第58話 章エピローグ 逸材と総合ギルド(上)
話は少し遡る。
銅鉱山の戦いの結束で結成された「(仮称)チームみたらし団子」。
冒険者組合からのアジト提供条件であるギルド構成員5名まで2名足りない状況での発足。
その事の解決と、丈二の提案による冒険者・生産者の両ギルドを運営する『総合ギルド』立ち上げのため、虎人族のミッツは、提案者の丈二を連れて生産者組合のロビーに来ていた。
彼達の同郷2人を勧誘する為である。
最も、その2人への勧誘説明は、交渉に長けている「スカウト」レンジャーの丈二に任せるつもりだ。
◇
既に受付では、同郷2人のことを話しており、この時間に2人が組合を訪れると教えてもらっているため、その待ち時間で、丈二と共に生産者組合の登録の手続きをお願いする。
生産者組合は、冒険者組合と違い落ち着きのある雰囲気で、業務内容も事務手続きに近い。また、生産者と商業者と二つの側面を持つため、業務は多岐に渡る。
大まかにまとめると以下の通りだ。
・生産職としての職業を得る場(登録も含む)
・生産者ギルドの登録、斡旋、紹介
→修行先や弟子の募集も含まれる
・店舗経営の許可と登記
・新商品の登録と登記
・商談の場の提供
・相場情報の提供
・買い取り
・法外な商いの取り締まり
・行商クエストの受注・発注 …etc
冒険者が自ら手に入れた素材を売るためには、こちらに登録をし店を構えることで可能となる。そのため、大手冒険者ギルドではギルド単位で店を持っていたりする。
逆に、職人達が必要な素材を手に入れるために冒険者を兼ねることもある。
大手の『総合ギルド』では、これらの状況を整理し、ギルド内で「武器生産部隊」や「素材確保部隊」を作り部署分けをして、総合的な活動をしている「総合商社」のような側面を持つものが多い。丈二がカットレイに聞かれ答えたギルドの方針は、これに当たる。
最も彼がその考えに至ったのは、両方しちゃえば皆やりたい事が出来るから楽しそうだよね!と趣味的思考によるものではあったのだが。
※ ※ ※ ※
ミッツがロビーにある組合の案内チラシを読みながら、その『総合ギルド』について考えていると後ろから声を掛けられる。
「あれ?ミッツじゃん。こんな所で何してんの?」
振り返ると、彼らが待っていた2人。
愛くるしい顔をした犬の女獣人と美人のエルフがこちらを見ている。
「おう。アビーとエイディ!ちょっとお前達に話が合ってな。」
ミッツは、まあ座れと2人に席に着くように促し、好きな飲み物を頼むように言う。
2人は飲み物を頼み、アビーが順番待ちの木札を取って帰ってきたところで、今回会いに来た理由を話す。
「実はなんやけど。カットレイを頭にした冒険者ギルドをワシら作ることにしたんや。」
「おー。流石やることが早いねぇ。」
「でな、一緒に組むことになったこのにいちゃんが「総合ギルド」にしたいと言い出してなぁ。それで、お前らを誘いに来たっちゅーところや。」
「え?でも、私たちまだ全然だよ?今日も組合斡旋仕事だったし…。」
「そうね。こっちはその日暮らしが精一杯。」
突然の話にキョトンとして顔を見合わす2人に、丈二は交渉術をONにして自己紹介をする。
「おお。生産者!いいねぇ!!俺は冒険者の丈二。よろしく。ところで君達は何の生産職業なんだ?」
「え?あ、ども。私はアビー。調合師の成り立てほやほや。作れるのも職業得た時のデフォくらいしか出来ません。あはは…。」
「私はエイディ。見ての通りエルフよ。エルフって種族もあってか「農耕狩人」って変わった神託が下ってその職についてみたわ。」
まず、犬の女獣人が、次に女エルフが自己紹介を返す。
※ ※ ※ ※
農耕狩人…面白い職業だ。いや、むしろ農業とかいいね!それに調合師…素晴らしい!と丈二はワクワクノリノリで彼女達へ質問をぶつける。
