閑話 猫姫と猫姫親衛隊

第61話 猫姫親衛にゃい(1)整列

 歪な猫姫 宮村 若月。

 彼女は、黒猫の悪魔ツブリーナとの悪魔眷属契約で、黒猫の下僕となった。


 それにより、彼女の職業は「猫姫剣士」となり、黒猫悪魔のマナや力を得ることが出来る代わりに、これ以上職業によるスキルは取得できないという、この世界では呪いとも言える制約を掛けられてしまう。


 しかし、彼女には、現状で彼女が必要と考えている「固有スキル」と旧職業となった剣士で取得した初心者スキル「落葉の足取り」があり、自分の練り上げてきた剣技とこれらがあれば、冒険者としての技量は十分足りると考えていた。


 むしろ、「使いどころを考えなければならないスキル」は、効率を重視し、如何に迅速に無駄なく対象を葬るかを求められてきた彼女にとって、邪魔でしかない。


 悪魔との契約について、素では完全に小心者である彼女は、その制約と一生涯黒猫の世話をすればいいだけという条件を聞き、内心「それだけで良いんだ」と大きくもなく小さくもない胸を撫でおろす。


 そんな彼女対して、「それだけではない」と、自身の固有スキルでその職業を調べていたBARのマスターこと「暁 丈二」が付け加えてもらたらした「猫姫剣士の情報」。それが、彼女の胸を熱くさせた。


【猫姫剣士:猫に愛され崇められる剣士。猫と話が出来るようになる。稀に猫の技がその日の気分で使えるかもしれない。】


 彼女が愛する猫に彼女は崇められる。

 そして、 猫と… 猫ちゃん達と…!


「猫ちゃん達とお話が出来る!なんて夢のような職業なのでしょう!スキルなんてよく分かりませんから問題ありません!猫ちゃんの技とはどんなものなのでしょうか。楽しみですね!」


 と、両手を胸の前で拝むように組み、目を閉じながら頬を赤らめ、乙女のようにはしゃぎながら喜ぶ彼女。


 ツブ猫曰く、

「悪魔の契約で、あんなにも純粋に喜んだ奴は初めてにょ。あれは馬鹿にょ。でもあれは、スキルなんかよりも猫との会話を取る大馬鹿にょ。」

 と、後日語っている。


 ※ ※ ※ ※


「この話は、そんな猫と話せるようになった猫姫と、5匹の猫の物語。」

 

 ◇


 黒猫悪魔契約をしてしまった若月は、丈二と共にBARを出てツブ猫様ご依頼のお食事へと向かうことになった。

 ツブ猫様のお食事は、魔物の肉であり食べる量も相当なのだそうだ。


 事情を冒険者組合の受付嬢リリアに説明し、「アハハ」と憐みの目で笑われながらも、ツブ猫様ご満悦の依頼を見繕ってもらう。



 受ける依頼も決まり、丈二とは、お互い買い物を済ませ門集合と約束をして、ツブ猫を抱きながら冒険者組合の外へ出る。


「き…来たにゃ。お…お前が声を掛けるにゃ!」

「い…嫌にゃ。猫姫様に声を掛けれるくらい、にゃーの髭は立派じゃないにゃ。」

「じゃぁ…お前がにゃ!」×3


 「にゃあにゃあ」と聞こえてくる話し声の方をを見ると、5匹の猫達が冒険者組合の建物の影でじゃれ合っているのを見つける。


「まっ…まぁ!!!!なんということでしょうか!」

 

 若月の顔がぱぁ~と花開く。

 目を輝かせてうっとりと猫達を眺める若月に気が付いた1匹のトラ猫が意を決して近づいてきた。


「こ…これはこれは。猫姫様に置かれましてはご機嫌うりゅわしゅ…にゃ。」


 トラ猫としては必至で決死のご挨拶。

 少し噛んでしまったが肩を震わせてお辞儀をしているのが愛らしい。


「こんにちはっ!ご丁寧にどうもです。私は若月。言っていることわかりますか?」

 

 お辞儀をしている顔の下から、ゆっくりと指でご挨拶をする若月に、トラ猫は顔を指に擦り付けて、その後小さな舌で彼女の指をぺろぺろ舐める。


「あら?こちらのお話は通じないのでしょうか…。」


 その言葉に我に返るトラ猫が恥ずかしそうに言う。


「失礼しましたにゃ。余りにも甘美なお指にうっとりしてましたにゃ。お声聞こえておりますにゃ猫姫様。」


「よかった~。トラ猫さんあちらの皆さんも紹介してもらえます?」


 わかりましたにゃ!

 とトラ猫は残りの4匹に声を上げ、若月の前に5匹の猫たちが「にゃん」と整列をし、彼女の顔を敬愛の目で見上げた。

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