第80話 キャラバン

 明朝、曙。

 北の門前に集まった一同は、組合長から簡単に森までの説明を受ける。


 馬車は3台で森に向かう。

 道中に盗賊・山賊が出るゾーンを通る為、各々の馬車には、冒険者と近衛兵を配置して警備の役目を担ってもらう。

 森の手前に着いたら、そこからの話を改めてする。


 大まかにはそんな内容だった。



 次に編成分けだ。

 まず、神官長と神官のがいる馬車には、B級冒険者3名が付く。

 次に、領主側の馬車には、ラスルトの右腕であるエルビスと近衛兵2名に冒険者組合の2名が付く。

 この2つの馬車は見た目も豪華で乗り心地も良さそうである。


 最後の馬車には、組合長とチームみたらし団子の6名と、神殿からの推薦冒険者「ベンジー」が乗り込む。サニーも中に入っている。

 こちらの馬車は、荷台に長椅子が付き、日よけのハッチが付いている程度の見すぼらしい馬車ではあるが、みたらし団子の面々はこちらの方が気楽だった。



 ※ ※ ※ ※


 早速の出発となり、各々馬車に乗り込む。

 もうすっかりトランシーバー変わりになっている丈二の固有スキル「万科辞典」も、しっかり組合長とカットレイが軍手で作った耳栓をしており、丈二と八木・ケレとのホットラインを結んでいた。


『なぁ組合長はん。同席になった「神官の技能を持つ冒険者」さんを、そろそろ紹介してぇな。』

 カットレイが頼む。


「まずは。悪いね、みたらし団子の諸君。私と同じ馬車に乗るということで、私の護衛は君たちに任せる。」


「はぁ?あんたが一番強いやん。」

 虎人族のミッツが突っ込む。


「まぁ、護衛も大事な任務だということだ。それと、紹介をしておこう。神殿から推薦のあったベンジー君だ。彼はシングル冒険者だが、君たちと同じでDランク。職業は吟遊詩人バード。支援職だが光魔法にも精通している。祓いや回復も出来るため、その面で援護をしえもらおうと思い君達に付いてもらった。」


 確かに、みたらし団子にはいない特性を持つ冒険者だ。


「よろしうな。チームみたらし団子で団長やっとる。カットレイや。」

 カットレイが右手を出す。


「ああ。知っとるよ。そよ風の響亭で、よく宴やっとるでしょ?たまに一緒になってるでね。」

 ウェーブの掛かった少しだけ長い髪の間から覗く優しそうな眼が笑う。


 比較的小柄で猫背気味。掴みどころのない雰囲気の吟遊詩人。そんな印象を皆は受けた。


 最も、丈二と八木は

『なぁ何となくだけど、今度は偽名古屋弁?』

『んだんだ。また面白そうなのきた。』

 と、新たな個性を歓迎している。


「基本的には前衛は出来んから、回復と支援を頑張るでよろしく。」


 意外と気さくな奴だなと、カットレイは思いながら、皆の紹介を始める。


 前衛職のナッツとミッツ、盾タンク兼指揮官のカットレイ、近接攻撃と魔法攻撃、少しの回復と支援が出来る丈二&従魔の狼サニー、遠距離職でスティング使いのアビーと回復兼弓使いのエイディ。


 こうして見ると、魔法使いが薄い気もするが、意外とバランスの取れたいいチームだなと、丈二は思う。

 実は、回復力は小さいものの、回復ができるメンバーが3人もいるメンバーだ。組合長から回復役と言われたベンジーはどう思っているのだろう。

 こちらとしては、突き抜けた脳筋も居ることだし、回復支援が多いに越したことはないのだが。


 ◇


 自己紹介も済んだところでと、組合長から向かっている森の概要が伝えられた。


「さっきも伝えたが、まず川沿いを北上して行き、道中に盗賊などが出やすい場所を通る。そこを抜け暫くすると食肉として人気のある魔物の狩場がある。最もそれなりに強い魔物だがな。その狩場の奥に、『深き闇の森林』と呼ばれる森がある。」


 組合長は皆の顔を見回し話を続ける。


「ここの魔物は強い。そして、その中にある山小屋が今回の目的地だ。その小屋までまずは辿り着くき、小屋の中を調べる。平たく言えばそうなるが、『深き闇の森林』と呼ばれるだけあって、中は暗く、そして、アンデット系の魔物もいる。」


「まさに、ネクロテイマーが隠れてた場所に相応しい森なんだな。」


「そうだな。」

 組合長はそれで説明を一先ず止め、少し思いにふけっているようであった。



 ◇


 そのまま馬車は進み、盗賊が出るエリアに差し掛かる。


 ここまでの道中で、みたらし団子のメンバーはベンジーと情報共有を図っていた。

 最も、職業とレベル、戦いの傾向程度であるが。(そこで交換された各情報は、後程(次話)示す。)



 盗賊が出るエリアということで、丈二は気配感知をONにする。

 また、万科辞典で組合長とカットレイと交信が出来るようにし、そちらのナビゲートを八木・ケレに任せる。

 勿論、サニーにも風による感知をお願いしており、万全の体制で警戒をする。


『あー。いるね一杯。んーでも…。』

『八木君や。これ襲う気配なくない?』

《見張り役が3名程いるようですが、前面に出ているのは彼らだけですからね。》


 状況を把握できる丈二と八木、それにサニーが、それぞれの視点で盗賊の動きを追うが、どちらかというと、彼らはやり過ごすつもりに見える。


『組合長、カットレイ。盗賊は見張りだけ立てて、俺たちをやり過ごす感じのようだが、どう思う?』

 盗賊の位置関係を把握できていない2人に状況を伝え、意見を仰ぐ。


『それならそれが一番だが、警戒と警告を兼ねて君たちは外で警戒態勢を取ってくれ。各馬車にも、私からの指示ということで報告をしてくれないか?』


『了解したで。一応ベンジーはんには、流石にこの機能は、まだ教えられへんから、組合長はんから指示出したってぇ~な。』


 わかったと組合長は脳内で呟き、馬車にいる面子に指示を出す。

 その指示に加えて、サニーの風探査で盗賊がいることを把握していることを、丈二が付け加えて説明をし、警戒を促す。

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