第91話 やっぱりアビーちゃんは見つける

「それでは、組合員の私と彼とで、ゼアス・ピオンが死んでいた場所を調べさせて貰う。」


 組合長と組合員の……えーと誰だっけ?

 が、まずは、ゼアスが死んでいた椅子の辺りに付く。


「なら、ワシとアビーは机付近を捜すでぇ。うちの調合師は鼻が効くんやで?」

 カットレイが組合長に向かって声を発しているが、実はエルビスに言っている。


 ◇


 丈二と八木・ケレは、エルビスと近衛兵2人を、万科辞典の異世界TV越しに見て楽しんでいた。


『見た?見た? 今のエルビスのしてやったりの顔!!』

『見た!見た! アビーちゃんの鼻封じ成功的などや顔?』

『ま……まだ、笑わないっすからね。くっぷぷ』


『しかし、黒確定君の表情が、まったくもってマネキンなんだが?』

『あたしの見解っすけど、聞きます?』


『あ……うん。一応。』

『ジョジさんも、あたしに対しての態度ブレないっすねぇ。』

『そこがじょっちゃんのいいとこ。』


『まぁいっす。 恐らくっすけど、結界はまだ、小屋全体を覆っているっすよね?』

『そうだな。入口側の一面を解除しただけだと思う。』


『そこなんすよ。 多分、結界が確定君に効いているんす。』

『あー。だから、自分の表情よりも、さっきの見え見えの工作に力を集中させてたんだね。』

『そっすそっす。 で、今は確定君として、自分を保つのに精一杯ってとこっすかね。』


『ってことは?』

『ご察しの通り、確定君は「悪魔憑き」と、あたしの大事なところがきゅんきゅん言ってるっす。』

『わー。それ嫉妬ー。』


『はぁ……。 んで、どうしようか。』

 丈二は、呆れながらも考える。 正直配役は変えたくない。


 丈二が、少し考え込んでいるなと悟ったカットレイが、自分の意見をぶつける。


『恐らく、バフォメットがどっかで見てるっちゅーことやろ? クズの時と同じで。それが分かれば十分やろ? 作戦の通り結界を張ってしまえば、何しても、同じ結果になるとワシは思っとるで?』


『そうだな。助かった。少しブレたわ。サンキュウカットレイ。』


『ほな、お遊戯続けるで?』


 ◇


 椅子を念入りに調べる組合長達だが、当然何も出てこない。

 それを、ニヤニヤしながら見ているエルビスを横目に、各々は親身に探す振りをひたすらにする。


 ――― その間。

 アビーは、事前に覚えていた「ゼアス」と「ラスルト」の臭いを探していた。

 アビーの仕事。 そう。エルビスの目論見は間違っていなかった。


 だが、エルビスは、「ゼアスの死体が小屋にあった」という事実しか考えておらず、だからこそ、椅子と机を特殊な臭い消しで拭き取ることのみに、行動が留まってしまった。


 もしも、もう少しだけ想像力の翼を広げるだけの資質、いやこの場合は、ラスルトからの指示や情報が、エルビスにもたらされていたら……結果は変わっていたのかもしれない。


 そう、ゼアスがここで生活をしていた可能性、そして、丈二達が考えている逃亡の痕跡について、 後者は流石に気が付くことは無理であったであろうが、生活の範囲に思考が届いていれば、「その情報」が露点することはなかっただろう。


 そして、もう一つ。

 丈二達の目的は「領主の息子ラスルト」の尻尾を掴むことである。

 その情報は、それをも繋げてしまうことになる。


 ◇


 当然ながら、カットレイとアビーは黒確定君が設置した「紙」と「印章エンブレム」は見つけている。

 だが、これは茶番であるため、アビーが臭いを辿りきるまでは、分かり易くそれらを無視していた。

 

 何度も、エルビスが「もう何も出てこないから終わろう」と急かしてくるが、カットレイが「フッ」と上から目線で笑い挑発し、狼狽させる。

 組合長も、記録をつけると言っては、用紙にメモを必要以上に取ることで、時間を稼ぐことに努める。


 そんなやり取りを何度かした時。

 アビーが、「うわっ……」と小声でつぶやく。

 

 カットレイが耳栓を袖の下からアビーに渡し、「声のない報告」をするように、無言で指示を出した。


『『アビーちゃん。何を見つけたのかなぁ~。』』

 丈二と八木の、頬を緩ませ喜んでいる様な声がハモって聞こえてきて怖い。


『う……。本当にこの2人の私への期待の言葉が怖いよぅ。』

 アビーが少し涙目になり怖がっている。


『えっとね。2つあるの。』

『『ふむふむ。』』


『う……。 でね、ひとつめは、あのハゲが拭き取ったところ以外にも、「沢山ゼアスの血」の匂いがあるのね。 それは、直ぐに気が付いたのだけど、あのシーツのないベットの枠から「他の血」の匂いがするんだよねぇ……。それで、多分なんだけど、それは、時間経過的に「同じ頃の血」なの。』


『ふむ……。』


 それは、ゼアス以外が、ここに居たことに繋がる可能性を示していたが、当時の捜索隊が調査中に流した血の可能性もある。


 丈二はその情報の扱いを、どう整理すべきか考えていたのだが、アビーの話はまだ終わらなかった。

 

『それでね……。もうひとつのが……気持ち悪い話なんだけど……聞く?』


 アビーは、気持ち悪そうに……そして少し恥ずかしそうに、それを話し出す。

 ……結局は、気持ち悪い変態のたぐいは友を呼ぶんだなと、嫌悪に満ちた深い溜息を吐き出しながら。

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