第78話 同族嫌悪

 さて、どう判断したらいいものか。


 確定事項は、ラスルトはやばい!

 それは分かったが、最悪を考えると、ラスルト自身がジアスに憑いていた悪魔の本体であった…なんてこともなくはない。


 ただのサイコパスなら、それはいい。

 恐らく、あの近衛兵達も神官長もアビーの師匠も強いはずだ。

 そして何より組合長がいる。

 元は高ランク冒険者だし、エルフだし。信頼もまぁ出来るしな。


『組合長はん。状況は分かっていると思うけど、どうしましょ。ワシらとしては、息子がやばぃと分かった時点で、今日は勝ちでええと思っとる。』


 カットレイが組合長の意見を仰ぐ。


『そうだな。そこは私も確信を持った。何処かで化けの皮を剥がしたいが、それは今ではないな。正直、彼は何も悪いことをしていない状況だからね。』


『なら。見張りミッションクリア。みたらし団子依頼達成。そこで落ち着く―で、いいすよね?正直この依頼は、こいつらのランクに内容合ってないっしょ。傍から見てて、組合おまえやりすぎ。』


 八木が、語尾を強め組合長にビシッと言う。


『ホントだよ~。わたしもう…平然を保つので精一杯。』

 アビーは、本当にぎりぎり顔に出さないよう堪えているだろう。


『わかった。ここはやり過すことに全力を注ごう。』


 組合長はそう言い、改めて領主に目を向ける。


 ◇


「お二人様。私の提案如何でしょうか。組合としましても、過去のゼアスの件と鉱山でのジアスの件は、本部への報告案件でもありましたし、本日、そのジアスから悪魔が…となりますと、過去の経緯を含めて、ゼアスの死んでいた小屋を再度確認せざる得ないと言いますか…。」


 組合長シトリアルの額の汗は、既に幾つか床に落ちている。


「そうだな。領主として許可をしよう。あの件のことは思い出したくもない。だが、だからこそ、あの一件は終わったと、確信を持つためにもそうしよう。」


 領主がそう決断したとき。

 アビーは吐き気を催し、自分の固有スキルを切った。

 耐えきれなかった。眩暈と吐き気が繰り返し彼女を襲いその場に倒れこむ。


 それを見た神官長と師サミュオは、アビーに駆け寄り回復の魔法と薬を処方し、その一連の流れの中、神官長が領主に自分の考えを伝え、嘆願する。


「領主様。私の見解として申し上げます。まず、今回のお話の元にあるジアス・ピオンについては、悪魔憑きのことから、我々神殿の監視としては如何でしょうか。流石に、あれを領主の元に置いておくのは危険と愚考します。」


「そうだな…。それが良いな。ピオン家にも私から文を出そう。ラスルトも構わないな?」

 領主が息子に問う。


「ええ。勿論です父上。民のことを考えても、この領主邸に悪魔憑きが居たという事実は、いらぬ誤解を招くと私も思います。それが…盟友であるからこそ。寂しいですがその方が良いでしょう。」


 ラスルトの顔は穏やかな能面、と言ったところか。

 彼の闇を感じてしまった面々には、そんな風に映る。


「ありがとうございます。次に冒険者組合長の嘆願につきましても、問題の小屋を捜索するのは良いとしても、悪魔が関わる案件でございます。私どもの推奨する神官職を持つものを同行させては如何でしょうか。」


「それは助かります。場所もゼアス・ピオン…ネクロテイマーの死んでいた小屋ですからね。聖なる加護は心強いです。」


 神官長の提案に組合長も同意する。


「そうですね。それは良い提案ですね。あの小屋は私管理ですので、ご協力出来ることはさせて頂きましょう。」


 それに乗るようにラスルトが賛同してくる。


「…それは、助かります。」

 何処まで我々が、自分のことを疑っていると思っているかだな。何方にせよ、何かあるのなら、こいつは仕掛けてくるのであろうな…と組合長シトリアルは確信する。


「では、アビーさんの体調も気になります。本日はここまでとして、後日に改めて、冒険者組合と神殿、私どもと調整をさせて頂くことに致しましょう。」

 ラスルトが話を終わらせる。


 言葉とは裏腹に、少しだけ焦りが表情に出ているように見える。

 これは、今の心が動いている自分を抑えている、彼の僅かばかりの、本当の表情ではないか。


 アビーは、薄れる意識の中で…最後まで彼を見ていた。


 ※ ※ ※ ※


『はぁ。何とか目的は達成出来た…かな。』

 組合長も消耗してそうだ。


『どや?組長はん。思っていたより、にいちゃんのこのスキルで会話をしながら、何かをするって大変やろ?』

 カットレイが、組合長のそれを察する。


『あぁ…。自分で考察しながらラスルトと話していた方が、数倍は楽であっただろうな。アビー君のスキルで見抜けてしまった情報と、それを考察して出てくる君たちの結論。この仕事をして分かっているとは思っていたが…。』


 組合長はため息をつく。

『改めて、「知る」ということが、どれだけ大切で大変かを思い知ったよ…。』


『まぁ、そーゆーこっちゃな。』



『組合長さん、疲れてるとこ悪いけど。早くアビーちゃん連れて撤収しよー。次の出方を考えるにしろ、「あれ」との接触は今日は避けるが吉。』


『せやな。とりま、最低限の仕事が出来たっちゅーことで撤収や。報酬たんまりよろしゅうな。』


 ~・~・~・~


 ここまでの話を見た若月は、最初にラスルトという人物に抱いた違和感を思い出していた。

 そうなのだ。若月の「後天的な歪」と比べ、彼は「先天的」というか…彼にとっては、あれが普通なのだろうと思えたことが違和感であった。


 ある意味で【同族嫌悪】。

 ただ、一方で喉に骨が刺さって取れないようなものも感じている。

 恐らく。それは、今から分かることなのであろうが。


『長時間配信になちゃたすねー。その後、アビーちゃん達が帰ってきてからも、意見の擦り合わせとか、賭け推理大会とか、組合の経費で宴とか宴とか宴とかしてたっすけど…。』


『若ちゃんは、ラスルトって人物像を何となく分ってそうなんで、飛ばすっす。』


 ケレースは、歪モードじゃない若月は本当に分かりやすいと思いそう言う。


『え?あ、はい。大丈夫だと思います。』 


『長い前置きだったっすが、ここからが、今ジョジさん達が向かっている、『森と小屋』について…の話になるっす。』

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