第65話 猫姫親衛にゃい(5)名付


「まぁ可愛いご飯会ですねぇ。そう言えば、あなた達お名前がないのでしたよね?」


 その質問に5匹はご飯を食べるのを止め、申し訳なさそうに若月に言う。

「すみませんにゃ姫様。僕たちは野良にゃ…名前なんて誰も付けないにゃ。」


 その仕草にうるうる来る若月は、白猫の頭を撫でながら「いいんですよ。ごめんなさいね。ごめんなさいね。」と謝罪する。


「では…では!こうしましょう。」

「おいにょ!」

 若月の言葉にツブ猫の「猫の危険感知」がヤバい予感を探知する。


「私が皆さんのお名前を♪」

「え?わ…若月様?」

 サニーも若月の考えに気が付き震える。


「考えましたので、命名しますよお!」

 どや顔で猫たちに言うと、猫たちの顔がパァと赤みをさす。


「や…やったにゃ。感動にゃ!!猫姫様のお傍にずっと居られるにゃ。」

「一生懸命姫を守るにゃ!」

「ま…待つにょ!はやまるにょおおお!」


 色々猫ちゃんが騒いでいますね。そんなに嬉しいのでしょうかね?ふふふと若月は彼らの言っている事を聞いてはいない。



「では~。トラ猫さんは、『とらちゃん♪』」

 トラ猫がにゃあああと吠える。


 後ろのほうで「ぬぅにょおおおお」とツブ猫の叫び声が聞こえる。

 だが、若月はツブちゃんも喜んでいますねと次の猫を名付ける。


「ぶち猫さんは、『ぶーちゃん♪』」

 ぐにょおにょおおお!!

「白 猫さんは、『しろちゃん♪』」

 ぎょにょおおおお!!

「みけ猫さんは、『みーちゃん♪』」

 やめ…にょおおお…。

「シャム猫さんは、『しゃーちゃん♪』」

 に…ょ…。


「気に入ってくれましたかぁ?」

 若月は、にっこりと猫たちに聞く。


 5匹の猫達が「にゃあああ」と、一斉に鳴くと彼らが光る!



「にょ…ぐ…にょおおおお(ばたん)」


 振り向くと黒猫のツブリーナが干からびている…。


「ツブちゃんど…どうしたんですか?」

 若月が慌ててツブ猫を抱える。


「お…お前は、本当に…御し難い馬鹿…にょ。」

 干からびた黒猫の悪魔がブツブツ呪文のように何か言っている。

 

 それを見ていたサニーが、大きな溜息を付き若月に申し訳なさそうに教える。


「えとですね…若月様。この猫たちは若月様を崇めている猫達ですので…お名前を付けるということは…その…。若月様とツブ猫と同じ関係と言いますか。はい。」



 サニーが若月を見ると、予想通り「?」となって頭から湯気を出している。


「あ…若月様。猫達にステータスを聞いてみて貰えませんか。」


「は?ふぇ?猫ちゃんがステータス?」

 と、ますます分からなくなった若月だが、恐る恐る猫達に聞いてみる。


「猫ちゃん達。ステータスというものが分かりますか?」

「にゃ?」と5匹は顔を見合わす。



「これですかにゃ…?名前とら。猫姫の眷属?種族、猫姫親衛にゃい?」


「ふぇ?」


「名前みー。猫姫の眷属?種族、猫姫親衛にゃい?」


「ふぇええええ。サニーさんこ…これって?」


「はい。5匹は若月様の眷属となりました。そして、謎の種族、猫姫親衛にゃいに進化したようです。」


「ツブ猫のマナを…使ってですが。」


「ふぇえええええ!それで、こんなにもツブちゃんが干からびているのですかぁ!」



 どうしましょう。どうしましょう。

 狼狽する若月を弱弱しい目で睨みながら、先ほど捕獲したGボアを、顔を風船のように膨らませて、お腹の別空間にある収納空間から出す。


「ふぇ…。ふぇええええ、ツブちゃん?ま…待って下さ…」


 トラウマとなったそれにガクガク震える若月を無視して、サニーがツブ猫を抱えて彼が必死の思いで出したGボアの前に置く。


「ふ…ふしゃああああああああああ!!」

 若月が怯える悪魔の食事。悪魔のツブ猫の顔。変わらずGボアの半身を一口で。


ボリボリバリボリボリボリボリボリバリボリボリボリボリボリバリボリボリボリボリボリバリボリボリボリボリボリバリボリボリボリボリボリバリボリボリボリボリボリ


 骨を噛み砕く音で、ツブ猫がサンバでキューバの音色を奏でる。



「ふしゅうううう~。」

 若月が腰から砕け落ちたそれを横目に、満腹になり回復したツブ猫が心底嫌そうな顔押して「ぐぇ~ぷにょ」とゲップをする。


 ※ ※ ※ ※


 丈二は、受付嬢リリアに、若月が黒猫のスキルで感じた「嫌な危険」について報告をしていた。あの時、丈二はサニーとツブ猫と一緒に居た。それにあの「歪」な猫姫剣士で、剣技においては右に出るものがいないであろう若月とも一緒であった。


 もし、あのまま「危険」に突っ込んでいたとしても、何とかなったのかもしれないと内心では思っていたが、事が事の場合は、冒険者組合や領主に関係してくることで、何より神殿も黙っていないだろう。


(それに…うちの吟遊詩人が荒れるよな…。)

 色々と考えながらの報告。調査となった場合の(仮称)チームみたらし団子の参加交渉とカットレイが帰るまで時間がある以上、自分が進めるしかないと少し憂鬱な時間でもあった。


 そんな彼にサニーからパスでの通話が来る。

 リリアに事情を伝え、報告を一時中断をして対応をする丈二。


《忙しいところすみません。今大丈夫ですか?》

《大丈夫ですよ?珍しいですねサニーさん。どうかしましたか?》


 実は…と、サニーは、若月が野良猫5匹に名前を与えて『猫姫親衛にゃい』に猫達が進化した経緯を、申し訳なさそうに主人に伝える。

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