第89話 森の小屋(2)

『こちら実況のケレースっす。』

『実況お前なのか……。』


『なんすか?ダメなんすか?』

『いや……。不安なだけだ。気にするな。』


『じゃ気にしないっす。』

『くっ。』


『おっ。おーと、エルビス選手が何か言っているっす。ジョジさんあれよろっす。』

『あいよ。読唇術スキルON。』


『何々?な・に・も・な・い・と・は・お・も・う・が・・・う・ご・け?。「何もないとは思うが、領主様に不利にならないように動け」っすかね。』


『あのハゲ。何か出てきたら証拠隠滅を図りそうだな。 あと一文字づつ読むの禁止。うざい。』

『・・・。』


『近衛兵が、中にある椅子に液体を付けて拭いているっすね。あぁアビーちゃんの臭い対策っすか。』

『ゼアスは、その椅子に座って死んでいたからな。』


『あっ!』

『どうしたんや?』


『近衛兵が、胸元からぼろい紙切れを出して、椅子の裏側に隠したっすね。何なんすかねぇ。 解説のジョジさんどう思いますか?っす。』


『あの近衛兵は、アビーちゃんが怪しいと思った方だよな。多分、偽の情報を掴ませようとしてるんじゃないのかなぁ? どう思うかね八木君や。』


『その可能性あり。半年程度経って見つかったものですって言われても、分らないような紙だった。』


『ふむ……。』


『おっと。ここでまたもや近衛兵君。胸元から何かエンブレムの様なものを取り出して机の下にセットしたーっす。 これはどうでしょう?っす。』


『解析画像どん!このエンブレムは……検索。あーピオン家のエンブレムだねー。』


『「ゼアスはここで亡くなった」って証拠にダメ押しをしたいのかな?』

『そだねー。誰もこんな映像で覗かれてるって思わないしねー。』


『よなぁ。疑っていたとしても、一度は組合がゼアスの死亡を認定している場所だから、そんなの見つかったら、普通はゼアスが死んでいた場所の確証を強めちゃうよな。』


『おもろいやないけ!!向こうさんの演技見ておこかぁ。こっちも演じるんやで?』


『あいよ!』


 ◇


 冒険者組合長シトラウス・マッケンシーは、黙ってその話を聞いていた。

 御し難いとはこのことであろう。

 ただ、浮かれているこのギルドとは別に、彼は今後の展開が見えずに悩んでいた。


 正直、小屋を調べたかったのはゼアスが生きていることが、ほぼ確定しているからであり、ゼアスが「死んだ証拠」を見つけるためではない。


 逆に、相手は「死んだ証拠」をこちらに見せたい。

 そこは、ラスルトが、頭の狂っているジアス・ピオンと自分を結びつけたくない為なのか、ゼアスと今でも繋がっているからなのか。 その先に見据えるべき展開が、読めていない。


 奇しくも、はしゃいでいるカットレイは、「並列思考」で同じことを考えていた。

 だからだろうか、彼女は組合長の難しい顔の意味が分かる。


『組合長はん。 この覗き見の次の展開が読めへんのやろ?』

『そう……だな。』


『ワシも読めへんのや。でも、考えてもしゃぁないやろと思ってる。 出たとこ勝負やね。』

『わかるが、立場的にも危険を回避するため、先手を打ちたい思いがあってな。職業病みたいなものだが。』


『まぁ、ワシら似た者同士やな。 で、何やけど。1点聞いてええか?』

『ああ。』


『小屋の結界のことやねん。』

『結界?』


『追撃者がもう一人おるやんか? あれの感知スキルとかも結界でわからんよーになるんか?』

『ああ。完全に消えるかどうかはわからんが、消えるはずだ。』


『じょっちゃん。ほい。説明してあげて。』


 →【結界の宝珠】

 あらゆるものの干渉を阻害し、対象を守る結界が貼れる宝珠。 設置の宝珠と、始動の宝珠と対になっており、始動の宝珠に魔力を込めることで作動する。

 宝珠のランクにより、自動で大気のマナを吸収する永久機関のものから、術者の込めたマナ量に左右されるものまで、様々あるが、失われた技術で作られているため、その国、領の宝となっていることが多い。


 →【深き闇の森林 小屋の宝珠】

 半永久機関の結解の宝珠。始動の宝珠により結界を解かない限り対象は守られる。また、その中は安全区域となり、魔物だけでなく人であっても中の状態に干渉できない。 10年程度は結界が維持される。 フィルム領の宝であったが、領主一族が関係した猟奇殺人の主犯が対象の小屋を根城にしていたため、領主の息子ラスルトが、宝といえる宝珠を使い小屋を封印した。


 丈二が、カットレイと組合長に結界について説明する。


『ほう。ってことはやで? 結界内では気配悟られることは、ないんやな?』

 カットレイの口元が吊り上がる。


『組合長はん。 上手に誘導してもろて、全員が小屋に入ったら、あのポンコツに結界を張らせよか!』


 これを聞いて、丈二も八木もケレースも口元が三日月となる。


『本当に、君たちは御し難い……。』

 何をするのか、ある程度察しがついてしまった組合長が、再び肩を落とす。

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