第72話 冒険者組合長の焦燥

 冒険者組合長シトリアル・マッケンシー。


 彼は、ゼアスが森の小屋で死んでいたという報を受けたとき、釈然としないものを感じていた。

 死因が追い詰められての自殺やモンスターからの攻撃によるものなら納得が要ったのかもしれないが、餓死であったであろうことがそうさせた。


 死者を司るものが自分の死期を憧れに変えて静かにその時期を待つ…それが、あれだけの事件に自ら加担した人物、しかも貴族出の冒険者の結末なのだろうか。


 シトリアルは、密かに各国の冒険者組合に探りを入れる。そして、長い時間をかけ「CT76」というコードネームを持った裏組織の住人に辿り着いた矢先に、銅鉱山の事件が発生した。


 しかも、その事件で最も怪しい行動を起こした人物が、ゼアスの兄のジアス・ピオンであったことに、背中から何か冷たいものを感じていた。


 それを目の前の男は、冒険者になってまだ数か月の男が、ゼアスとネクロテイマーまで辿り着いている。


―――暁丈二この男を信用して良いものなのか

 この事実についての判断を彼は決めかねていた。



 だが、今の現状は、

 ネクロテイマーとして死者を玩具に変えたゼアスと、その兄ジアス。

 狂気の根源であった領主の息子リストアルと、その弟ラスルト。


 ラスルトは、次期領主として相応しいと思わせる人物で、弟とは違いジアス・ピオンは何の取り柄もない稀にみるクズと、死者暴漢事件を起こした組み合わせとは大きく異なるが、それでもその兄弟がまた繋がっている。


 ジアス・ピオンが自らの愚かさで、云わば追放されるかたちでこの国に来たときから嫌なものを感じていた。それだけに、今回のきな臭い事件に関わりのあるジアス・ピオンを、領主嫡男のラスルトが、待遇はどうであれ、「受け入れた」ことがどうしても引っかかる。


 だからこそ、条件として冒険者登録剥奪と犯罪者登録を、「領主の力では覆せない王都」で処理をするとしたのだ。それは、この国にいる以上、「永久的」にジアス・ピオンがそう扱われることを意味している。

 そんな人物を、引き取ることなど、まずあり得ないと彼は考えたのだ。


 しかし、ラスルトはそれを、先程ふたつ返事で了承した。


 長年冒険者組合の長をしてきた経験と、あの事件で指揮をしたものとしての立場から、その返事は悪い予感しかなかった。


 そう、また何かが起こるのではないかと…。


 その焦りから、彼はひとつの決断をし目を閉じる。

 そして、深くひとつ息を吸い整えると、丈二とカットレイに言う。


「チームみたらし団子に、秘密裏な依頼をお願いしたい。」


 ※ ※ ※ ※


「クエストかいな。」

「あぁ。何か悪い予感めいたものを感じる。」


「今回のジアス・ピオンの引き取りについてですか?」

 丈二もその気持ちはわかったのであろう。


「そう…だな。なので、可能な範囲でいいから、領主の息子ラスルトと犯罪者ジアス・ピオンを見張って欲しい。」

 わかる…が、それをウチにというのは流石に。。


「ちょいとまちーな。それは冒険者の仕事やあらへんやろ?組合の腕利きとか警備兵に任せればええんちゃうか?しかも、こんな駆け出しのギルドには、流石に荷が重いで?」

 カットレイも同じこと思ったようだ。


「だからこそだ。駆け出し冒険者の君たちなら、向こうものではないかと思っている。それに、私は、君達の調査能力を目の当たりにしたばかりだぞ。だが、だからと言って、組合のサポートがないと辛いことも、分かっているつもりだ。」



「あ?ほな。組合も手ぇ貸すっちゅーことで、ええんやな?」

「ああ。担当のリリアに、可能な限り自由を与え、君たちのサポートに回そう。それでどうだろう?」


 少し口に手を当てカットレイは考えて言う。

「この依頼は「失敗がない依頼」、ただ「空いた時間」に見張れる奴が見張る。それでもええんなら、かまへんで?ワシらも自分のクエストがあるさかいな。」


 冒険者としては、失敗によるペナルティ査定は避けたい。

 また、見張るとなると拘束時間がうざったい。そこをカットレイは妥協材料として示す。


「ああ。毎日一度、私かリリアに報告をすること。何かあった場合も直ちに報告をすること。これさえ守ってもらえればかまわない。」

 カットレイの勝ちだ。


「ほなそれでいこか。報酬ははずんでや!何も出てこんかったとしても、恨みっこなしやで?」

「当然だ。ラスルト様は悪い評判の方ではない。何もないことが一番だよ。」


 ~・~・~・~


 一度映像を止め休憩を挟む。

 若月は、黒猫を連れて、図書館の中にある店に入り若月はお茶を頼む。


 その間も、ケレースから依頼受注後のことを雑談を交えながら聞いた。

 どうやら、リリアの手回しで、数日の間、領主警備に参加したり、張込みをしたりと、手の空いた人間を当てて見張りをしていたそうだ。


 そして…。


『アビーちゃんが、「領主専属調合師」の手伝いとして侵入をしたときに、見つけちゃったんすよね。やばいものを。』


 と、ケレースが今回につながる『本当の事件』を語り出す。

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