第87話 逆追撃(同職嫌悪)

《サニーさん。どう思います? 相手も、『気配感知系のスキル』を持っていると思いますか?》


《そうですね。こちらの位置が正確に把握されていますので、そう考えた方が、自然かと。》


《なら…ごにょごにょごにょ》


《単純ですけど。だからこそですね。》


 サニーとの打ち合わせを済ませ、追撃者を撃退してMPKの脅威を削るだけ削れるように動くことにする。

 あちらが気配感知をしているなら、こちらが近づいても躱されるだけである。

 

「気配遮断っと。」

 丈二がサニーに乗ったまま、気配を遮断する。


 気配遮断もレベルが上がっており、ある程度のレベルの感知能力ではないと見破れないレベルまでは進化している。そう、相手が行っていることが丈二にも出来るのである。


 そして、それは「彼が触れている者も気配を遮断することが出来る」ところまで進化しており、恐らくは、彼以外で取得している者が少ないであろう「スキルのレア展開」であると同時に、任意で切り替えが可能な、優れ機能に進化していた。


 また、何より脅威となっているのは、サニーに限っては、パスが繋がているため「離れていてもそれが可能」なことにある。

 彼らコンビの在り方は、完全に暗殺者側のそれにアップデートされつつある。


「ずっとコソコソ隠れて覗きやがって。鬱陶しいんだよ!今度はこっちが攪乱してやる。」


 この怒り、正に丈二の完全な、嫌悪であった。


 ◇


 丈二達一行の右前方の追撃者サイリスは、ひとりの気配が消え、仲間のMPKがまず功を刺したと思った。

 また、その気配が消えた対象に付いていた魔物が、前方に猛烈なスピードで逃げ出したのも、従魔契約が切れたからなのだろうと思い込んだ。


 これは、丈二が、自分が追撃者であったらどう観察するのか、それを逆手に取り仕組んだ演出。


 一行が円陣となるのを、自分がやられたであろうタイミングで気配を少しづつ消し、力尽きたように見せる。そのタイミングでサニーに乗り、全面方向にダッシュする。

 サニーは、普通の魔獣に戻って逃げたと見せかけ、サイリスから斜め側へとはなるが距離を詰めていく。


《サニーさんこの辺りで。》

《はい。ご武運をお祈りします。》


 丈二はサニーから降り、気配を消したままサイリスの方へ駆け出す。

 サニーは、後方右45度に転換をしてジグザグに走り、MPKの進行ラインを超え平原の方に向かう。


 サイリスが、事前に深き闇の森林の深淵を調査していたからこそ、その魔獣の行動が「普通に」見えたのだが、そのことは、丈二達に運が味方をしたのだと言えた。


 もうひとつ、彼が見誤ったこと。

 それは、サニーが弱い従魔であると思い込んだこと。少なくとも自分より。


 本来ならサイリスは、ここで、気配を消すべきだったのかもしれない。

 それならば、丈二の視界に彼の姿が写る前に、深き闇に紛れ込めたのであろう。

 だが、気配を消したのは、MPKを進行させるために消したそのタイミング。



―――気配を消しても、もう、お前の姿は丸見えなんだよ!


 丈二がニヤリと笑い、それを追う。

 そして、サニーがMPKの進行方向にターンした瞬間に、丈二はパス越しに「サニーの気配」を消す。


 サイリスは、何かおかしいと、サニーの方向に気を向けた瞬間――。

 頭に衝撃が走り、彼の記憶はそこで途絶えた。


「君ー。それは、追っていた側のおごりだよなー。」


 丈二は、アビーと作った麻痺薬と睡眠薬を、アビーの如く「えいっ!」と注入し、他のふたりの追従者に気が付かれないよう、気配共々意識を消し去る。



 ただ、MPKについては、進行の引率者を無効かしたに過ぎず、その足はもう止まりそうにない。 丈二は、敢えてそれを、そのまま走らせればいいと考える。

 その後方に回り、気配を遮断している「半ステルス状態」で10匹程度いる魔物を間引いていく。


 この群れも、黒豹や黒コブラがいる。

 冷静な状態であれば、黒豹はサニーより速いのかもしれない。


 だが、魔物の群れは頭に血が上っており、ただただ、自分を怒らせたであろう目前の人間の一行に、一心不乱な状態となている。

 この状況であれば、賢狼で聖霊のサニーには、容易く、水銀毒で噛むだけで魔物を間引くことが可能で、どんどん魔物の数が減っていく。


 ただ、「ダークレブナント」なる黒いローブと釜を持つアンデッドには、噛みつきが出来なかった。

 まぁ。こいつらは「三つ葉」や神官長に任せれば大丈夫だろうと手を出すのを止め、ある程度間引いたところで、次の『獲物』を逆追撃するために、丈二とサニーは、その場を去る。


 ◇


『ってことで、「自分を観察されるのが嫌いな男」が観察していた輩のひとりを捕まえー。ついでに4匹を間引いて、そのまま左の奴を捕まえに走っていったぞー。』

 八木が、面白そうにカットレイと組合長に言う。


『八木はん。申し訳ないけど全部聞こえとったっちゅーねん。ダークレブナントって幽霊なんやろ? どう戦えばいいかっちゅーことを、ご伝授頂きたいわなぁ?』

 カットレイが、控えめに突っ込みを入れる。


『それなら問題ない。神官長に今しがたそのことを伝え、セイクリットクリアの詠唱に入ってもらっている。本来なら厄介な敵なのだが、奴らには神殿の人間は、天敵みたいなものなのだよ。 来ると分かれば、一番対応がし易い魔物だ。』

 組合長が、先手を打っていることを伝える。


『はーい。ケレちゃん情報っす。 後30秒程で、魔物とはち会うっすよ。数は黒豹3、黒コブラ2、ダークレブナント3っすね。順番もその順で到着するっす。』


『了解したでぇ。』



「右前方。そろそろ遭遇します。 まずは、黒豹3。続いて黒コブラ2、ダークレブナント3の順だ。それでいいかなアビーちゃん。」

 組合長は、『臭い系スキル』を持つことが周知されているアビーに、索敵をした役を振る。


「は?え? あ……。えーと間違いないかなぁ?」

 耳栓がなく何も聞こえていないため、状況を把握できていないアビーは、少しきょどりながらも「合っているよー」と言い切り、役を演じる。


「来るぞ!第2ラウンドだ!!」


―――セイクリットクリアッ!!



 ~・~・~・~


『てな感じで、1陣2陣のMPKをいなし、3陣目も同じように、やっつけちゃったんすよね。 当然、3陣目の追撃者も、難なくジョジさんが捕まえて、痺れ漬にしてたっす。これ、同じ敵っすから、倒し方も同じなんで、割愛でいいすかね。』


 ケレースが、真剣に見ている若月に映像を一時ストップし聞く。


『あ。はい構いませんよ。 それより…このマリダさんというお婆ちゃんが…。』


『あーそうっすね。つぶ猫の前のご主人様っすね。それと、ベンジー君の育ての祖母っていうんすかね。そんな関係だったみたいっすよ…。』


『そうですか……。』

 少し寂しそうな目で話している若月の顔を見て、つぶ猫も大凡の映像進行がわかり、一度目を開き、寂しそうにまた目を瞑る。


「ふん……にょ……。」

 小声で、小さく呟きながら……。

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