第71話 領主邸死体暴漢事件(閲覧注意)

『ここからは、本当に胸糞悪い話が続くっすよ?若ちゃん大丈夫っすか?』

 ケレースはらしくない若月を労わるような声で注意を促す。


『ええ…。』

 若月も普通ではないことを察しており、それが人の人による業で或ることを感じて「歪モード」に入りかけている。


『あぁうん。その方がいいかもっすね。』

 と、ケレースは画面を進め、彼女の解説は加速する。


 ~・~・~・~


 冒険者組合が、カンビオンの解体を進めて見つけたこと。

 ひとつめは、魔物の核の付近に「従魔の足かせ」が施されていたこと。

 もうひとつは…。


 魔物は、恐らく人間の男性であろう者に「犯されていた」こと。


 痕跡から、それは一度ではなく、複数回ではないかと予想され、それに気が付いた解体者は嘔吐する。

 そして、ひとつめの「従魔の足かせ」が体内で発見されると、その所業が狂気であることに気が付く。



 そう『一度カンビオンを殺し、従魔の足かせを施し死霊を使役する。そして・・・それを犯していた』のである。



 冒険者組合は、その所業の主を冒険者ゼアス・ピオンと断定する。

 それは、彼が唯一無二の職業ネクロテイマーであったからであり、彼にしか出来ない所業であったのだから。


 それは当然当たっていた。だが、ここで、組合はひとつの疑問を持つ。


 ―――何故、狡猾な彼が、調べれば分かるようなミスを犯したのであろうか。


 いや、確かにこれは対魔物であり、自分の従魔にしたことで罪には問われない。

 だが、彼の築いた地位と貴族の誇りは地に落ちる。

 だからこそ、今まで見つからないよう、細心の注意を払い立ち回ったのであろう。


 当時のその領地の組合長は、それに疑問を持ち、「新米冒険者失踪事件」に予想を結び付ける。


 ◇


 組合は、彼に対して何もアクションを起こさなかった。敢えて泳がせた。

 その結果、彼が定期的に領主の離れに通っていることを突き止める。そして、たまたま街に来ていた獣人の娘が失踪をしたその日に領主宅離れを強襲する。


 そこで、強襲をした冒険者と組合長が目にしたのは、死体となった獣人の娘を慰め者にしようとしている領主の息子の姿であった。

 即座に捕縛をし領主に報告をする。領主は堅物なれど堅実な男で、息子を見るなり首を撥ねようとするが同席した家臣に止められる。


 その後、離れを捜索すると地下に霊安室が見つかり

 …失踪していた娘たちの死体が確認された。


 どの死体が弄ばれており、体の一部が切り取られていたことが、領主息子の狂気が伺える。


 その後、領主息子を、領主と近衛兵、冒険者組合とで尋問をし、真実が明らかになっていく。

 その証言は、反吐が出る内容であったのだが…。


 ◇


 ある日、彼は1人の新人冒険者にひと目惚れをし屋敷に招待をした。

 彼は彼女に、その場で愛人になることを強要したが、あっさりと断られ、怒りに身を任せ彼女を殺害してしまう。はじめは震えていた彼であったが、彼はふと気が付いてしまう。


―――自分に。



 彼は考えた。その死体を自分だけのものにしたいと。

 それが、昔からの馴染みである「ゼアス・ピオンの能力」に繋がるのに時間はかからなかった。


 ゼアス・ピオンはゼアス・ピオンで、死者を使役、召喚するその職業が冒険者の中だけでなく、街の中でも気味が悪がられる状況がほとほと愛想が尽きており、恩人でもあるこの息子の考えに与する。


 そこからは、負の連鎖。悪意の連鎖。

 自由になるものは飽きが来ると言わんばかりに、彼は新しい玩具を求める。そして、それは人型の魔物にまで興味が及びカンビオンの一件に繋がる。


 どうやら、魔物の死体を復活させて・・・まで致すのには、ネクロテイマーであっても困難を極めたようだ。

 それでも、「様々な実験」の結果、ゼアスは「従魔の足かせ」をコアに施すことを思いく。


 その悪魔の施術を受けた、見つかったカンビオンは「半人半魔」であった。

 支配が及んでいない「人側の自我」が覚醒したことで、彼女は、領主息子に噛みつき逃走する。結果的には、領主敷地内で「手負い」であったカンビオンは、力尽きてしまい…この事件の発覚に繋がった。


 その後、領主は、自分の息子を公開処刑に処し、ひと月の間喪に服したそうだ。


 では、問題のネクロテイマーゼアス・ピオンはどうなったのであろうか。

 彼はその後消息を絶つ。


 領土内で決死の捜索がなされるも、彼を見つけることが出来なかった。

 だが、半年が過ぎた頃、魔物が多く生息する森の小屋の中で、彼の装備を纏った死体が発見される。


 彼の捜索に疲弊していた組合は、その死体の発見を受けて一連の事件の顛末と処理し、ゼアス・ピオンを「死亡者」として扱った。


 ※ ※ ※ ※


『ここまでが、組合長君が語った「領主邸死体暴漢事件」の真相っす。』


『・・・。』


 しばらく黙っていた若月が、ケレーすにひとつ質問をする。


『ケレースさん。この領というか事件の起きた場所って…。』


『ご察しの通りっす。若ちゃんのいる「フィルム」っすね。因みに領主の息子ってのは、ジアス・ピオンを引き取ると言ったラスルトの兄っすね。』

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