第84話 深き闇の森林(1)

 森の偵察に出ていた「三つ葉」ファランクスのローズヒップとアークメイジのフリージアがベースに戻る頃。

 ベースの周囲一帯には、マウントカウの焼かれた香ばしい香りが漂っていた。


「うわ。何この香り!」

「これ。ヤバい。はやく!はやく!」


 これどうぞ。と犬人族の小柄なアビーから渡されたプレートとカップには、丈二とマリダ婆さん渾身の肉料理とスープ。

 ちょっと固いのが、逆に遠征に来ていると思える「味のある」パン。


 狩りと偵察でお腹ペコペコのふたりは、もう我慢が出来ないとプレートをガツク。


「ぬわ。こぉ…これわっ!!!」

「んぐぐぐ!!」


「「う~ま~い~ぞ~~!!!」」


 高級食材マウントカウの肉料理である。

 マリダさんの「ばばぁ悪魔風ステーキ」は、ヒレ肉特有の赤身と、しつこくない適度の脂身がじゅわ~と肉汁とともに流れ口ので広がる甘さ。

 そして、玉ねぎの甘味と酸味にニンニクの風味、マリダさん特性ハーブの香りが際立つ、付け合わせのソースが悪魔級に絶品!


 一方、丈二の「男の粗びきゴボウハンバーグ」も、脂身が少ないあっさりとした肉質に、こちらでは、殆ど食べられていない「ゴボウを香り」が立つまで焼いたハンバーグで、ゴボウにより臭みが消え、肉本来の美味さが口の中を駆け巡る。



「「はぁ~幸せ。」」



 二人が料理にへろへろになっているのを見て、丈二とマリダ婆さんは、満面の笑みを浮かべ、再びハイタッチをして喜ぶ。



 ※ ※ ※ ※


「ちょっと狼さんのご主人様。何よあの料理!凄かったじゃない!」

 食事を終えて、集会用の天幕に入ってきたローズヒップが丈二に言う。


「お粗末様です。ゴボウが食べれたみたいで良かったです。」


「ゴボウ?あの捏ねた肉に入っていた木の皮みたいなもの?」


「ええ。俺の故郷では好まれて食べる植物の根っこなんですよ。フィルム近郊でも見つけて使ってみました。体力とマナの回復効果もあるみたいですよ。」


「確かに。マナが大幅。回復した。」

 アークメイジのフリージアは片言の言葉のように話す。


 最もこれは彼女のロールプレイで、街の中ではきゃぴっとしていることは周知の事実である。


「へぇ料理に回復効果を併せるなんてやるじゃない!」

「ありがとうございます。今度居住区の端で呑み処を開くので是非御贔屓に。」


「あ。みたらし団子って、その規模で総合だったもんね。わかったわ!絶対に行くから一杯奢ってよね!!」


「もちろんです!」


 フィルムの街の有名冒険者達に褒められ、丈二も冗舌になってお店の宣伝。

 彼女たちが来てくれればそれなりの宣伝になる。


 会話の流れから、彼女たちは多少でも興味は持ってくれたのかなと丈二は思い、ゴボウの回復効果を説明して良かったなと思う。



 ◇


 食事の片付けやベース整備を終えた組合職員とカットレイ達が天幕に戻り、これで全員が揃う。


「それで、森はどうだったんだ?」

 領主ラストルの右腕であるエルビスが、早速とばかりに彼女達に聞く。


「魔物への遭遇頻度が極めて少ない。そして異様なまでに静か。感想はそんなところね。」

 ローズヒップが声のトーンを少し落として言う。


「珍しいな。あの森の魔物は強さもそうだが、どちらかというと、数の暴力が怖いのだが。」

 組合長も首をかしげる。


「森の入り口付近では、ままあることあだろ。小屋までの道中、厄介なことが多いから魔物が少ないに超したことはない。」


 エルビスも小屋の管理の任で数度来たことがあり、毎回魔物に手を焼いているとのことである。実はこっそり、アビーにエルビス観察させているのだが、今のところ不審な行動・言動はないようだ。


