第59話 章エピローグ 逸材と総合ギルド(中)

 ふたりとも是非ギルドに入って欲しいと思った丈二はミッツに提案をする。


「なぁミッツ。ビックリする程の逸材達なんだけど?この子達さえ良ければ、もうギルド立ち上げちゃお?」


「ハハ。ワシは同郷のこの2人を断る男やないで?それはカットレイもナッツも一緒や。にいちゃんとこの2人が良いなら好きにすればええ!」

 ミッツは、丈二が2人を気に入ったのが分かり上機嫌だ。


「OK。なら後は2人次第だな。こちらの思惑は話した通りだから、今度は君達へのメリットを提案させてくれ。」


「え?私達は断るも何も…。」


 2人にとっては、願ったり叶ったりのこの状況で断る理由はない。

 だが、丈二としても話の途中で簡単に結論を出してほしくなかった。


「いやいや。一応こちらの勧誘なんだから、メリットを聞いてから答えを言ってくれ。俺としては、君達に商談もお願いしたいと考えているしな。」



「では、メリットな。まずカットレイの考えで、俺達は定期的に「狩りの日」というものを作る。それは、生産職が自分の必要な素材が欲しい場合、事前の会合で主張して貰えればギルド全体でそれの素材を狩りに行く趣旨がある。」


「わ。それは嬉しいかも。その「狩り」って言葉の意味は、魔獣を倒すだけでなく、ひとりでは難易度の高い鉱石や薬草の採取も含まれる。でいいかな?」


「何それ。生産職には嬉し過ぎなんですけど?あ。ってことは、私達生産職は、その「狩りの日」以外は生産してていいってこと?」


「イイよイイよー。本当に察しがいい!」

 もう、丈二の顔の緩みが止まらなくなっている。


「メリットの2つ目だ。」


「総合ギルドになるということは、生産職で結果が出ない間も、冒険職で補填出来る。要はお金に困らない。その代わり君達にも冒険職してもらうけどな。」


「私達が冒険かぁ~。それこそ足引っ張りそうだぁ。」


「そんなことはないだろ。アビーは素材で回復系アイテムが作れるし、エイディは狩人だしな。」


「何や。そんなんやったら。ワシなんか何も生産できへんで?せやけど、お前らが冒険のサポートしてくれるんやから、ワシらも手伝いくらいはするで?」


 ミッツのナイスサポートに併せ、丈二はダメ押しをする。

「そだな。それもウチは自由意志で行きたいと思っている。後は…調合する場所と農地の提供くらいかな?」


「え。マジぃ~?最後のすっごいメリットなんだけどぉ~。」

「よね?」


 彼女達の顔を見て、作戦会議の面々がディスプレイの前で親指を立てて言う。

『ナイスダメ押し』っす』


「ミッツ。丈二さん。この話を断る理由なんて私達にはないよ。是非、仲間に入れてくれないかな?こちらからお願いするよ!」


 その言葉を聞いて、「ありがとう。交渉成立だな。今後は丈二でいいぜ?」と丈二は手を差し出し、彼女達も「なら私達も呼び捨てで」と出された手を握り返した。


 ※ ※ ※ ※


 生産組合でのギルド登録は思いの他、時間が掛かる。

 正確にはギルド登録自体は早く終わったのだが、総合ギルドとするため、冒険者組合との調整に手間がかかっているようだ。


 丈二は「ついで」にと思い、生産者組合の担当にこれを任せたのが失敗だったと少し後悔をする。

 もしこれが、リリアなら無駄なく終わらせていることが容易に想像ができ、何より気兼ねをしなくて済む。


 だが、この待ち時間も悪いことだけではなく、むしろ丈二と八木・ケレがその場で踊りたくなる程の事実が明らかになる。


 4人はその時間を使い、組合の商談場を借りてお互いの情報を交換した。


 まず、アビーであるが、固有スキルが「鼻の見極」というものらしく、指定した物の状態を臭いで判断することが可能であるらしい。


 次に、エイディの固有スキルは「自然の恵み」なるもので、植物の育成促進を補助するそうだ。要するに人間植物活力剤である。


 この固有スキルが丈二と八木・ケレを熱くした。

 2人の固有スキルを万科辞典で検索をして、次の胸熱ポイントがそうさせたのだ。


 アイビーの場合、調合の段階で適切なタイミングを臭いで覚えてしまえば、それを基準にした判断が可能で、お酒やチーズの発酵状態を見極めるのに役立つ。


 エイディは、何をおいても作る農作物の品質向上と早期収穫。

 マナが源であるこの世界は、当然植物の育成や味にそれが作用する。その為、マナを含む死骸や高マナを含む土などが肥料となるが、それらの吸収を促すことと管理ができる。そして、それは発酵にも効果がある。


 こうなると脳内会議はお祭り騒ぎで


『こいつらの固有スキルで、好きな酒と乳製品が簡単に作れちゃうんじゃね?』

『面白クラフトクエスト承り!僕とケレたんで厳選レシピ近々に用意する。』

『いいすねいいすね!今から飲み歩き食べ歩きっすね!』

『おう!行ってこい。行ってこい。』


 そんな感じではしゃいでいると、八木が2人の「固有スキル」と「職業」が上手くマッチングし過ぎていて、これも神託に関係があるのかな?と言い出した。


 成る程、オプス様の御神託は、初期能力値だけでなく固有スキルにも影響を受けているのかもしれない。逆に固有スキルが初期能力値に影響を与えているとも考えられる。


 戦闘系とは違い、生産系では、適材な職業と固有スキルの組み合わせが顕著に表れるのかもしれない発想に2人は想像を膨らますも、どうやらその答えは「理」に触れるらしく、質問をされたケレースの分体は電池の切れた玩具のように固まったらしい。この答えは、こいつから得られそうにないな。


 ◇


 実はこの時、丈二はテンションMAXで脳内会議をしており、傍から見ると独り言をブツブツ言っている状態。そして、そんな彼を見て、彼女達が後退りをしている。


 暫くして、彼はそのことに気が付き、2人に謝りを入れて自分の立場と能力を説明する。流石に、2人はめちゃくちゃ驚いていたが、ミッツのフォローもあり、それなりに理解を示してくれた。


 そして、話は丈二が何故「総合ギルドを作りたいか」に変わる。


 彼女達は、冒険者の丈二が、何故そこまで総合ギルドにこだわっているのか分からなかったらしいが、彼の職業が「スカウトレンジャー」であることを聞いたところで納得したらしい。


 生産職の中では、レンジャー職は「器用貧乏」として知られているらしく、生産系を何でも「かじれる」が「極められない」、そんな職であるがため、彼はギルドを作りその点を補いたいのだろうと2人は考えたようだ。


 丈二としては、総合的に仕事をこなす団体のマーケティング上の強みと、ひとりで全て賄えうことへの限界を、元の世界での経験で良く分かっており、そのことが総合ギルドを起ち上げる理由のひとつとしていた。

 それは、裏を返せば、彼女たちのその考えで間違っておらず、特に反論をすることもせず、ただただ頷いていた。

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