紅眼の悪魔(回想編)
第67話 森の調査隊(1)
「ふわぁ…ん~ッ」
窓から射す朝日の光に起こされ「歪な猫姫」こと宮村若月は目を覚ます。
若月のお腹の辺りで丸まって寝ている黒猫もそれに釣られて目を覚まし、片目を開けて若月を見る。
「朝かにょ。昨日は遅くまで飲んでたのに元気だにょ。」
「ツブちゃんおはようございます。後でこの宿の娘さんと、マスターのカフェで朝ごはんに行きますがご一緒しますか?ボアサンド美味しいですよ。」
「あぁ。あの露店のボアサンドかにょ。ボアだけなら食べるにょ。」
「頼んでみますね。でも本当は野菜も食べないとダメなのですよお。」
「にょ。」
部屋着から冒険用の服に着替え、防具も装備する。
今日も朝食を済ませたら冒険者組合に行き、黒猫の世話クエストを受注する予定である。
眠たい目が明かない黒猫を抱き、お世話になっている宿屋の娘のくるるを迎えに行く。
「おはようございます。コールマンさん。くるるちゃん起きてますか?」
この世界に来て右も左もわからない若月を親身に助けてくれた恩人コールマンに挨拶をする。
「おう嬢ちゃん。くるるなら用意してもうすぐ来ると思うぜ?それよりギルドに入ったみたいだな。おめでとう。」
「ありがとうございます!色々…ありましたけど。この猫ちゃん付で暫く見習いですけど。」
「そうかそうか。まぁ気楽に頑張れや!」
「はい!」
恩人は、優しい顔で祝ってくれると、その娘も笑顔で顔を出す。
「お待たせ~若月ちゃん。マスターのとこに入ったんだって?で、ツブちゃんの面倒みてるんだって?」
「そうなんですよ~。今コールマンさんともその話をしてました。」
「みんな3か月くらいは、この宿を使ってたんだよ~!」
「え?そうなんですか~。みたらし団子の登竜門ですね!」
「あははー。よく分からないけど、そんな感じ!じゃ行こっか!」
くるるの今日初めての言葉も若月のギルド入団についてであり、この家の優しを若月は感じる。
※ ※ ※ ※
くるると丈二の露店に付くと、マスター丈二は2人を見つけ手を振る。
何時もの川沿いの机を確保し、ボアサンドのセットを頼む。黒猫の分は丈二が用意してくれるそうだ。
「流石、元下僕だにょ。」と黒猫がボソッと言うと、丈二はくるるに聞かれたらどうするんだと黒猫を睨みつける。
ボアサンドを食べ終わり、リンゴ茶を飲んでお喋りをしていると丈二がお茶のお代わりを持ってくる。
「サニーさんから昨日聞いたと思うけど、俺たちは昨日の森の調査に入るのね。」
「はい。聞いています。」
「それで、アジトに皆集まるから、組合に行ったらそのままアジトに来てね。君のナイト達も中庭で頑張ってるしね!」
マスターはそう言うと皿を片付ける。
了解しましたと若月は笑顔で伝え席を立ち、くるると「明日も来ようね」と約束をして、冒険者組合に向かった。
◇
冒険者組合は何時もより慌ただしい感じがする。
正確には、職員と一部の冒険者に張り詰めた空気があり、何時もと変わらない冒険者との差を感じた。
リリアも少し怖い顔をしていたが、若月が声を掛けると肩の力が抜けた感じで表情を緩めた。
「若月ちゃんおはよ。聞いたよ~カットレイさんのゴリ押し!もう~私の考えていた若月ちゃん育成計画が台無しだよ~。」
「あはは。菓子を作っただけなんですけどね。」
「ワッフルだっけ?ずるい!今度私にも作りなさい!後親衛にゃいもふりたい♪」
リリアが片目をチョンとつむり最後の部分を小声で言う。
「もちろんです。お休みの日に一緒に作りましょう!それより何か雰囲気が昨日と違いますよね?」
そのひと言でリリアの顔が再び曇る。
「んと。昨日若月ちゃんが感じた危険の調査が組合発注のクエストとなってね。それで声の掛かったギルドはピリピリしてるって訳なの。半年前に色々あってね…。」
「そうなのですね。でも私がただ不安に思っただけですのに。」
「ん~。猫系職業の危険探知てね。昔から的中率が高いスキルって言われているの。ゴメンだけど、昨日の報告の時に丈二さんからそのことも報告があって。しかも、場所が場所だったので組合長も動いた感じ。」
「あら。私が切っ掛けなだけに…。私は行かなくても良いのでしょうか?」
「若月ちゃんが強いのは分かってるけど…流石に冒険者に成りたてだしね。正式にみたらし団子に入るまでは、ツブちゃんのお世話に慣れたほうがいいんじゃない?あれ衝撃的だったでしょ?」
リリアは若月に耳打ちをしてコソッと言い、黒猫クエストの手続きを進めた。
※ ※ ※ ※
冒険者組合での手続きを終わらせ、BARの隣にあるアジトに着くと、「チームみたらし団子」の面々が装備を整えて真剣な顔をして話し合っている。
壁には昨日行った場所の地図が貼られ、カットレイが何か説明をしている。
若月が中に入ると説明をしていたカットレイが声を掛けてきた。
「若月はん。昨日の危険を察知した時のことを思い出してくれへんか?」
「え?あ…はい。」突然で少し戸惑う。
「昨日にいちゃんとこの辺りにベース作ってたと思うんやけど、君が感じた危険はそこから、この方向の森の中に感じたっちゅーことで間違えあらへんな?」
―――間違いない。
あの時は、丈二のベース作成の手際の良さに感動をしている中で、突然襲った嫌悪感であったし、その方向を確認し記憶する作業は、元の世界の若月の裏の事情から体に刻み込まれている。
若月は強く首を縦に振り
「この地図が正確であるのなら、この方向のこの辺りから嫌な気配を感じました。」
と、少しの方向の修正と概ね森にはいてからどの程度行ったところかを伝える。
「距離も分かっとるんか?」
「いろいろと家の都合で慣れているのです。嫌な気配がどの程度離れているかは自分の意志とは関係なく把握する癖がついていますので、間違ってはいないと思います。」
「そうか…やっぱりここだか。」
昨日BARでベースを弾いていた男、確か愚王と呼ばれていた男、吟遊詩人バードのベンジーが呟く。
若月は、この男と殆ど話すことがなかった為、このメンバーの中で珍しいと思ったことから逆に印象が強い。
「と、いうことはだな…。」
「やっぱりあのクズ野郎の思い入れかいな。」
若月を除く全員の目に火がともる。それは黒猫の目も同じである。
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