第62話 猫姫親衛にゃい(2)見送
足元に整列した猫総勢5匹。
左から、トラ猫、ぶち猫、白猫、みけ猫、シャム猫。
奇麗に整列して、にゃんと頭を下げている。
「そんなに畏まらないでくださいな。可愛い顔が見れません。」
若月が猫たちに笑顔で言う。
「若月様。猫姫様。にゃー達は先程お姿をお目にした時から、髭がぴんと来てしまったにゃ。どうか、猫姫様のお側に置いてくださいにゃ。」
「お願いしますにゃ!」×5
猫背を更に丸め、必死に頭を下げる猫達。
「あ”?何を言っているにょ!黙って聞いていればこのにゃー達は僕を無視して猫姫猫姫と騒ぎやがって!失礼にょ!」
ツブ猫がふしゃーと猫たちを威嚇しながら怒る。
「あ。猫さん達。こちらは黒猫の悪魔ぁ?のツブリーナちゃんですよ。仲良くしてあげて下さいね。」
「はいにゃ!」×5
「黒猫は悪魔な猫なのかにゃ?何か偉そうにゃけど。」
「はぁ?たかが街猫が何を言っているにょ!そもそもこの女は僕の下僕にょ!こいつが猫姫なのも僕の力にょ!頭が高いにょ!」
「猫姫様。こいつ語尾が「にょ」ですにゃ!偽猫ですにゃ!」
「な…何にょおおおお!」
若月が手を「ぱん」と叩く。
「はい。そこまでですよぉ~。仲がいいのは宜しいですけど、私今からツブちゃんのご飯の為に門の外まで冒険に行くのです!ごめんなさいね猫ちゃん達。お名前を教えて貰えます?」
「にゃ…にゃまえですか…。にゃあ達は名前なんて大層なものは無いですにゃ。」
「え?そうなのですね。可哀そうに、不便ですよね。分かりました。」
今度、時間があるときに「名前をつけてあげよう」と彼女は思うが、今日はもう時間がないので、行くねと猫達に伝える。
「それじゃ。にゃあ達も門までお供しますにゃ。」
「あら嬉しい♪」
若月を先頭に、5匹の猫達が後ろを行進する。
この猫達は、何時も一緒のグループ猫で、ときには露店の魚や肉を素早くクスねてしまう、ちょっとした街の悪戯者。
その悪戯者達を、ひとりの冒険者が笑顔でスキップしながら引き連れている。
露店の店主や街で食べ物を奪われた人達はひそひそと若月を見て言う。
(あの可憐な姉ちゃん。あいつらを引き連れてるぞ。人には絶対に懐かなかったあの猫5匹衆を…あの姉ちゃん「猫姫」だ!)
ひそひそ話をしている街の人達を横目に、若月は上機嫌で呟く。
いや…心の声が漏れたというのが正しいのだろうか。
「やっぱり猫ちゃんの語尾は普通にゃんですよね♪」
それを聞いた…聞こえてしまったご主人様の黒猫の目が赤く染まり。
にょおおおおお!と若月を威嚇し、暫くの間、耳が「にょ」しか聞こえなくなるほど、延々と説教をしたのであった。
◇
若月と猫の行列は、待ち合わせをしているBARのマスター丈二より先に門に到着した。その待ち時間も黒猫の説教が続いている。
その足元には、来る途中に出会った猫達5匹が姫を門外まで護衛するにゃんと整列している。余りにも黒猫が五月蠅いのでトラ猫が黒猫に声を掛ける。
「ツブリーナ様。あなたが猫姫様のご主人様なのは分かったにゃ。でも、さっきから同じ話とにょを言い過ぎですにゃ。猫姫様が可哀そうにゃ。」
その言葉を聞いたとき、若月は「やっぱり猫ちゃんの語尾は普通にゃんですよね。」と猫たちを撫でる。
彼女のその軽率な行動は5匹の猫達も尻尾をぴんと立てて「まじかこの人?」と耳を疑ったが、それは後の祭り。
当然それを聞いた黒猫のご主人が再び彼女をドヤす展開になるものの、若月は嬉しそうに猫達をなでなでしながら、ふしゃーふしゃー言っている黒猫を抱きながら頬ずりをして楽しむ。
その光景は、丈二が門に到着するまで続き、門番たちに強く印象付けされた。
恐らくこの日から、街の人々も門番たちも若月のことを「猫姫」の二つ名で呼び出したのではなかったかにょ?と、「遠い未来の日」に黒猫は懐かしそうに思い出し、にょと淋しそう笑うのであった。
◇
丈二と彼の眷属である白銀の狼のサニーが門に着き、黒猫の餌を狩りに彼女はフィルムの街を出発する。
見送る5匹の猫達は変わらず整列をし、遠吠えをするかのように「にゃあ」と彼女の冒険の安全を祈り鳴く。
そんな猫達に、彼女は、やっぱり街に帰ってきたら「名前を付けてあげよう」と思い微笑む。それが何を意味するのかも知らずに、猫姫は、ただただ純粋にそう思う。
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