第82話 三つ葉と追手

 「デリシス平原」というのですね。と映像をみていて若月は呟く。

 何となくデリシャス平原のようで可愛らしい。


 っと、そうじゃない。

 確認したいことがあったのだと、若月はケレースに聞く。


『ケレースさん。この盗賊さん達って、あのケーキみたいに切れちゃう人たちですか?」


 若月の言葉の先に意味があったのだが、ケレースは爆笑する。


『いや。本当に変わってるっすね。まぁ確かにケーキみたいに切れてたっすけど。ええ。そうっすよ。後ろに控えていたのは、それで合ってるっす。』


『やっぱりそうですよね。私の経験から、見張っていた数人はあちらの筋の方ですよね。』

 歪モードではないが、同じ穴の狢ということなのだろうか、真剣な顔持ちである。


『あー。そっちっすか。なるほどっすね。合っているかどうか続きを見ていくっすよ。』


~・~・~・~


 デリシアス平原で、まずは現地調達で食事となった。

 遠征キャラバンは平原入口にベースを張り、食事の支度をする。


 食材調達は、B級冒険者の3人と、丈二、サニー、エイディの3人。

 2組でマウントカウを狩ることになり、平原の中に向かう。


 このB級冒険者、ギルド名を「スリーリーフクローバー」通称『三つ葉』といい。

 この3人と、生産者で事務系の2人で構成されている、女性だけの少数精鋭のギルドである。

 何処となく「チームみたらし団子」に近いものを感じ、親しみをもてるギルドであったが、冒険者色が強く総合ギルドにはしていない。


 3人はそれぞれ、

  リーダーで盾系重戦士の上位職ファランクスのローズヒップ

  剣士の上位職セイバーのライティア

  魔法使いの上位職アークメイジのフリージア

 で構成されていて、そのバランスと堅実さから組合の信頼が厚い。


 また、全員が美しく、ローズヒップは、筋肉質なれど出るところが豊満で、ライティアは、胸やでん部は普通なれど、その締まった体が美しい。また、フリージアは小柄で幼児体系なれど、その愛くるしい見た目と大きな目でファンも多く、フィルムの街では人気のある冒険者だ。


「よろしくね。狼さんのご主人様。」

 ローズヒップが握手を求め、丈二はそれを受け入れる。


「よろしくお願いします。ここでの狩りは初めてなので、そちらに負担を掛けない程度には頑張ります。」


「マウントカウは本当に美味しい牛なんだけど、最近数が減っているのよ。だから、あの人数が数日満たされる量を確保出来れば十分だと思って、狩りをしてちょうだい。乱獲は無用よ。」


「わかりました。必要なのって2頭くらいですか?」

「そうね。お互い1頭を狩って、合計2頭を持ち帰れば十分だと思うわ。」


 それで了解し、お互いのパーティは分かれる。


 ◇


 丈二達が、このメンバーで狩りに出たのには理由があった。

 ひとつは、サニーの索敵で獲物を見つけ、そのサニーに狩人のエイディが乗り弓で仕留めること。

 もうひとつは、丈二の気配感知で、先ほどの盗賊達をサーチ警戒をすることにあった。


 実は、稀にではあるが、何者かの気配をサニーが見つけており、気配を感じては消えを繰り返していた。そのため、組合長やカットレイを含む通信組は、丈二が得意とする気配遮断を使って、尾行をしている者の有無と、その特定が出来ないかを考えていたのである。


 尾行がされていた場合は、恐らく手練れの仕業と思われる。

 そのこともあり、D級冒険者の丈二が、食材用の牛を狩っていれば、能力で気配を感知していることへの偽装となり、相手に余計な警戒を与えずに、それらを見つけることが出来ると、期待した人選でもあった。


 ◇


 マウントカウは、直ぐに彼らの索敵に引っ掛かり見つけることが出来た。

 5頭程度の群れで、牡牛同士が角を突き合わせている。

 八木の検索の結果、この行為はこちらの世界でも群れのボス争いのようだ。


 肉薄した力比べで、決着まで少し時間が掛かりそうであったため、丈二は木と草むらに隠れ、その時間を利用し気配感知に集中する。


 気配感知のスキルは、鉱山の時でレベル1であったものが、レベル5まで上がっており、感知範囲が拡大し正確になっている。

 また、レベルアップ時に、新たに「マーキング」というスキルを取得しており、一度マーキングをした相手であれば、気配感知の包囲網に入ればそれが分かる。


 実は、先程こちらを監視していた盗賊と思われる数名には、マーキングは既に済ませてある。


 ただ、相手に気配遮断を使われると、それを見抜くことが出来なくなる為、丈二は、奴らが気配遮断を使っていると想定し、サニーから気配の報告を受けてから、それを解く瞬間を捉えようと試みている。

 たが、サニーが気配を感じたのは1㎞程度先で、丈二の索敵限界と重なるため、いまだ気配を捉えられないでいた。


《ご主人様、そろそろ決着がつきます。》

 戦況を見ていたサニーには、決着の行方が分かったようだ。


 どうやら、一回り小さなマウントカウが対格差に負けず勝ちそうだ。

 大きな方も最後の力を振り絞り、角を立てる。

 が、最後は押し負け、頭が上に弾かれた。


 その瞬間、サニーがエイビィを乗せ飛び出し、空中ダッシュを使ってマウントカウとの間合いを詰める。


 エイビィも流石狩人である。

 タイミングもよく熟知しており、丈二よりもサニーとの相性いいんじゃない?と思う程ぴったりに、完璧なタイミングで、頭を弾かれた大きなマウントカウの首筋に、連射で矢を射る。


 矢を射られたマウントカウは、倒れこみ足をバタバタさせるが、サニーが首筋に噛つき止めを刺すと、断末魔を口にし動かなくなる。


 それを見た他の群れ…特に新しくなったリーダーは、自らを盾にして他の逃走を図ろうとするが、そこにサニーが新しく覚えた「威圧」を放つ。

 リーダーは固まり、他は脱兎のごとく逃げだす。サニーは軽く体をぶつけ、固まっているリーダーを我に返し、ワザと逃がす。


 丈二はそのまま身を潜め、サニーとエイディは牛の群れを追いかける振りをして、尾行しているであろう「気配遮断スキルの使い手」の気配が現れるのを待つ。


 そして、丈二の視界からサニー達が見えなくなった瞬間に、マーキングした気配が、彼の気配感知に映った。


「やっぱり奴ら居たか。」

 それを確認して、牛を追っているサニーと組合長、カットレイに報告をする。


『やっぱり奴らが尾行していました。大体の位置は把握していますが、気配遮断を再度使われましたので、現状の位置等は見失っています。サニーさんは戻ってきて下さい。目的を果たしたのでベースに帰りましょう。』


『了解した。追手が確認されたのなら、今後は細心の注意をして進もう。』

 組合長から、そのまま気配感知を継続するよう言われる。


 サニー達が戻ってくる間に、丈二は解体をする係を装い、マウントカウの血抜きをして待つ。

 そして、戻ったサニーの背中にマウントカウの亡骸をゆっくりと乗せ、ベースに帰還をするのだが、相手も流石であり、丈二が気配感知を解除するまで、その気配を表すことはなかった。

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