第75話 アビーちゃん頑張る!
目を覚ましたジアスは、スッキリとした顔をして…いなかった。
何かがない。何かがいない。そんな焦りを全身で表現しているかのように見えた。
「君。今の状況が分かるかね?」
神官長が声をかけるが、彼はそれを無視して、胸を押さえ、顔を触り、頭に手を当て何かを探している。
アビーはその行動が気になるも、とりあえず声掛けくらいは手伝えると考え、神官長に合わせてジアスに声をかける。
「ねぇ。大丈夫ですかー?あなた、さっき私の治療を受けたんだけど、痛いところないですかぁ?」
同じ目線で話をされ、少し落ち着きを取り戻したジアスが口を開く。
「ない…ないんだ。俺の思い入れの、バ…あぐ。」
何かを言いかけて飲み込む。
「それじゃぁわからないですよー。何がないのですかぁ?」
「お…俺の大切な「スキル」がなくなっている。ひいい。」
スキル?悪魔を浄化したのに「スキル」がないと言った。
どうゆうことだろう…?アビーは次の言葉に詰まる。
「何を君は言っておるんだ。君には悪魔が憑りついておったのだぞ。スキルではなく、無くなったのは悪魔の呪いか何かだぞ?」
師サミュオが、言葉に詰まった彼女の代わりに、事実そのままをジアスに伝える。
「払った…払っただとおお?俺の大切な思い入れを取り払っただとお!!俺と…俺とあいつの繋がりををををを!!!お前ら絶対に殺してやる!殺してやるううっ!」
悪魔憑きで無くなったことに、ジアス・ピオンが狂乱する。
◇
『丈二さん、八木っち。この人…どうなっているの?。スキルで観察してたけど、悪魔がいなくなった事実を聞いた時のこの反応は恐らく本音っぽいよ?「そしてキモイ。」』
『んー。こいつ繋がりって言ったよな。八木君や。気にならないかね?』
『そだねー。これってさ。何に繋がっているって思う?』
『考えられるのは「3つ」か。あの「悪魔の本体」、「領主の息子ラスルト」、そして「ゼアス・ピオン」。』
『あたしも同意見っすね。で、あたしの本命は全部っす。』
女神ケレースはこのやり取りを珍しく黙って観ていたが、彼女なりの仮説を立てていたようだ。
それは、丈二も同じであり、本命も同じ結論。
『悔しいなぁ!堕女神と同じ推理かよー。』
『あー過去からの一件を考えると、ラスルトが「綺麗過ぎる」もんねー。』
八木がなるほどと言いながら、ぽてちを摘まんでコーラをグビッと飲む。
『アビーちゃん。この一件を「領主とラスルト」に報告するように誘導してくれ。悪魔が払われたときの奴の顔が見たい。ヤギと堕女神は3者の繋がりを調べて推測を立ててくれないか?』
『こちら了解。』っす!』
『私も、が…頑張るよぉ。でも、もう「これ」と同じ空気を吸っているのが限界かもぉ。きもいよおお。』
◇
「ジアスさん。落ち着いてください。神官長様があなたに憑いた悪魔を払って頂いたのですよ?」
アビーはあえて 悪魔が払われた ことを強調して言う。
「う…五月蠅い。五月蠅い五月蠅い!あれは…あれは大切な繋がりだったんだ~!」
ジアスは叫びながらアビーを突き倒す。
「きゃっ。い…痛い。痛いよおおおおおお。」
アビーは少し大げさに転び、蹲りながら泣き真似をする。
それを見た師サミュオが慌てて、大丈夫かと抱き起こしてくれる。
アビーは痛いそぶりを続けながら、上目遣いで神官長の医師に懇願する。
「神官長様ぁ。もう…この人本当におかしいですよぉ。拘束して領主様達にこのことをお話に行きましょうよ~。冒険者組合にも相談しましょうよぉ~。」
「君。大丈夫かね!くッ…そうさなぁ。冒険者組合に報告するかどうかは別として、まずは領主様だけには報告をしよう。君の言う通り…もう手に負えん。」
神官長も、ジアスの狂言の原因は 悪魔に憑りつかれたこと と診断をするが、その悪魔を浄化をした以上、今のジアスの言動は、神殿で対応する病気や呪いの類ではないと、結論付けていた。
アビーとしては、その結論を引き出すための「泣き役」であったため、それが無駄にならなかったと、ほっとする。
落ち着いたアビーの顔を見て、師サミュオは、「別室で少し休んでいなさい」と彼女を気遣い、休息の指示を出す。これから、神官長と師とで、領主と話が出来るように申告をして来るそうだ。
アビーは一瞬、別室で休む自分では、領主との謁見が叶わないと焦ったが、神官長から併せて、「悪魔憑き」について、領主へ証言をして欲しいと頼まれる。
「はぁ。これで目的は果たせたかな。」
と、それを了承し、ヘトヘトな彼女は、呼ばれるまで別室で控えることにした。
※ ※ ※ ※
別室に戻り、アビーはソファーに座り込む。
彼女も銅鉱山からの話の流れは聞いてはいたが、奴に関わるのはこれが初めて。
まさか、悪魔憑きを見つけてしまい、払う事態に立会うとは思ってもいなかった。
そのため…自然と瞼が重くなる。
「それにしても…気持ち…わ…るかった…なぁ。クズ…ピオン…。」
彼女は少しだけ眠る。領主謁見の時間まで。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。