第93話 擦り込みと茶番の再開

 花が咲かない脳内会議で、取り合えず整理されたことは、次のとおり。


[新しい事実]

・ひとつめ

 小屋の中には、至る場所で『ゼアスの血の痕跡』があること。それとは『別の血』の痕跡があり、それがあの「クズピオンの血」であること。

 血の痕跡が付けられた期間は、ゼアスが死んだとされる「2年前以前」である。

・ふたつめ

 小屋内に、『領主ラスルト』の精液の痕跡があること。血と同様に、その痕跡が付けられた時期は、ゼアスが死んだとされる「2年前以前」である。


[この事実から見えてくる繋がり]

・ひとつめ

 領主邸死体暴漢事件以降、半年程、この小屋で行方を晦ましていたゼアスは、ここで、「ラスルト」と「ジアス」と会っていること。

・ふたつめ

 ゼアスが生きている事実を考えると、その「逃亡・隠ぺい」には「ラスルト」と「ジアス」が関与している可能性が高いこと。


[では、何をしていたのか]

 分かっていることは、3つであろうか。それぞれに疑問がある。


・ひとつめ

 ゼアスは「血を大量に失う」何かをしていたこと。

 ジアスも何故か出血している。これは確信は持てないが、繋がっていると考えておく。 何か血が必要なことをしていたのであろうか。

・ふたつめ

 「ラスルト」がここで致していたこと。

 兄弟であることを考えると、サイコパス気質からの「性欲異常」によるものかもしれないし、血と関りがあるのかもしれない。

 ひとりでしていたのか、対象としていたのか、では、その対象は何者なのか。

 もう少し情報が欲しい。

・最後に

 「ゼアスが逃亡」するための準備。

 これは、キャスリング(従魔・人と従者の入れ替え)によるものであると、確信しているが、「上のふたつ」と、どう絡むのかが見えてこない。


※ ※ ※


 取り合えず、急ピッチで話をまとめた。

 まとめたのには、理由がある。

 今回は、全員が思考をまとめれない状況にあったこと。

 話して口に出せば、少しづつ思考はまとまる。

 これは、丈二と八木からの提案であった。


『何となくやけど、ジアスの存在に「無意識」に振り回されとる気がすんなぁ。』

 カットレイが最初の口火を切る。


『ん。と言うと?』

 八木が聞く。


『いやな。アビーからの報告で皆、ラスルトの「あれ」は、笑い話で済ましとったんやろ? そりゃ……「あれ」の臭いがここで出てくることや、アビーが気を失ったときのことを考えると「変態や!」ってビックリするやろうけど。』


 そう言われれば……そうなのかもしれない。


『アビーがなぁ、びっくりしとってん。ジアスの名前を出した「途端」に皆が無言になったて。』


 確かにアビーは、自分が「あれ」の臭いを嗅ぎ分けてしまったことへの羞恥心があの時はあった。なので、ジアスが関係しているよりもラスルトの方に驚き、意識が、そちらに行っていたのかもしれない。


『あたしもどちらかと言うと、ジアスが関係していたからと言って、それが何? と思えてきたっす。ラスルトがゼアスと大きく関りを持ったのが、そもそも「2年前の強姦事件」っすよね? その頃、ジアスも同じこの国に居た訳っすから、何らかの面識があってもおかしくはないっすよ。』


 ケレースが、珍しくもまともなことを言っている。……いや、的を得ているな。


『そだね。相関図を作ってみたんだけど……とりま、じょっちゃんに送るわ。』

 八木から 、話をまとめた相関図が送られてくる。


『図に起こすとまぁ可能性はあるよね。ってなる。』


『ふむ、確かに。こうして見ると、むしろ、あの時期のラスルトの「あれ」が残っていると言う事実が、まずもって一番ヤバいよな。』


 丈二も相関図を見て、ジアスに引っ張られていた感が拭い去れない。


『すまん。ずっと黙っていて考えていたが……。私にとっては、やはり「領主の血筋が黒」であることが、一番のショックではあったんだ。なので、ジアスのことは、彼への「嫌悪感」がそうさせてていると思うようにしていたのだが……。』


 組合長からすれば、これは、フィルム領の再度の一大事である。

 だが、『ジアス』の名前を聞いた途端に、その嫌悪感に負けて、それが一番の災時に置き換わってしまったような気がしていた。


 組合長の感じた「それ」は、実のところ鋭い考察であった。


『嫌悪感か~確かにな。「ジアス・ピオン」この名前を聞いて、お前らまず、何を想像する? せーの!』



『『『『 キ・モ・イ 』』』』



 ですよねぇ……。

 よし、結論。あいつがキモ過ぎるのが、このモヤモヤの原因である。

 何となく、それで半分はスッキリした感じであった。


 ◇


 皆、幾分かすっきりした顔になったように見受けられる。

 取り合えず、アビーが色々と『見つけた』時点で目的は果たしている。


 よし! それならば、まずは「茶番」を終わらせるか……。


 丈二が合図に咳ばらいを5回する。

 これが、茶番の続きの「スタートの合図」である。

 

※ ※ ※


「あー。な……なんやーこれわあああー。」

 カットレイが棒読みでいう。 うわぁ……下手くそか!


「何だろうね? エンブレムのようなものが落ちてるよ!」

 アビーが、慌てて「本当に」びっくりしっている演技でフォローする。

 流石! アビーちゃん出来る子!


「それは、ピオン家のエンブレムではないか? ちょっと、見せてくれ!」

 組合長は……まぁ上手い!


「ぴ……ぴおん家やてぇ~。ぜあすとじあすのあれかいなぁ~?」

 もう……お前は黙れよ!と言おうとしたら、脳内で八木が先に突っ込んでいた。


「何だと……。先程は何も見つからなかったのに……まぁいい。おい!これが見つかったということは、2年前の調査結果に、間違いがなかったという事で良いのでないのか?」


 エルビスが、少し控えめにそう言う。

 勝ち誇りたいが、『三つ葉』のフリージアが怖いと言ったところか。


「はぁ? そんなん言われたら、ワシらには、その時の調査がザルだったように聞こえるで?」

 セリフじゃないと、棒読みにならずに漢前なんだよね。この竜人娘。


「え? まって。何か見つけちゃった!この紙何だろ?」

 アビーがまた、最高のタイミングで、その紙を見つけたフリをする。


「な……なんだーその古い紙はー。 組合長ー何が書いてあるか確認してみんなに教えてくれー!」

 俺の渾身の演技どうだ!と丈二が思った瞬間、「お前も下手か!」と八木に突っ込まれた。


 ハイ。カット……丈二の心が砕けかけた。

 「にいちゃん大根やなぁ~」とカットレイにツッコまれた、精神的な追い打ちとともに。

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