「それも一理ありますな。しかし警戒だけは怠らないようにしませんと。」

 組合長がエルビスに言う。


「もっともだ。で、このベースを見るものを残すとして編成は如何する?」

 ぶっきらぼうにエルビスが組合長に返す。


「組合としては、森を冒険者に任せて頂き、領主側のお付の方で、こちらを守って頂ければと。そちらは、危険な任務を避けて頂いた方が良いかと思っておりますが。」

 敢えて、領主側の護衛を残す案を提案してみる。


「何を言ってるんだね? ベースの守りなんてものは、低ランク冒険者に任せればいいのだよ。こちらとはレベルが違うんだ。レベルが!」

 エルビスが声を荒げる。


「ああ?なんやワシらが弱いような言いようやな。まぁええわ。その代わり人選は領主も組合長にも選ばせへんで?ええなおっちゃん。」

 カットレイが輪をかけて、でかい声で凄む。その後ろでサニーが威圧する。


「な…なにを!冒険者風情が失礼な!」

 カットレイとサニーの圧に押され、委縮しながらエルビスが小声で言う。


 ◇


『絵にかいたようなヘタレ貴族?』

『ダサMOBっすねぇ。』

 八木ケレが呆れて言う。


『そう言ってやるな。彼は彼で、表面上清廉潔白のラスルトのお付で苦労している苦労人だ。今は、久々に目の上のたん瘤がいないんだ、多めに見てやってくれ。』


 意外にも、組合長が彼を庇うのでカットレイがビックリする。

『何や、組合長はんは肩持つんやな? 意外やわ。』


『昔からのよしみでな。そこまで悪い奴ではない。』

『すみませんが、俺たちはラスルト陣営は全員疑ってかかりますので。』

 丈二としては、ラスルトに加担する者すべてを信じないことにして、遠征に臨んでいる。


『あぁ。それは私も同じだ。彼の今までの人となりを言ったまでだよ。』


 ◇


「まぁお互いに落ち着いてくれ。ベースの護衛の人員は組合職員1名とみたらし団子に任せる。領主側の護衛は連れていく。それでいいな。」


「ふん。初めからそう言えばいいんだ。何時もお前はそうだ。」

 何で貴族ってこうなんだろう。クレイジーでも仕事を的確にこなし、悪態をつかないラスルトの方が、まだマシなんじゃないか?と丈二は思うが、大人の対面もあるからなと、ここは割り切る。


「では、小屋に向かうが、護衛対象と冒険者を簡単に分けておく。神殿のお二方と私は『みたらし団子』と共に、領主側の方々は『三つ葉』と共にそれぞれ頼む。」


 

「先頭を『三つ葉』、後方を『みたらし団子で』、護衛対象の脇を『領主側の護衛』と、こちらも『みたらし団子』。みたらし団子の配置人選は、団長に任せる。」


「了解したわ。」

 三つ葉の面々が頷く。


「こっちもOKや。」

 カットレイも了承し、人選を行う。


「うちのチームからは、ベースに残るのがナッツとエイディ。後方をにいちゃんとサニーはん、アビーとベンジーはん。脇を固めるのが、左をミッツ、右にワシや。なぁ!それでええんやろ?」

 カットレイは、わざとエルビスに向って言う。


「ふん。あの馬車は権威あるものだ。しっかり守らせろよ。」

 エルビスが、少し汗をかきながら言う。


「はぁ?そんなん知らんがな! 見張りはするけど、危険だったら、そんなものは捨てて逃げさせるで? 命あってのやさかいな。」


 エルビスが真っ赤になって、カットレイに何かを言おうとしたが、組合長がそれを予想してたかのように制止する。



 これにて、会議は解散となり、程なく一向は、森に向って進む。


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