第60話 章エピローグ 逸材と総合ギルド(下)

「丈二さーん。何で生産者ギルドで総合ギルドの話進めてるんですか~!こちらの代表カットレイさんだから大変だったんですよ~。」


 商談場の扉が開き、リリアが涙目で入ってくる。


「ん?それも含めてリリアさんの仕事じゃないんですか?」

 と実はそれを知っていた彼は交渉術をONにしてリリアに強めに言ってみる。


 するとゾクッとした顔を赤らめリリアがモジモジしだし、涙を浮かべながら

「ふ、ふええぇ。分かってますよ~。丈二様の為に私が世話をしたかっただけですよぉ~。ふえ~ん」

 と、彼に叫び、丈二以外の面々は「あぁ。この子…。」と思う。


 それを横目に生産者組合の担当が現れ、登録の手続きが一通り済んだことを伝えてくる。

「ジョウジ・アカツキ様。これで両組合に所属の『(仮称)チームみたらし団子』は総合ギルドとして登録されました。」


 また、リリアからは、

「全員が両ギルドに登録する予定と伺ってますので、登録がまだの方はこちらの「総合ギルドカード」をお持ち頂き各々の登録をするようお願いします。」

 と6人分の金属カードプレートを渡される。


「登録が終わりましたら、前の登録プレートの効果はこちらに移りますので、お互いの組合に返却してして下さいね。そうすればプレート代は無料になりますので。」


 因みに、丈二とミッツは既に総合ギルドカードに情報が移っているらしく、その場でリリアが回収をしてくれた。


 ※ ※ ※ ※


 アビーとエイディの冒険者登録のため、冒険者組合にリリアと共に向かう。


 可愛いと美人のコンビで生産者の2人組と楽しそうに話している丈二を見て、リリアは少し不機嫌であったが、この2人もこれから自分が担当する冒険者になるのだと、彼女は、冒険者組合に着く頃にしっかりと切り替えている。


 少しご機嫌斜めであった彼女が元に戻っているのを見て、彼女に総合ギルドの登録を任せなかったことに対して少しだけ負い目を感じていた丈二も胸を撫でおろす。そして、改めてリリアの仕事への向かい方が好きだなとも思う。


 冒険者組合ではカットレイとナッツが待っており、2人はアビー達が到着するとハイタッチで迎えた。


「よう来た。まっとったでぇ。」

「よろしく。カットレイ、ナッツ。」


 いい笑顔だった。

 同郷か…と少し苦笑いをすると、目の前に画面が現れ親友が親指を立てている。

 本当にこいつはいい奴だなと丈二は思う。

 隣で同じく親指を立ててる腹立つ女神にも…まぁ…ありがとなぁ。


 リリアの手際の良さからアビーとエイヴィの冒険者登録は早々に終わった。

 そう、これで冒険者組合がアジトを提供する規定の5人以上が集まったのだ。


 ※ ※ ※ ※


 チームの面々はリリアに別室に通され、空いているアジトの位置を地図で見せられた。

「皆さんやりましたね!アジトですよ~。組合が提供しますので好みの条件はありませんか?」


「好みかいな。正直ピンとこーへんなぁ。お前ら、にいちゃんに一任してええか?八木はんの協力や助言も入れてもろて、一番良い物件を考えてもらお。」


 カットレイが丈二と八木に任せようと提案し、皆は同意してくれた。


「構わないが、如何せん数が多いな。リリアさんこの中でお薦め物件って何個かないかな?」


 丈二がリリアにそう頼むと、彼女は個人的にと前置きをし、間取りと一緒に、お薦め物件を2つ示してくれる。


 薦めてくれたのは、「冒険者組合に近い」物件で広めのホールがある物件と、住宅街との境にあるが「部屋がいくつかある物件」の2つで、両方とも以前は総合ギルドが使っていたものだそうだ。


『ほほー両方ともいいねー。まず位置ここね。』

 八木から地図が送られてくる。なるほど、確かに組合から近い方は組合と目と鼻の先で良さそうだし、もうひとつの方は、少し組合から距離はあるが今後住処を確保するなら理想の位置だ。


 部屋の間取りを見ると、組合に近い方はホールと他に1部屋、住宅街に近い方は大きめの部屋と他に3部屋がある。どちらも用途に規制は特にないらしい。


『八木君や。どう思うね?』

『ん。断然住宅街に近い方。』

『だよねぇ。調合室とかも必要だし、倉庫兼醗酵室とかな。』

『んだ。後、BARするなら住宅街の帰り客を狙いたいだろ?』

『静かな雰囲気もいいな。』


 ん。俺たちが決めていいなら一択になっちゃうな。一応聞いておくか。


「俺たちが選ぶと、住宅街一択なんだよな。部屋数あるからアビー用の調合室とか、お酒作ったりする部屋や倉庫になる部屋があればチームとして助かるし。」


「ええんちゃうか?組合に近いメリットは、ワシ等にはあれへんしな。」

「専・用・調合室!嬉しい~!」


「そう言って貰えるなら嬉しいし、個人的には住宅街に近い場で酒場を開きたい思いもあるんで助かる。なら、これで決定していいか?」


「「「「「ええでぇ!!」」」」」


「5人になっても、そこブレねぇなお前ら!」

 でも、こいつら、何も考えてなさそうで考えてて、適当に返事したと思ってもしっかりと考えがあるんだよな。


 あっさり決まったこともあり、その後の事務処理もすんなりと終わったため、今日はこれで終わりだなと一同は冒険者組合を後にした。因みにカットレイとミッツの生産者組合への登録は、明日アビー達と行くらしい。


 ※ ※ ※ ※


 アビーとエイディは今日の宿を決めていないようで「そよ風の響き亭」を紹介する。

 そうなれば決まって宴だ。


 総合ギルド登録の宴、アジト獲得の宴。

 そして、新しい仲間…カットレイ達にとっては同郷加入の宴である。


「よし。これでアジト契約OKやな。総合ギルドにもなったことやし、明日から気合いれてくで!」

 カットレイのひと言から始まる宴。


「乾杯~!」


 うん。みんな笑顔で楽しそうだ。それにしても…毎日宴してるな。俺たち。

 でも、そんな毎日が楽しいと思えるから、生産系も戦闘系も毎日この笑顔で帰ってこられる場所を作らないとなと丈二は思い薬草酒を飲む。八木・ケレコンビも画面越しにビールを片手に乾杯をしてくれた。


 実は、最近この2人を画面越しに見るのがそんなに嫌じゃないと思う丈二であったが、それを言おうものなら堕女神が調子に乗るので、黙っておく。


 その横で独り。その宴をバックミュージックに一番安い定食とエールを楽しんでいる男がいた。

 その後丈二達のチームに入り、アビーとエイディとでJAZZトリオを結成する男であるが、丈二達が彼に出会うのはもう少し先の話。


 ◇


 何れにせよ、冒険者ギルド結成当初の最初の目標である「総合ギルド」登録は、丈二と八木・ケレが逸材と思う2人を迎え入れ、和やかな宴を最初の共同作業としてスタートする。


 そして、そのギルドは「歪な猫姫」を迎え入れるまでに、フィルムの変わり種ギルド「(仮称)チームみたらし団子」として、そこそこ重要な事件やクエストをこなしていくことになる。

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