第63話 猫姫親衛にゃい(3)待て
盗賊のお頭を、ササっと3枚に卸しケロリとした顔でフィルムの街に帰還した若月を、5匹の猫ちゃんがしっかりと整列して待っている。
実はこれ、お腹一杯になりご機嫌の黒猫が、「下僕の下僕は僕の下僕にょ」とルンルンで猫姫を既に崇めている5匹にパスを繋ぎ、姫の帰還を伝えているのだが、黒猫は若月には黙っている。
「お帰りなさいにゃ!」×4
「若月様!ツブリーナ様のお食事は無事終わったようで、良かったですにゃ!」
「あ…ふぇ…。た…ただいまですぅ…。」
若月はツブ猫の悪魔式お食事のマナーを思い出し、軽く目を回している。
「お。若月ちゃん早速猫と喋っているのか!いいなぁ。少しだけ憧れるは!ツブ猫の下僕は願い下げだけどな!」
丈二が、ツブ猫を見ながらそう言うが、優しい目で微笑んでいる。
あの時のことを考えると…本当によかったなツブ猫。丈二は心の中ではそう言っていたが、当然ツブ猫にも若月にもそれは聞こえていない。
「悪いな猫レンジャイ。お姫様をもう少し借りるぞ?報告までが遠足だからな。」
丈二は、試験的に彼のスキル「交渉術」を使い猫達にお願いをする。
すると猫達は、にゃーんと答え、道を開けるように90度反転する。
「マスターも猫ちゃんと話せるのですか?わかったにゃって言ってますよ?」
目を丸くする若月に丈二は笑いながら
「いや。交渉術を使ってお願いしてみたんだが…お?通じたのかな?」
と言うと、頭の中の親友が、いい実験データが取れた!これは、どこの記録にもない新発見と騒いでいる。
「みたいですね。折角私だけの内緒のスキルなので少し妬けます。」
「ん~でも。こっちの意図が通じただけで、何を言っているのか、俺にはさっぱりだぞ?この猫達が賢くて俺が馬鹿だと少し卑下したいくらいだ。」
「では、お姫様行きましょうか。依頼達成のお金が待っています」と、お姫様をエスコートするようなポーズをしながら、丈二が若月に冒険者組合への報告を促す。
「すごいにゃ!流石猫姫様にゃ!人間の雄も下僕だにゃ!」
と、その丈二のエスコートを見た猫達がキラキラしながら若月を拝むと、ツブ猫が悪い顔をして嬉しそうに「にょ」と小さく鳴いた。
◇
冒険者組合に付き「ここで待っていて下さいね。」と若月は猫達に言い、猫達は若月に初めて声を掛けた建物の影でちょこんと座り待つことに。
彼らはそれなりの時間を待つことになるのだが、猫姫様とお近づきになれたにゃと興奮して、待っている時間を楽しんでいたため、気が付くと若月がツブ猫を頭に乗せて、彼らの顔を覗き込んでいた。
「さて、帰りますかぁ…しかし組合の雰囲気。少し殺気立っていましたねぇ。やはり猫ちゃんスキルのあれのせいでしょうか…。」
ぽつりと呟いた若月の言葉に、ツブ猫も「ふん…にょ」と歯切れの悪い返しをする。
事前にBARのマスター丈二に、猫達をBARに連れて行って良いか伺っていた若月は、5匹を連れてBARに向かいだす。
飲食の客商売だから、流石に中に入れるのはNGとなったが、中庭で遊ばせておくのはいいぞと言って貰っており、併せて、サニーさんに何か食べるものを見繕ってもらってねと、優しい言葉を頂いている。
「猫ちゃん達よかったですねぇ~。お店の中には要れませんが、お庭で遊んでいいそうですよ~。後、なんと!ご飯も食べさせてくれるそうですよ~!マスターさん優しいですね♪」
猫達にそう伝えると、猫達も「やったにゃ!ご飯にゃ!」と大はしゃぎをする。
それを見て若月は、幸せいっぱいな気持ちを噛みしめて、少しだけ体を震わし喜び、トラ猫、ぶち猫、白猫、みけ猫、シャム猫の順に頭を撫でる。
その幸せの中。
それとは反対に、彼女が感じている不安について、若月は黒猫に聞く。
――あの森での出来事をどう思うのかと。
黒猫は、眠そうな目を擦りながら、「昨日今日、冒険者になった下僕が気にすることじゃないにょ。」と言って欠伸をする。
その後、ちょっとだけ目を開けて「明日の狩りの日は、調査の日に変更だにょ。」と、若月に聞こえない声で言った。
その目は赤く鋭く、そして悪魔に相応しい残虐な光を発していた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。