第88話 森の小屋(1)

 痺れ薬漬けにしたふたりの追従者をサニーに乗せ、丈二が戻ってくる。


「流石に3人目は、サニーさんでも、探せないですよね……。」


 今回の件、十中八九で、領主側……ラスルトの差し金であろう。

 実は、ラスルトの側近エルビスとその近衛兵には、それについての察しがついているんじゃないかなと、丈二は横目で彼らを睨みながら思う。


 ◇


「はぁ。お疲れさん。こっちも終わらせといたで。」

 カットレイは、丈二のその声の方に疲れた顔で言う。 


「本当よねぇ。何なのこれ?こんなこと初めてよ。」

 三つ葉のローズヒップも訳が分からないと眉を細める。


「あ~。何というか…MPK(モンスターパーソンキル)?」

 と、サニーが背負った黒ずくめのふたりを指さす。


「MPK?私PK。それでOK! うひゃ」

 アークメイジのフリージアが、右手に炎の球をどんどん大きくしながら、口を三日月に吊り上げている。


「あ。あわ。あわわ。 やばいスイッチ入った。」

 ローズヒップがきょどる。


 丈二は、この子もこっちのタイプなんだ! と、思いながら、「だよな~。俺も腹が立っているので薬漬けにしておいた。ひゃは~。」と、同じように、うひゃひゃとひゃっはっは~で、フリージアと笑いあう。


 フリージアは、うひゃひゃ笑いながら、うんうんと首を振り炎の球を鎮め、うひゃひゃ(OK分かった!)と丈二の肩を叩き、親指を立て追従者の前まで行き、腹に拳を振り下げる。


「はぁスッキリした。まさかとは思うけど、この中にこれと関係ある人いないよね?いたらマジ殺すからね?」


 もう、ロールプレイもクソない。殺気全開で領主側の面々を睨む。


「い…いや。わ…私たちは何も知らない。し…知らないから!本当だ。」

 エルビスが怯えながら尻もちを付き震える。

 近衛兵も後ずさりをし目を逸らす。


(丈二さん。この人多分嘘は言ってない。 だけど、近衛兵の一人がちょっと怪しいかも。)

 アビーが、ボソッと丈二に言う。


(OK了解。 流石アビーちゃん。)

 そう、いい返しながら、丈二は、その近衛兵にマーキングをこっそりと付ける。


 ◇


 組合長が、ある程度をオマージュに包んだ話を皆に伝えて、このことについて、意見を募る。


 その結果、(痺れ)薬漬けの2人をそのままサニーが運び、もう一息で着く小屋に進むことに決める。


 追従者が3人以上いるのは確定しているが、3人とは限らない。

 また、ひとり目の追従者が、一番の手練れであろうと皆が思っており、次からは最大級の警戒をし、向かってくるだろうと警戒を高める。


 幸いにも、気配感知では、元の静かすぎる森に戻っている。

 その理由は、MPKをする為に追従者が仕掛けた所業とも思えるが、それだけが理由が付かないと、組合長から伝達が入り、「みたらし団子」の面々は、気を引きしなければならないなと感じている。


 八木・ケレとカットレイ、組合長との脳内会議での想像は弾む。


 MPKという悪意のイベントを脱した為、むしろその状況を楽しむようになってきている「八木・ケレ・カットレイ」と、気配感知に集中をしているため会話には参加していない「丈二」に対して、組合長は今更ながら、こちらの気も知らないで酷いもんだと思う。


 ※ ※ ※ ※


 あのMPKから30分程歩いただろうか。

 獣道が少し開け、小さな小屋が見えてくる。

 その小屋は、結界で守られているのであろうか、保存されているような雰囲気でそこにあった。


 組合長が小屋を指さす。

「着いたな。ここがゼアス・ピオンの死体があった小屋だ。 宝珠の魔法道具で結界がなされ、魔物が入ってこれないようになっている。 まぁ……昔の名残だな。」


「あの一件以降、小屋の中には鍵がないと入れない。その為に私が来ている。」

 と、エルビスが、胸元から小さな珠を取り出し、小屋の入り口の前まで行き詠唱を始める。


「では、先の打ち合わせの通り、まずは、我々が中に入り確認をさせて頂く。」


「はぁ? 大事な手掛かりを始末する腹やないやろなぁ?」

 カットレイがわざと聞く。


「そう突っかかるな。フィルムの街ってのは、ここのダンジョン探索で築かれた街なのだ。 言わば、こんな小屋でも聖地であり、領主側としては大切な場所。 お前も聞いているのであろう?あのことを。」


 何時もの駄目おじさんの顔ではない。

 組合長の言う通り、根は真面目で仕事には純粋のようだな。


「ああ。聞いている。ダンジョンの悪魔のことを。」

 丈二が、交渉術をONにする。


「そう。だから、ゼアスが死んでいた場所だけではないのだよ。ここは。」


「わかりました。信じましょう。領主として見せれないものが無いか…その確認をしたいということですよね?」


「ああ。すまないがそういうことだ。」


 丈二は、「俺は納得したからな」と小屋の外壁にもたれ掛かる。

 エルビスはそれを見ながら、全員の顔が納得したところで、近衛兵2人と、小屋の中に入ってった。


 ◇


『はい。皆さん子芝居お疲れ様っす。ジョジさんこちら準備OKっすよ~。』


『了解、ではでは。ここに取り出しました軍手ちゃんを、この穴に押し込みまして。どや!』


『もう……ちょい奥っす。OK、見えた! ではでは、覗き見開始っすね♪』


『『ふっふふー。馬鹿貴族! あのラスルトを見た俺たちが、たかが真剣な顔をしたくらいで、お前達を信じる訳ないだろ! ばーか。』』


 丈二と八木がハモリながら、頭の中で悪態をつく。


 まったくもって酷いもんだ…。 

 そして、組合長は、やはり溜息を付く。 

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