第69話 ネクロテイマー
みたらし団子の面々は各々の準備のためアジトを出る。
アビーから回復材と解毒薬を貰い、若月も図書館に向かう。
早めに狩りに行っても良かったのだが、チームが調査の森に着くまでに半年前の出来事を聞いておかないと、黒猫が調査時の指揮官2人の話に参加できないことから、若月は、先にそれを済ませる必要があった。
その場合は、黒猫が暇となるため、図書館で本を読んでもらうことにしたのだ。
そのことを黒猫に伝えると。。
「知らないなら知らないで良かったにょ。でも、知ることが決まったなら早いほうがいいにょ…。」と、ご主人様から了承を得たのであった。
◇
図書館は、冒険者組合の傍にある比較的大きな建物であった。
大理石か何かなのだろう、立派な石造の建物だ。
中に入ると図書館の静かな空間が懐かしく感じる。
処変わっても図書館は図書館で、私も嫌いじゃない場所だなと若月は思う。
入館料は、冒険者登録をしていれば、青銅貨3枚。
格安で図書館を使える代わりに、本を傷つけたり失くした場合は、冒険者としての評価が下がるらしい。
まず若月は、次に図書館を活用するなら、この街のことやこの国のことを調べたいと思っていたため、大まかな本の場所を聞いておく。
日本での図書館分類法…とまではいかないが、ある程度は、まとまって本が置かれているようで助かる。
常連である黒猫は、係の人にも「本を読む猫」として有名で、何時もの?個室に案内される。この個室はギルドで年間利用料金を支払っているそうだ。
黒猫を机に置き、指示された本を持ってくる。それを黒猫は尻尾で巧みにめくる。その横で若月は、スマホを取り出しイヤフォンを着ける。
※ ※ ※ ※
『はろっす。若ちゃん。基本的に映像の音は、外には流れないので安心して大丈夫っすよ。』
『ケレースさん。よろしくお願いします。映画みたいで少し楽しみです。』
『そんなに「いいもの」じゃないかもっす…。見ながら質問があったら聞いて欲しいっす。それと、あたしもジンジンも改めて映像を見てるっすから、ときどき解説を入れるっす。』
『わかりました。それでお願いします。』
~・~・~・~
スマホの映像が動き出す。
どうやら、このアングルが八木・ケレが見ているディスプレイ上での画面であり、それをPCで録画したもののようだ。
『先日承った組合長との件~報告。』『報告っす~。』
『おう。八木・ケレか。結構時間かかったな。』
『いやいや。君たち無理なクエスト受け過ぎの自由過ぎ!そっちに追われてたんよ?』
『あははは…確かになぁ。それで?』
『まずはこれー。狼人族の言っていた死霊。ほい。』
八木からその報告の最初として次の情報が送られてくる。
→【職業ネクロテイマー:死者(魔獣も含む)を使役し操ることを得意とする職業。職業テイマーの上位ネクロマンサーの亜種で、御神託による最初の職業で示された場合のみこの職業を得れる。例外として、テイム職業を極めたものが、ネクロマンサーの魂というアイテムを使用することで転職が可能。】
◇
ここで、その時のやり取りについて、ケレースから若月に経緯の説明が入る。
半年以上前に、銅鉱山の戦いと言うものがあり、丈二とカットレイは死にかけた。
その戦いでは、「他の大陸の中級ダンジョンのボスモンスター」が何故か分からないが、初心者鉱山である銅鉱山に現れ、居合わせたふたりが巻き込まれてしまったからである。
八木の起点もあり、ふたりは辛うじてその難を逃れたものの、「何故そんな強い魔物が初級者の狩場に現れるのか」が気になり、帰り道に、ナッツとミッツも加わって考察をする。
丈二と八木は仮説をたてる。中級ダンジョンで、実力のあるテイマーがその魔物をテイムし、「キャスリング」というテイマースキルを使い、「入替転移」で鉱山の魔物と入れ替えをしたのではないかと。
それに合わせて。彼らは、その時にいた自称貴族ジアス・ピオンが起こした「不可解な暴走」が気になっていく。
その後のギルドの調べで、魔物の体内に「従魔の足かせ」というテイム専用アイテムが見つかり、その報告を組合長から受けた一行。
その時に、狼人族のナッツは、それが体内から出たということは、魔物を「一度殺し」、それを「体内に入れて」から、何らかの方法で「生き返らせた」のではないか。という仮説を組合長に提唱をするのだが、何故か不自然にも組合長がそれを濁す。
その濁し方が不自然で気になった丈二は、八木・ケレに調査を依頼する。
画面に映っている映像は、後日、八木とケレースが調べたことを、丈二に報告している場面である。
◇
『ふむ。確かにあの時の状況から考えると。この職業なら…ありうるな。』
ネクロテイマーなる職業ならテイム職のスキルも使えるであろう。
しかし、いくら死体をテイム出来ると職業であっても、流石にボスモンスターは簡単にテイムできるとは思えない。
だから「従魔の足かせ」を魔石の周りに設置して、テイムの力を増幅させた場合はどうだろうか。話としては成り立つ。
『それでな。この国に「その職業を得た奴の記録」が残ってないかなと思って調べたら…。』
『調べたら!謎の点は線へと繋がった!犯人は白線までお下がり下さいっす!』
『そんな決め台詞聞いたこともないが…。え?』
送られてきたものを見て丈二が固まる。
→【ロームス王国所属のネクロテイマー:現在0名、2年前までは、フリット領の領主の三男ゼアス・ピオンの冒険者登録履歴があるが死亡の処理がされている。】
『これって…あのクズの…。』
『多分。兄弟?』
『偶然でもこれは…。あまりにも…。』
ここでの映像はここで終わる。
※ ※ ※ ※
場面は組合の応接室に移る。
「組合長はん。ワシとにいちゃんを呼ぶってことは例の件かいな?」
カットレイが組合長に向かって気だるそうに聞く。
「察しの通りだ。実は領主様の計らいでジアス・ピオンを領主の息子ラスルト様の元で面倒を見るとの申し出があった。」
少し申し訳なさそうに、組合長がそう答える。
「はぁ?何ゆーとんのや。こっちは殺されかけてんで?」
それを聞いた彼女は、信じられないという顔をしながら、組合長への返しの言葉に怒りを込めた。
「わかっている。だから条件として、ジアスの冒険者登録剥奪と犯罪者登録をすること、王都の組合本部で、その処理を厳正にすることを提示したのだ。王都の組合本部長は侯爵職で領主より格が上だからね。」
「その条件を飲み、ただの犯罪者でしかないクズの受け入れを、そのラスルトって人は受けたのか?」
「ああ!そうなると組合としては、それなりの処罰を済ませた者への、領主からの受け入れとして、了承せざる得ない!」
組合長は、机を強く2度叩きながら、語尾を強める。
~・~・~・~
この場面で映像が止まり、ケレースから「現在の丈二達」について、報告が入る。
『見てるところ悪いっすけど、ジョジさん達がこれから森に向かうそうっす。全員馬での移動のようっすね。また、着いたころに報告を入れるって言ってるっす。』
若月は『わかりました。』と答えながらも、ジアス・ゼアス兄弟のこと以上に、領主の息子ラスルトについて、「はて?」と頭を傾げていた。
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