第94話 偽の書簡
『うぅ…ん。』
『そんなに落ち込んでも、下手なものは下手っすからね?』
ダメ押し……だろ? 堕女神……。
クソッ。 辛いが、まずは紙に書かれた内容だ。
《ご主人様。こちらへ。》
サニーが寄り添い、優しい風で癒しをくれる。ありがたい。
《サニーさんありがとうございます。御蔭で落ち着きました。》
《いえいえ。このお手紙の内容は、落ち着いて対応された方が良いかと思いまして。》
何時でも多くは語らず、傍らでしっかりと見ていてくれる相方に、何度救われたことであろうか。
《はい! 気合入りました。》
気を引き締め直して、組合長の目線が文末の先を過ぎるまで、部屋全体に意識を集中して待つ。
◇
組合長は、アビーから渡された書簡に、ゆっくりと目を通す。
エムブレムについては、部下へ適当に調べておけと命じてある。なので、組合長はゆっくりと、それを読む。
やはりか……。
まず、冒頭。 彼が思っていた内容とある程度同じである。
書き手は、領主邸死体暴漢事件を起こし処刑されたラスルトの弟『リストアル』が、ゼアス・ピオンの側近として用意した「傍使い」のホビットであるヒーチオ。
彼は、領主邸死体暴漢事件後に拘束されるも、心身ともに崩壊状態であった。
その為、組合ご用達の療養所で療養をしていたのだが、1か月もしない内に忽然と姿を晦ます。
彼が見つかったのは、ゼアスの死体(フェイク)が見つかった後のこと。
領主の近衛兵が、彷徨っている彼を保護したことによる。
それ以降は、元配下の療養と逃亡を防ぐ理由に、ラスルトがそれを預かる。
預かり当初は、ラスルトが善良と呼ばれるに相応しい振る舞いをして、彼の処遇について、オープンで協力的な立場をとり、それを怪しむことを組合長シトラウスもしなかった。
話は長くなったが、簡単に言うと、そのヒーチオが、2年前ゼアスと共にこの小屋に滞在をしており、その一部始終をこの書簡に記していた……それをカットレイとアビーが見つけた。
筋書きは、そんなところなのであろう。
その書簡には、ゼアスは、小屋に逃げた後に、自分がしたことを恥じ、反省をして仙人のような生活をした。
生物を慈しみ、感謝を込め毎日を過ごす。
ゼアスの死因は、その後、『悟り』を開いた故にとった、食べない選択を取ったことによる『自害的自然死』。
『立派であった』と、その書簡には書かれている。
何も知らなかったら……これも、私は恐らく疑うこともなかったであろうな。
と、組合長は読んでいて思う。
『……よく考えられた「茶番」だな。』
書かれた内容を皆に話ながら、脳内会議の面々にだけ、ぽつりと組合長は呟く。
◇
ラスルト側近のエルビスに、組合長が頭を下げる。
「この書簡の発見は『決定的』ですな、エルビス殿! 確かに2年前の調査を裏付ける貴重なものだ。街に戻ったら、ヒーチオへの面会に手を貸して頂けたらありがたい。」
ラスルトに偉ぶる態度が戻り、「そうだろう、そうだろう。」と胸を張る。
―――実は、組合長が首を垂れるそれが、『茶番再開の合図』
「やばいぞ!魔物がこの小屋に多数近づいている! 流石の私たちでも、この数は厳しい。」
『三つ葉』のローズヒップが、小屋の中に駆け込んでくる。
「く。 折角のこの発見がこのままでは……。そうだ!エルビス殿。結界を、結界を張って、この場を凌ぐことは出来ないか! 貴殿の力で我々を救ってくれまいか!」
さあ、最後の見せ場!!
「きゃあああ! ぐぁっ!!!」
『三つ葉』のライティアが、入口から吹っ飛んで来る。
血は出ていないが、少し泥を付けた演出がそれっぽい。
痛そうな演技もとてもいいね!
と八木・ケレがパチパチと手を叩いている。
「もう来ているぞ! 臨戦態勢を取れ!この小屋の中で迎えるぞ!」
ローズヒップが叫ぶ!
チラッと、ほぼ全員がエルビスを見る。
宝珠を手にもって、生きることに必死な形相になっている。
―――勝った!!! 皆が思う。
『こっちはパーフェクトゲーム。エビバディGG。』
『茶番だからなぁ。』
『さて……これからやで? 一体、何が出るんやろうな。』
閉じていく聖なる結界。
恐らく顔を出すであろう悪魔の羊。
一同の目線は、ラスルトから配下の『近衛兵』に移っていた。
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