第79話 遠 征

 アビーが、ジアスの悪魔を見抜いてから数日後。

 冒険者組合、神殿、そして領主家とで、森の小屋の調査についての会合があった。


 丈二もカットレイも、会合の行方が気にはなっていたが、丈二は自分の店「BARみたらし団子」のオープンに向けて、従業員のフィズと準備をすすめている時期で多忙であったし、カットレイ達も、急な無茶ぶりクエストのお陰で溜まったクエストをこなしていた。


 農業家を目指すエルフのエイディも、ギルドで購入した農地の整備に追われており、「(仮称)チームみたらし団子」のアジトでお留守番をしているのは、先日の功労者アビーだけであった。

 最も、師匠のスパルタ調合の疲れが抜けきれておらず、ソファーで横になり、自分で調合した栄養ドリンクを、ストローでチューチュー飲みながら安静にしていただけなのだが。


 ◇


 会合は昼食会と併せて行われ、つつがなく終わったようだ。

 夕方前には、使いの者が組合長からの手紙を持ってアジトに来ている。

 重い体を起こしたアビーは手紙を貰い、丈二のBARへよちよち報告に向った。


 BARに入り、丈二とフィズの準備の合間を待ち手紙を渡す。

 きっと中身を見たら…あの組合長のことだ仕事が振れていて…明日から、また面倒なことを、やらされるんじゃないのかな?とアビーは恨めしく思う。


 案の定、手紙の中身は、明日組合に来てほしいこと。当事者として小屋へ同行して欲しいことが書かれていた。

 帰ってきた面々全員がそれを見て、口を揃えて「うちはまだ零細ギルドやぞ!」と手紙の内容に突っ込みを入れた。


 ※ ※ ※ ※


 冒険者組合に出頭したカットレイとナッツは、組合長から会合で決まったことを聞かされるが、はじめは断った。

 何度も言うように、このレベルのギルドに頼む依頼ではない。


 チームみたらし団子は、「下から2番目」のDランクギルドで、しかも、お情けでランクが上がったようなものであり、ギルドの経験値が全く足りていない。


 それでも、先日の領主邸での活躍が組合長には鮮烈い映ったようで、丈二のスキルも含めて、何とか参加してもらえないかと懇願された。


 実は、ラスルトの見張りから領主邸での一件で、みたらし団子が組合から渡された報酬は大金貨1枚。日本円で100万円程度の破格な報酬であり、2人は断り切れず依頼を受けることにする。


 だが、そこは偽関西弁の勇女。「前あれだけ報酬くれたってことは、あれ以上期待できるんやろな?」と、報酬に関しては破格を約束させていた。



 ◇


 森の小屋に調査へ行くのは、


 冒険者組合から、組合長含め3名の組合職員。

 神殿からは、神官長ともう1人の神官。

 領主側からは、ラスルトの部下1名、近衛兵2名。

 冒険者からは、B級冒険者3名、とみたらし団子6名

 それに、神殿からの紹介で、神官職を持つ冒険者が1名。


 遠征クエストである。

 結構な大所帯で調査に向かうこととなった。


 みたらし団子の面々が少し驚いたのは、ラスルト本人が同行しないことであったが、実は、会合の席で、自ら小屋を案内する役を名乗り出たラスルトではあったが、領主がそれに反対をし、代わりにラスルトの右手ともいえる部下を送ることで決着がついたらしい。

 丈二は、「正直、一緒にいてくれた方が、まだ安心なんだけどな」と思うが、そこは自分が忙しくて出席しなかった会合の席で決まったことなので仕方がない。



 出発は2日後明朝。北門に集合。

 馬車で移動をするそうだが、3時間程の移動となるため、冒険者は山賊を警戒しながら護衛の任務も兼ねるそうだ。


 カットレイは、アジトに集まった面々に、これらの説明と各自準備を整えるよう指示を出し、その日は解散となった。



 ◇


 出発の前の日。

 カットレイとアビー、エイディは、コールマンマテリアルスミスに来ていた。


 カットレイは盾を。アビーとエイディはアンデッド特化のある銀の短剣と銀の矢を頼んでいたからである。


「おっちゃん。頼んでいたの貰いに来たでぇ。」


「おう。ダークリザードマンの鱗をふんだんに使っておいた。これで盾役の底上げになるはずだ。後、犬の嬢ちゃんには刃先・刀身共に銀で短剣をこしらえておいた。魔力耐性がそこそこあるから、自分のスキルと相談しながら使ってくれ。」


「ありがとなぁ!おちゃん。今回の依頼は、闇属性が怖そうやさかい助かるわぁ。」


 カットレイが盾を受け取り重さを確かめる。

「ええなぁ。思いのほか扱いやすいわぁ。」 


 アビーも手に短剣を持ち、ぐーぱーぐーパーをして握りの感触を確かめる。

「うん。私の短剣も手になじむ!後、スティングの補充をしたいかな?」

 

「いつものでいいのか?10本ぐらいならあるが、それでいいか?後銀製のスティングが5本どうする?」

「え?銀製もあるんだ。なら全部買う~!」


 少し値段は張るが、悪魔を直に見ている彼女にとっては、値段ではなく準備を優先させたい。


「エルフの嬢ちゃんが、銀の矢を頼んでいたから必要だろうと思ってな。」

 そう言って、コールマンは、銀の矢の入った矢筒をエイディに渡す。


「ありがとう。ふふふ。流石ねコールマンさん。よかったわねアビー。」

「えへへー♪」


「まぁ俺としちゃあ、これだけ豪勢に買ってくれたんだ。顧客は大事にしないとな。それと…。」

 コールマンはニヤリと笑い、肩当をカットレイに渡す。


「まぁ、これだけの銀武器を買うんだ。大変な依頼なんだろ?これ、にいちゃんに渡してやってくれ。」


 渡されたのは、赤蜘蛛の素材で作った「肩当」。

 そこそこの値が付くものだろうが…鉱山の戦いで、丈二が肩を噛まれ死にかけたことを気にしているのだなと、カットレイは思う。


「ええんか?」

「前の赤蜘蛛、黒蜘蛛のときみたいに、良い素材を持って、売りに戻って来いよ!」


「おおきに!今回は厄介な分、何が出るかわからへんからな!期待せんで待っとってや。」


 各々が、それぞれの装備やアイテムを整え、出発の準備をする。

 そして、門前の集合時間を迎えた。

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