第70話 ゼアス・ピオン


『腰をおったすけど、続きを行くっすよ。』

 ケレースは動画を再スタートする。


 ~・~・~・~


「あのクズについては、大人の事情もあるでしょう。そこは、仕方ないとします。納得はいってないっすけどね。でも、ひとつ聞きたいことがあるんです。」

 丈二は難しい顔で組合長に向かって話す。


「何かね?」


・ピオン」


「!!!…どうしてその名前を。」


 その名前を丈二が出した瞬間に組合長の顔が青ざめる。


「いえ。前にお話を聞いたときに少し気になりまして。それで調べたら…この名前に行きつきました。」


「そうか。そこまで行きついているなら…。」


「はい。彼がクズの弟で、死人や死んだ魔獣を使役できるネクロテイマーという希少な職業であったことや、冒険者であったこと。そして…今はもう死んでいるということ。」


「はぁ?な…なんやて?にいちゃんその情報って…。そうゆうこっちゃな?」


「・・・。」



「偶然としては…出来過ぎやなぁ。」


「そうだな。我々としてもそこまでは調べが付いている。」

 組合長は、一呼吸入れ、続けて説明をする。


「黒蜘蛛ブラックオッドランチュラは恐らく…。一度倒され、「使役されたうえで復活している」可能性が、極めて高いとの調査結果が出ている。」


「そして、それが示すのは、「ネクロテイマーの仕業」であるとことと同一で、王国内でそれが出来たの人物は…彼、只ひとり。」



「それが、あの場にいたであった。」


「ああ。その通りだ。」


『じょっちゃん新情報。ここで言うかは賭け。』

 組合長が、それを認めたその瞬間に、八木から脳内にとんでもない新たな情報が投げられる。


→【ベリーア帝国の所属のネクロテイマー:現在2名、クラウス・アポカリウス:冒険者A級ギルド死霊の園ギルドマスター、CT76:ベリーア裏組織に所属】


→【CT76:本名ゼアス・ピオン。ベリーア裏組織「ブラックバズス」に所属の仮面の暗殺者[ブラックバズス極秘書簡より]、冒険者組合ではロームス訛りの言葉を話す為ロームス人と疑い捜査中[ベリーア冒険者組合調査報告書より]】



『えっ!!!これって。』

『生きてるってことだろうねー。』



 丈二は悩む…が、交渉術をONにして目を閉じながらゆっくりと話す。


 そして…。と丈二は小さく呟き、組合長に衝撃を投げつける。


「彼は他の国で生きている疑いがある。」 


「なっ‼お前それ…何故それ…クッ。」

 明らかに狼狽する組合長を見て、事実なのだなと悟る。


「すみません。自分の情報ネットワークとまでしか言えません。」



「はぁ…。組合長として失格だな。新米冒険者が、そこまで辿り着いていることに驚き、それを出してしまった。不覚だ。」


「ふむ。にいちゃんがその情報に辿り着いたっちゅーことは、なんだと思うんやけどな。でも、冒険者組合がそれを知ってるっちゅーことは、組合が絡んどるってことでええんか?」


 丈二は、カットレイのその質問に対して「何故なのかは、情報がなくわからない。でも、組合は知っているから情報を引き出すぞ」とメッセージを込めて返す。


「カットレイ。恐らく…この顛末は。あるのは死亡登録程度。それは「秘密裏に処理されていた」ことを意味していると、俺は推測を立てている。」


 カットレイも指揮官という戦略家職。そのメッセージをしっかりと受け取る。

「成程なぁ~やもんなぁ。」



 組合長の顔は焦りが濃くなり、大粒の汗が噴き出ている。そして…。


「ご明察の通りだ。その一件は組合が絡んでいる。」

 と、2人の話に釣られて話し出す。


 ※ ※ ※ ※


 そこからは、概ね全てを見透かされていると思った組合長が、肩を落としながらポツリポツリと真実を話し出す。


 貴族の三男として生まれたゼアス・ピオンは、成人して直ぐにその能力を使い冒険者を始める。

 また、貴族同士親交のあった貴族領主の保護もあり、その領地の冒険者として弾頭を表しソロでC級冒険者まで上り詰めるも、ひとつの事件に関わることとなる。


 彼の居た街で多発した、新米の冒険者の女性が失踪する事件だ。

 

 失踪したどの娘も外の小さな町や村から、冒険者になるために出てきた者達で身寄りもない。ギルドに入っていた者も居たが、基本ソロでの行動が主であって、そこを狙われたようだ。


 当然、ギルドは徹底的に調査をする。

 その調査の過程でひとりの冒険者が捜査線上に浮かぶ。


―――ゼアス・ピオンだ。



 彼女達を最後に組合受付で見た受付嬢や冒険者は、決まってゼアスがいたことを記憶していた。


 だが、彼もそう簡単に、それ以上の手掛かりを残さない。

 冒険者組合が動き出したことを悟っているとも思えるタイミングで、彼は街の外の目立つ依頼を遂行し、敢えてアリバイを作る。

 

 だが、その中でも冒険者が失踪する。


 このアリバイと失踪の事実から、冒険者組合は、彼がこの事件に関係しているとを断言できずにいた。



 そんなとき。ひとつの問題処理依頼が冒険者組合に入る。


 「カンビオン」と呼ばれる魔物の死体が「領主の敷地内」の森で発見される。カンビオンは魔物サキュバスとインキュバスにより、人から生まれた半人半魔で見た目美しい女性型の魔物である。

 

 その死体は、一部が切り取られ、手足は反対に曲がり、歯は抜き取られていた。

 組合はそれの処理を依頼される。


 カンビオンの羽や尻尾は精力剤にもなり人気が高い。そのため、組合はそれも考慮に入れ解体を進めるのだが、その過程で「2つのこと」を発見してしまう。


 そして、それがフィルムの街を揺るがす、衝撃的な事実へと繋がる。

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