第68話 森の調査隊(2)

「まだ決まった訳ではないけどね。だからこその調査ってことで熱くならないで行きましょう。」

 エルフのエイディがチームの雰囲気を察し収める。


「そやなぁ。でもや。メンバーは万全を期すで?」

「そうだな。」


 カットレイが、少し考えながらメンバーを厳選する。


「今回は2パーティ+αで構成するで。」

 と、正面の黒板にカットレイが書き出す。


【第1PT】 (パーティ)

 カットレイ(指揮官)、ミッツ(重戦士)、ナッツ(槍使い)、アビー(調合師)、ベンジー(バード)

【第2PT】

 丈二 (スカウトレンジャー)+サニー(ホワイトウルフ亜種[銀])、エイディ(農耕狩人)

【 +α 】

 若月(猫姫剣士)+ツブリーナ(黒猫悪魔)


「今回は組合発注のクエストで複数のギルドにも声が掛かっとる。第1PTはギルド同士で共闘しながら戦闘をして調査を援護するチームやな。組合からは5人頼まれとる。なので前衛3人に薬を調合できるAB氏、前衛を回復・エンチャする愚王って構成やな。」


 因みにAB氏と言うのは、同郷の村にいた時からカットレイが呼んでいるアビーのあだ名で、エイディがAD氏で、生産職コンビをAB氏AD氏と呼んでいる。


「次に調査隊第2PTは、感知系が得意のにいちゃんとサニーはん、森での行動が得意なAD氏でお願いしたい。ある意味で自由が利くから、フリーで動いて貰ってかまわんので、調査に徹してな。」


「最後に、若月ちゃん達やな。こっちは普通に粒猫のクエストをこなしてればええ。正式メンバーでもあらへんしな。ただ、若しもの時は、組合への連絡係を頼みたいんや。」


「連絡係?」


「そうや。今回の依頼の指揮官はワシと八木はん達で行く。にいちゃんの能力でワシとも繋いで貰って、もうひとつを粒猫に繋いで欲しいんや。粒猫は今回の依頼の意味をよーわかてるさかいな。」


「意味…ですか。」


「せや。せやからワシ等と繋いで状況を聞いていてもらう。それで若しもの事態や援軍が必要な時に若月ちゃんに指示を出して貰うっちゅう算段や。どや?」


「構わないにょ。聞いているだけなら暇つぶしになっていいにょ。でも、場合によっては、この危うい下僕を引き連れて勝手に参戦するかもしれないにょ。」


「出来れば、猫姫を守ったって欲しいんやけどな。」


「それは、お前らの理屈にょ。僕には関係ないにょ。ついでに、まだ下僕にも関係がないはずにょ。」

 黒猫の語尾には、力がこもっている。


「間違っとらんだけに反論はせん。その場合は好きにして貰ってもかまへんが、組合への報告だけは頼まれてくれんか。」


「ふん。考えておいてやるにょ。」


 やはり、少し黒猫が冷静じゃないなと交渉術をONにして丈二が黒猫を諭す。


「まぁ、粒猫には自由にする権利があるってことだ。だからカットレイはお前にも状況を聞かせるって言っているんだろ?当然、緊急時の連絡係も兼ねてだが、それ以上に、お前が表に出て各ギルドの面々に悪魔粒猫を見られない為の配慮もあるってことは分かってやれ。」


「それは…わ…わかっているにょ。五月蠅いにょ!」


「ふふふ。皆つぶちゃんの味方だよー。」


 アビーが黒猫の頭を撫でる。


「馴れ馴れしいにょ!これだから犬は嫌いにょ!」

 何故か何時もアビーに弱い黒猫を見て一同は笑った。


 ※ ※ ※ ※


 作戦会議は概ね全員が理解できたところで、丈二がカットレイと黒猫にイヤフォンを渡す。このイヤフォンは丈二の権能「万科辞典」と同機した軍手を加工して作ったものだ。


 これをしていると、丈二を元の世界でサポートしている親友の八木と女神ケレースと、丈二との脳内会話に参加できる。接続距離は今の世界と元の世界とを繋げている女神の権能であるため、どれだけ離れていても問題ない。


 但し、丈二が見えているVRのようなデータを見ることは叶わないのだが。


 イヤフォンを装着した彼らは少しだけ脳内会議をはじめる。


『八木はん。状況は把握されとりますか?』

『当然当然。ツブは聞こえてるー?』

『うるさいくらいだにょ。』


『OKー。見ててちょっと思ったんだけどさ。あのこと若月ちゃんにも知っておいて貰った方がいいんじゃないかな?敢て伝えてないでしょう?君ら』


『今知る必要が無いことにょ。』

『ん。でも、ツブは何かあったら突っ込んでくるんでしょ?巻き込むじゃん。』

『にょ…。』


『でな。じょっちゃん。今から説明してても時間がないから、若月ちゃんにスマホ持ってないか聞いてくれない?で、ツブはイヤフォンを彼女に渡してー。』


『ん。わかったが?』 『にょ』


 黒猫からイヤフォンを若月が受け取ったのを確認し、丈二は「若月ちゃんってスマホ持ってきてる?」と聞くと、若月は「あ、はい。時計の代わりに持ってますけど、充電がそろそろ。」と、丈二にスマホを渡す。


 それを確認した八木はスマホ同士をブルートゥースで繋ぐように言い、併せて2つのスマホにマナを送るよう指示。


 ぎりぎりのスマホ知識で、言われる通りの作業をすると両方の画面に八木とケレースが手を振っている画像が流れ、コントロールが八木の手と内になる。



『OKOK。思った通り。若月ちゃんも今後はスマホの充電は自分で出来るからねー。マナを送るだけの簡単な作業。』


『は…はい。今度試してみます。ぷしゅ~。』


『それが分かってくれれば大丈夫。でね。じょっちゃんがマナの補充をサボらなければ、若月ちゃんのスマホで、あの時の映像が見せて上げれるから、それをクエスト中に見よう。』


『あの時というのは、今日行く森に関係ある半年前のお話でしょうか?皆さん知らなくていいと仰るんですが、昨日の嫌な予感を感じているだけに気になっていて…。』


『よね。だから知ってもらおうかなって。』

『よろしくお願いします。』


『さよか。気になっとったか。それなら知ってて貰っといた方がええかもしれんな。。』


『俺は調査の後で話せばいいのかなと思ってたんだが、映像があるならそれが一番分かりやすいよな…って、何時からそんなことが出来るようになったんだ!』


『え?スマホ同士が繋がって同じ映像みるだけだから、繋がれば普通。今回は繋がればって思いついただけで改造してない。』


『…さいで…すか。』



『でね。その間は、どらちゃんは僕とじょっちゃん。若月ちゃんは映像を見ながらケレたんに説明をしてもらう感じで分けるんでよろしく。会話が二重は嫌でしょ?』


『もう。訳が分からんから任せるわ…。』


『了解っす!任されましたっす!しかし、ジョジさんは機械音痴っすねぇ~。ぷ。』

『よろしくお願いします。ケレースさん。』

『ぐぬぬぬ…。』


『では、決まりっすね!ジョジさんマナ充電絶対に怠っちゃダメっすよ。こっちの世界はマナがないんすからね。それでは、「半年前のあの事件」と「それに連なる事件」について~はじまりまじまりっす!』 べんべん!

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