているサイリスを見る。
「ここまで来ると、悍ましいくらいやな。クズやけど。」
ミッツも半分呆れながら、苦笑いをする。
「さて……。こいつらが俺たちを殺し終えたとして、その後どうする予定だったか聞いてみるか。」
それは、丈二は、少し気になっていたこと。
この日、遠くの彼の地から、密命を帯びてこの地に来た彼ら。
その後は、どうするつもりであったのだろう。
ジアス・ピオンが本当に依頼をした主であったとしても、十中八九、裏で糸を引いているのは、領主の息子ラスルトだ。
あの暗く死んだ目をする男が、自分を「貶める危険」を持つであろう、東の帝国で暗躍する組織の奴らを外っておくはずはない。
彼らが、帝国に戻れないよう手を尽くしていると思うし、逃がさない何かを用意しているのであろう。
『一行を根絶やしにする。』
彼らのその目的を聞いた時から、丈二は、ラスルトがどんな手を使ってでも、自分達を潰しに来るであろうと確信しており、彼らもまた……。
◇
「では、お前たちは、この暗殺が成功をした後には、組織を抜けて……いや。東のスパイとしてこの地に残り、ひっそりと生活をするつもりだった……でいいか?」
「あ…あぁ。そう…約束をして貰ってい…る。」
「誰にだろう?」
「依頼者…の、ジアス…ピオンと…貴族…のラスルト。」
ここで、ラスルトの名前が出るのは想定内か。
いや、ラスルトが東の国の組織に対して、自分の存在を出すことはない……か。
「……君の組織は、そのことを知らない?」
「あぁ…この国に来てから…密会を…した。これで…俺たちは…真っ当に生き…れるはず…だった。」
「なるほど……な。では、最後の質問な。「もうひとりの仲間」について、知っていることを話してくれ。」
「あいつ…は、組織の人間で…はない。今日出発の…ときに会っ…た暗殺者…だと思…う。あいつ…が使っているの…は、気配隠ぺい…ではなく…気配偽…造のスキル。それ以外は…知らない。」
ここまでだな。サイリスの目が白目に成りかけているし、鼻血も出てきた。
しかし、『気配偽装』か。
偶然なのであろうか……。銅鉱山事件での俺達の推理では、問題の黒蜘蛛は気配偽装が施されていたのだと確信を持っている。
……ここに来てそのスキル持ちとは。
それに……「もうひとり」の追撃者は手練れであった。
もし、俺の気配感知やマーキングに、奴が気付いていたら、俺は奴を、見つけれるのであろうか。
奴は、ここで捕まっている2人とは、強さや『怖さ』が違うように感じる……。
脳内会議の面々に、その懸念を伝える。
併せて、結界を使っていなければ、サイリスを自白にまで追い込んだことは、奴の何らかのスキルにより、筒抜けだったのかもしれないことを加える。
その後、もう一人の捕らえた追跡者……ヒソカという女性にも尋問をしたが、サイリス以上の情報を引き出すことは叶わなかった。
◇
この尋問により、ここで調べれること、聞けることは、一通り終わったかな? と、一同は思う。それに、エルビスの状態が芳しくないのもある。
結界をすぐさま解除して、外に出て帰還の途につく必要があるのだが、それをする権限を持っているエルビスがこの状態である。
しかしながら、それは、そこまでの問題とならなかった。
その代役というか、もう一人権限を持つものが、この場に居合わせているからだ。
神官長ソウザがその人であった。
当然、ソウザは、その役割を果たすつもりでここに来ていた訳ではなく、どちらかと言えば、この森の奥にある『封印されたダンジョン』の監視に来た側面が強った為、自分が結界の操作を行うこの状況に、一抹の不安を感じていた。
と、いうのも。この『宝珠による封印』を行った場合、一定の期間は「他の封印」にマナを注ぐことが出来なくなる。
この封印そのものは、一度解除してから、直ちに封印をしてしまえば、小屋への結界効果は、直ぐにでも表れる。
ただ、それを安定させるためには、この封印が『長い間、効果が続くタイプ』のものであることから、多少の時間が掛かるのだ。
だが、エルビスがこうなってしまっては、自分が行う他ない。
また、神殿随一の光魔法を操るマリダが、今は傍らに居ることが、彼の不安を和らげ、それを忘れさせた。
◇
「本日の調査はここまでにしよう。日が暮れるまでには、ベースに戻っておきたい。神官長お願いできますか。」
組合長からの指示で、彼は宝珠にマナを込め、宝珠は徐々に輝きだす。
その輝きがルーン文字のようなワードが変わり回りだす。
それらが、青から赤に変色し、再び宝珠に吸い込まれると、先程エルビスが展開した結界が、全て解除されていく――。
◇
……そのタイミングに、意識を集中させていた「3つ」の意識。
それぞれの「思惑」、「願望」、「願い」を込めて、結界の解除が成される刹那、それらは、一斉に動き出す。
そのどれもが、誰にも悟られず、独立して遂行された。
同時に動き出したもの同士でさえ、気が付くこともなく。
そして、それは……悲しみとなり、救いとなり、怒りを生み出す。
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