まずは、気になるのは農耕狩人だ。
「へぇ~。農耕狩人って、農業も出来るし狩りも出来るしでいい職だよな。何で冒険者じゃなかったんだ?」
「私は昔から土いじりが好きで農業がしたくてここに来たの。この街の西側の川沿いにある農業地帯は結構有名な農業地帯だからね。」
そうなんだと思っていると、頭の中の八木君が情報を寄越す。
『僕も気になっていた場所。今度行こう。』
『OK』
八木からの提案もあり誘ってみる。
「西側の農業地帯。興味あるわ~。今度皆で見にいかね?エイディさん連れて行ってよ。」
「え?いいけど。私もまだ行ったことないわよ?」
今度は、農業話で盛り上がり少し蚊帳の外になってしまったアビーに対して、丈二が質問をし話を切り替える。
「アビーちゃんは調合師ってことで、ポーションとか解毒薬の調合が出来るんだよね?」
「そだね~。今出来るのはその2つと水のろ過だけだけど。」
「実は俺も解毒薬の生成が出来るんだ。そのお陰で、俺とカットレイは命を取り留めたことがあったんだよ。だから、調合師の大切さを俺は嫌って程知っている。それもあって、俺は冒険者がパーティを組む時には、常に調合師が居て欲しいと思っているんだ。」
「ん…。そかもなんだけど。あなたが解毒薬作れるなら私いらなくない?」
「ノンノン。俺が覚えれるのは頑張っても中級程度まで。でも君は無限大。これは大きい。そして、派生で酒も食材…特に調味料が作れてしまう。すばらしい職業だ。」
そして、彼はキラキラした目で2人を見ながらこう言った。
「俺のやりたいことに君たちはぴったりなんだよ!一緒に生産者ギルド作って楽しもうぜ!!」
◇
そのキラキラに圧倒されながら2人は答える。
「すっごくありがたい話なんだけど、私達は本当に何も出来ないかもしれないよ?」
「そうね。それに、あなたのやりたいことって何かしら。私達がやりたくない事だと困るし。」
その質問に待ってましたと彼は自分のやりたいことを話す。
「俺は、仕事に疲れた人達にお酒とゆったり落ち着いた空間を提供する店を作りたいんだ。そこで提供するお酒や食材の開発に手を貸して欲しい。」
「え?お酒や食材の開発?」
「そそ。例えば、エイディちゃんが小麦を作る。それをアビーちゃんは調合師として粉にする。その小麦の粉も色々な成分の割合で料理に適したものを幾つか作ってもらう。そんなイメージなんだがわかるかな??」
「ん?エイディが作った小麦を粉末にするのはわかるよ。でも、その後の成分の割合ってのが分からないなぁ。」
「それは作るときに細かく説明する予定なんだけど、パンの「もちもち」って小麦に含まれる成分の多さで違うんだ。それを調合師の技で変えていく感じ。本来は作った小麦の種類で分けるんだけどね。」
その話を聞いて、アビーは耳をぴくんとさせ
「えっと。小麦の成分をスキルで粉分解するときに変えて、それに合わせた料理に使う?みたいな?」
と思いついたように聞く。
「おお。そんな感じだ。」
ならばと、今度はエイディが
「本来なら種類で分ける…と言うことは。可能なら小麦の種類を増やして作りたい。だけど、他の作物も育てて欲しい。だからアビーの調合で種類を増やす。そんなところかしら?」
と丈二に聞く。
「いいねぇ!アビーちゃんエイディちゃん!センス最高!評価爆上がり中!!」
頭の中で、八木とケレースも
『お。逸材?採用採用。』
『こりゃ思いがけない収穫が見込まれるタイプっすよ!あたし好みっす!』
と、ワイワイ盛り上がっている。
丈二も同意見だと2人に伝え、彼女達をギルドに入れる為の算段について、緊急脳内会議を開催し始める。
それを、黙ってみていたミッツは「ご愁傷さま」と生産職の2人を哀れんだ。
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