第76話 アビーちゃんの受難はまだ終わらない

「アビー君起きなさい。アビー君。」

 師サミュオに肩を揺すられ目を覚ます。


「あぅ。おはよーごじゃいまふ。」

 頭を掻きながら身体を起こす。


「身なりを整えたら領主様のところに行きますよ。」


 アビーの意識がだんだんと現実に戻ってくる。

 そうだった。今から領主のところへ「悪魔憑き」について説明に上がるのだった。


 身なりを整え師の後ろに沿い、領主の部屋に向かう。

 最後のミッションは、その息子ラスルトにこのことを伝えて観察することだ。


 アビーは大きく深呼吸をして、師の後を追う。


 ◇


 領主マルデンでは、厳格な男であり公正な領主である。

 それを、只今謁見をしているアビーは、ひしひしと肌で感じている。


 その顔は凛としており、迷いがない。

 そう感じられるオーラがある。

 それ故、何故あんな息子が育ったのかアビーには疑問にすら思えた。


「話は…聞いた。またピオンの呪縛というか…呪いか。」

 領主は天井を見上げ嘆く。


「残念ながら、その可能性が高いのかもしれませぬ。」

 神官長も目をつむり下を向く。


「君はアビー君だったかな。サミュオの弟子だそうだね。一通りの話は聞いているが改めて君の目線で、今回のことを話してくれまいか。」

 領主マルデンは、悲しそうな目をアビーに向ける。


「わかりました。私なりに感じたことをお話ししますので、何か気になることがあれば、その都度、聞いていただければと思います。」


 ―――アビーの最後のミッション(自称)が始まる。


 ※ ※ ※ ※


 アビーは領主マルデンに、神官長がマナ触診をした際の違和感から、彼女が突き飛ばされたことまでを、丁寧に伝える。


 心臓を触診した際に、「何か」が一瞬顔と心臓に纏わりついたようなマナの流れの変化を感じたこと。

 どうしても気になり、麻酔薬でマナの流れを麻痺させることを提案したこと。

 そして、それを実行したら、悪魔が顔を出したこと。

 怖くて(キモくて)聖水をかけたら、奴は藻掻きだし、神官長がその隙に魔法で悪魔を払ったこと。


 しかし、悪魔が払われた後でも、犯罪者ジアス・ピオンは狂言を繰り返し、アビーを突き飛ばしたこと。

 最後に、彼が「何かと繋がりが失われた」ことを繰り返して叫びながら、殺してやると騒いでいたことを付け加える。


「繋がり…とな?」


「はい。悪魔を払ったときの彼の言葉に「あれは大切な繋がりだったんだ」というのがありました。後、確証はないのですが「思い入れ」とも言っていた気がします。」


「悪魔と思い入れか…。誰か冒険者組合に行き組合長を呼んで来てくれまいか。」

 お付きに領主マルデンが指示を出し、そして…。


「組合長が来る時間に合わせて、『息子』も呼んでおけ。悪いが神官長他2名も付き合ってもらうぞ。」

 と領主が口にした。


 その瞬間。アビーは「勝ったぁぁぁ!!」と心の中で叫んで、拳を軽く握る。


 ◆


『後は、任せたよー。』

 頭の中でアビーは、これで私のお仕事は終わりだよー♪疲れた疲れた♪と明るい声色で丈二と八木に言う。


『GJGJ!』

『取り合えず組合長には先に説明しておくね。アビーちゃんお疲れ!』


『じゃ。私は組合長が来るまで、だら~としま~す。』

『あ。でも組合長来たら息子をスキルで観察してもらうからねー。』


『ふえ~ん。そうだった…。』

 彼女のミッションは終わらない。


 ※ ※ ※ ※


 組合長が屋敷に着くまで数時間が掛かった。

 恐らく、丈二が組合長に情報を入れてたことにより、組合長が考えを整理する時間を設けたのだとアビーは考える。


 領主応接室に通されたアビーは、組合長と目配せをする。

 丈二達からのここでの指示は、「組合長が有利になるよう可能な限り協力」することと、「息子の観察」である。


(結局やること増えてんじゃん…。もう疲れたよ。)

 とアビーは思うが仕方がない。


 組合長は、考えを整理して来たのか落ち着いているように見える。

 話を合わせるにしても、組合長が焦って変な方向に話が向かえば、合わせる自信がないので、そこは安心する。


 領主マルデンが部屋に入り一同が揃う。

 席についたのは、領主マルデン、息子ラスルト、冒険者組合長シトラウス、神官長、師サミュオ、そしてアビーだ。

 私だけ場違いだな…と思いながらも、席に着いてからは不思議と落ち着いており、アビーはお茶を口にしながら一同を見回す。


『へぇ~。この人がラスルトね。確かに誠実そうには見えるよなぁ。』

 丈二が、彼へのファーストインプレッションを呟く。


『そうだね~。今スキルONにしたけど、落ち着いていると思うよ~。この感覚覚えたから、変化あったらまた伝えるねー。』

 そう言いながら、アビーもラスルトは誠実な印象を受けていた。


『アビーちゃん。折を見て組合長が「ゼアスが死んでいたとされる森の調査の提案」をするらしいから、その交渉が始まったらフォローをしてあげて。』


『了解!』


『で、ここからは、俺よりもカットレイと八木・ケレが指示を出すんでよろしく。』

『そっちも了解!!』


 ◇


 領主がひとりひとりの顔を確認し、警護の兵に合図を出す。

 部屋の扉が閉められ、警備の兵2人が扉の前に移動をし槍を×の字にし扉を塞ぐ。


 アビーも、それを見ているカットレイ、丈二、八木・ケレも、ここまで厳重にすることなのかと疑問に思うが、恐らく、過去の経緯で自分の息子が犯していたことを考えると、より慎重にと領主は考えたのであろうと推測をし、納得する。


 そして、警備の兵が所定の位置に着いたのを確認した領主マルデンが口を開く。


「一同集まったな。では…改めてピオン家の次男の一件について報告をして欲しい。その報告を聞いたうえで、各々の見識を聞きたい。」


 説明者として神官長が任命され、ことの顛末を静かに話し出す。


 アビーは、目線を神官長に向けながら、その話だしに併せ静かにそして冷静にスキルを領主の息子ラスルトに向け直し、注意深くを観察しはじめた。

 

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