第83話 マウントカウのゴボウハンバーグと悪魔風ステーキ

 丈二達は、仕留めたマウントカウを持ってベースに帰る。


 追跡者については、ベースに着いた時点で距離を確保されていると思うので気配感知を解く。 恐らく、見晴らしの良いここでは何も仕掛けてはこないであろう。


 

「わ!やるじゃん狼さんのご主人様!大きめだね!肉質もよさそう。」


 先に戻っていた三つ葉のローズヒップが、戻ってきた丈二達を迎える。

 彼女たちも、しっかりと獲物を持って帰ってきているようだ。


「これから、私とフリージアは先行して森の中を一度見てくるから、食事の手伝いをしてあげて。」

 そう言い残し彼女はアークメイジのフリージアと共に森へと向かっていった。 


 ◇


 ベースでは食事の準備が始まっていた。

 仕切っているのは、神殿から来ている神官長お付きの老婆だ。


 はて?この婆さん、何処かで見たことがあるなと丈二は思う。

 こちらの世界に来て、少しづつ顔なじみも増えてきているのだが「はてはて?」と考えていると、八木から『BARの隣の家に住んでいるマリダさんじゃね?』指摘されて、そうだと思い出す。


 確か黒い猫を可愛がっていて、たまに、お出かけをしているようであったが、神官様だったんだなと丈二は思いながら、マリダ婆さんに声を掛ける。


「どうも。近々、お宅の隣でBARをオープンする予定の丈二と言います。」

「あら。お隣さんの!今日はわんちゃんじゃなくて狼さんを連れていらっしゃるのね。」


「あ~あはは……。」

「私は、数日家を留守にすると心配で、ほら。」

 彼女の荷物と一緒に置いてある司祭帽の溝に、小さな黒猫が丸くなっていた。


「この子ツブリーナって名前なの。お隣さんのよしみで可愛がってあげてね。」

「はい。もちろん。俺猫も好きなので。食事の準備を手伝いますね。」

「あら。飲み処の店主さんが手伝ってくれるなら大歓迎よ。」


 思えば、この時が、ツブ猫とその飼い主だったマリダ婆さんとの最初の会話だったのだと思う。


 ◇


 メインとなるマウントカウの解体は、ギルド職員、ナッツにエイディ、そして三つ葉のライティアと人数を割き迅速に処理をしていく。高級肉であることもあり鮮度を保つためである。

 解体をした肉は組合長のマジックバックに入れて保存するのだそうだ。



 エイディが、丈二とアビーと一緒に作っている香辛料と野菜を持って、即席厨房に入って来る。


「丈二。香辛料数種とオニオン、ゴボウ持ってきたわよ。」


「お。ありがとう。助かる。」

 エディが持ってきた香辛料は、塩に胡椒、そしてクミン。ローズマリーも少々。


「それと、ナッツがマウントカウの部位どこ料理する?って聞いてたわよ。」


「マリダさんどうします?俺は首から肩の肉ネック腰回りの筋肉質の肉ランプで一品作りたいのですが。」


「あら。脂身の少ないところを使うのね。それなら、私は折角なのでヒレ肉を豪快に焼こうかしら。後は、玉ねぎもあるし、にんにくもあるものね。うんうん。」


 マリダ婆さんは、玉ねぎを微塵切りに刻んでいく。

 そこにエディが持ってきた塩とコショウを振り、にんにくを擦り入れて混ぜる。

 マリダ婆さんは、袋から乾燥させた雑薬草の粉末を少し入れ、ローズマリーを人差し指くらいの長さに千切り1枝入れ、魔道コンロを使い蒸しだす。



 ふむふむ。いい香りがしてきたな。と丈二も調理を始める。

 先ずは、ゴボウを1本笹搔きにして行く。昔から愛用している十徳ナイフで鉛筆を削るように掻くのが懐かしく好きな作業だ。

 その作業の間にマリダ婆さんに、同じように玉ねぎを微塵切りにして貰う。


「肉持ってきたでぇ~。」

 ミッツとナッツがヒレ肉と首肩肉ネック腰肉の筋肉質の部位ランプを持ってくる。


「よし。ミッツはマリダさんの肉を切り分けてやってくれ。ナッツは細かく肩肉と腰肉を切り刻んでこの中に入れてくれ。」


 丈二は、大きめのボウルをナッツに差し出す。

 そこにナッツが細かく肉を切り分けれる。


 肉が切り終わったところで、自分の棍を水でよく洗い火に入れ消毒をする。そして、それをボウルに入った肉に向かって突く。ひたすらに突く。


「よし!いいね。」


 塩少々コショウたっぷり、微塵切りの玉ねぎと笹搔きのゴボウをを入れ、手で捏ね団子にして熱した鉄板に押し付けて小判状にして片面4分程焼く。


 辺りは肉の焼かれた良い匂いに包まれ完成。

 『男の粗びきゴボウハンバーグ』お好みでクミンをどうぞ。



 一方、マリダ婆さんは、丁寧にヒレ肉の表面に塩コショウを手で擦り込みを焼く。

 焦げ目が両面に付く程度まで焼いたら、ローズマリーを一片入れて、水を少し鉄板に垂らし蒸す。

 焼きあがったステーキに、先ほどの玉ねぎを蒸したものを満遍なく載せて完成。


 『ばばぁの悪魔風ヒレステーキ』。



 後は、牛骨で出汁を取り、玉ねぎ、にんにく、ローズマリーとマリダ婆さん特性のハーブを加えて作ったスープと街から持ってきたパンを切り分けて、本日の食事の完成です!



 調理が終わり、マリダ婆さんを見ると右手を挙げている。

 丈二も同じように手を挙げ、「ぱちん」と手を合わせて、ハイファイブで料理の完成をふたりは祝った。


 その光景を、片目を開けて見ていた黒猫が「にょ」と小さく鳴く。



 ※ ※ ※ ※


 丈二が、マリダ婆さんとクッキングを楽しんでいるその時、「三つ葉」のファランクスのローズヒップとアークメイジのフリージアは、森の異常を感じていた。


 普段は強めの魔物が多く生息しており、戦闘に事欠かない森であるのだが、魔物への遭遇頻度が極めて少ない。そして異様なまでに静かである。


 今回は森の入口付近の見回りが目的である。

 目的地の小山までは、森を1時間程度進まなければならないため、最初の入口で森の様子を覗えれば、それで目的は達成されたことになる。


 2人は、無理をせずに一度ベースに戻ることにする。


 一方、それを見ているふたつの目線がある。

 ひとつは、気配を殺している追跡者。


 もうひとつの目。

 それは赤く…深く深く暗く濃い赤い目。

  

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