第85話 深き闇の森林(2)

 森に一歩入ると、広葉樹の枝が広がる洞窟のよう世界であった。

 葉の色が灰色に見える不思議な色合いで、「深き闇の森林」とはよく言ったものだなとみたらし団子の面々は思う。


 先頭を行く「三つ葉」の面々は、護衛対象に歩幅を合わせゆっくりと進む。

 まるで、後ろにでも目がついているかのように、その進みは絶妙であり、流石はB級冒険者のエース格のギルドである。


 この森の形状は、所謂ドーナツ型となっており、中心部には「死滅の墟城」と呼ばれる不毛地帯がある。

 この不毛地帯は、遥か昔に死龍のブレスで生物が住みにくい環境になっただとか、天から星が降ってきたとか、言い伝えは様々あるようだが、実際は違うようだ。


 ◇


『組合長さん。文献見つけたんだけど確認していい?』

 八木が、静かな声で組合長に聞く。


『なんだろうか。わかることなら答えるが、』

『この森の真ん中に「死滅の墟城」ってあるけど。これって不毛になってる理由って……。』


 組合長の顔が少し強張り、ひとつため息を付き八木に答える。


『本当にとんでもないな君は。ああ、そうだ。ダンジョンがある。』


『んで、そこにこんなのが……。』

『はぁ……。そうだ。悪魔が封印されている。』


『―――悪魔バフォメットが。』


『ジアスがさぁー繋がりって言ったときに、「バ」って言いかけたんだよねー。それに顔が山羊ってのが、八木としては引っかかるー。』

『ぷひゃ~!ジンジンそれ面白いっす!! って、これでジアスの付いた悪魔ってバフォメットで確定じゃないっすか? まぁ組合長君は知ってたっぽいすけどね。』


『……確証は持てなかったが。』


『ふーん。せやけど、それはあのクズに取り付いてた悪魔やろ? 悪魔付きなんて、封印されとったり異界におる悪魔がすることやから、今から向かう小屋でのゼアスと結びつけるのは、ちと早ないか? まぁどーせ、何かは出てくるんやろうけど。』


 森の入り口から、「死滅の墟城」までは10km程度はある。

 そして、小屋はその2/3程度の距離に位置する。

 小屋は元々、ダンジョンへ行く冒険者が使う休憩場所として建てられたものであり、神殿が、ダンジョン最奥に悪魔を封印したことにより、ダンジョンは閉鎖され、小屋共々、領主の預かりになったらしい。


 てっきり、2年前にゼアス・ピオンの亡骸が見つかったため、領主が管理している小屋だと八木も丈二も思っていたが、それよりも遥か昔に、『悪魔封印に伴い、領主直轄になった』という事実に辿り着いたふたりは、点と点が繋がったような感覚を覚えた。


 組合長はそれを知っているはずであるが、何故その情報を、調査に協力している自分たちに、伝えてくれていなかったのか。

 丈二は、そのことを、彼にぶつけようかとも考えたのだが、恐らく、領主というフィルムの街を治める立場の人間に、不要な疑いをかけないための配慮であったのだろう、と思い言うのを止めた。


 ◇


 森を歩き進めるも、三つ葉のふたりが報告した通り、魔物の気配が少ない。

 丈二もサニーも、感知をしながら進んでいるのだが、探知される強そうな魔物は、一行の進路とはずれており、進行方向で鉢合わせしそうな敵は、『三つ葉』の面々に、微塵切りにされて終わる魔物程度しか感じられなかった。


 森に入り、30分程は進んだのだろうか。

 辺りは、更に鬱蒼うっそうとしてきており、かなり視界が悪くなってくる。

 それまでに、3度程魔物に遭遇をしたが、遭遇と同時に、魔物は『三つ葉』の面々のアイテムボックスに収納されることとなる。


 特に、ファランクスのローズヒップの盾役は、レベルの違いを見せつけ、それでも決して弱くないであろう魔物に対して、子供をあやす様に、欠伸をするかの様に、受け止め、いなし、体制を崩した魔物はセイバーのライティアとアークメイジのフリージアに、一瞬で絶命させられていた。


 丈二達も「万科辞典」で魔物の弱点等を、常に把握しながら臨戦態勢を取っていたが、その弱点を、彼女達は的確に捕えており、また、討伐部位や稼ぎになる素材を傷つけることなく倒す様は、Dランクの「みたらし団子」の面々との実力差を、まざまざと見せつる戦いであった。


 ◇


 そんな、B級冒険者による安心感に包まれながらの移動で、一行が安堵を持ったであろうそのとき。 ――突如、丈二の感知にマーキングが映る。

 少し離れた場所にいた強めの魔物数匹に、そのマーキングに映った者は「気配を晒して」攻撃をしているようだ。


 攻撃をした後、その者は急速にこちらに向かって移動をしだした。


 《サニーさん。感知に何かを捉えたという合図を、周りに対して示して貰っていいですか? 俺の感知の存在は、まだ「隠しておきたい」ので。》

 《わかりました。》


 ―――グルルルル!

 サニーが、ひとつ唸る。


「俺の従魔が、何かを察知したようです。先程までの魔物では、意にも介さなかったところを見ると、今回のものは、強敵なのかもしれません。警戒を!」

 丈二が、それっぽく指示を出す。


「方向は? 近衛兵のふたりはエルビスさんの護衛を。他の皆は臨戦態勢。」

 組合長が指示を出す。


「方向は右手。まだ少し距離があるようです。」

 声に出すのは「魔物」の方角と位置。


 但し、脳内でカットレイと組合長には、追加で「追跡者」の位置を伝える。


『追跡者は50m先で気配を消した。恐らく当面は、身を潜めると思うので、魔物を優先で行こう! 数は6。』

『了解や。』


 ―――グワァアアアア!

 サニーが、更に威嚇をする。


「来ます!」


 草の陰から、3匹の黒い魔物が飛び掛かかる。


 ローズヒップとカットレイが盾で、その2匹を受け止める。

 残りの一体は、隊の裏手に回りこむ。


 その足元にアビーが、スティングを投げる。スティングには、痺れ薬を入れた袋が仕込まれており、それが魔物の顔に掛かる。

 それに併せて、ナッツも後方に回り込み、アビーとベンジーを守る位置取りに移動して構える。


「ブラックレオパルドかぁ。こいつは、確かに厄介すぎ!」

 セイバーのライティアが、面倒臭そうに言う


 ◇


『本当に面倒臭い敵っすね。MPK(モンスターPK)っすか。』

『多分。追跡者3人が別々に、交互でやってきそうだなー。索敵索敵!』

『腕が鳴るっすねぇ!』


 強敵に強襲されている当事者を無視して、現世で安全なところからサポートしている「ゲーマー二人」が目を輝かせる。

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