第57話 BARとJAZZとワッフルと(2)

(カットレイの奴、本当にワッフルの美味さだけで彼女を採用しやがったのか。あの「歪」な猫姫をチームに入れることは、俺にとって確定事項だっただけに…。俺とリリアの育成プランが台無しだな…。)


 丈二は心の中で愚痴るが、冒険者としての若月の実力を見ているのは、この中では自分だけだよな…と切り替えて、若月について説明を始める。


「悪いな皆。色々とあって、若月ちゃんにツブの世話係を依頼した結果…何故か若月ちゃんが入団することになっていた。まぁ何時ものカットレイの思い付きだから気にしたら負けってやつだ。」


 皆の溜息混じりの同意を受け、若月の冒険者としての素質を続けて説明をする。


「この子は昨日冒険者になったばかりの職業は…剣士の珍種?で、レベルは4だ。」


「珍種…。否定できないのが悲しいです。」

 若月が、う~と頭を抱える。


「そして、正直めちゃくちゃ強い。剣の腕前は相当だぞ。でも歪なんだ!。にも拘らず彼女の作るワッフルというお菓子は非常に美味い。」

「わからんわ!!」


「まぁ聞けよ。客がいる中なので少し濁すが、そんな彼女の出身はで、暗殺者みたいなことをしていた。」


 丈二は交渉術をONにして話す。

 一同の目もそのひと言で鋭くなり、真剣に話を聞き出す。


「そして…残念なことに。我がチームの珍獣の下僕になってしまった可哀そうな子なんだ。」

「はぁ?最後の全然訳分らんで?」


 丈二は、今日の出来事について慎重に言葉を選びながら、黒猫契約から餌やりまでの一部始終を説明し「俺もこの子をチームに入れたいと思っている。」と、付け加えて話を終える。


 丈二の話を最後まで聞き、カットレイが興奮しながら若月を見て言う。


「お…おもろいやんけ君!強くて、感情なくて、仲間殺すかもで、ワッフルで、黒猫の下僕で、迷い人で、ほんでもってワッフルなんやな!ほんまに何なんや君!!」


 その他のメンバーも、カットレイの興奮と同様に

「やばいわぁ。俺サブイボ出たでぇ。いれよいれよ。」

「あぁん。冷酷な剣士で美少女たまらないわぁ~。」

「ツブ猫の下僕ってあんた。何やねんそれ。もう人生終わってておもろいわぁ。」 

 …etc

 大盛り上がりしている。



 そう。思い出して欲しい。

 リリアが若月に紹介した4つのギルドのことを。


〔紹介したギルドは4つで、2つは新人が最近設立したギルド、1つはこの街で4番目に大きなギルド、そして、最後の1つは少しであったが…。〕


 そうである。

 正にリリアが若月が入るとしたらここしかないかな?と思ったのはこのギルドで、その面々は、若月や丈二と同じ性根が「歪」な「変わり種のギルド」なのである。


 メンバーの若月に対する評価ポイントは様々であったが、彼女のチーム参加は満場一致で(本人の意思も確認されないまま)認められたのだが、当の本人は…。


 歪だとか、下僕だとか、暗殺者だとか散々な評価を受け涙目になっていた。


 ※ ※ ※ ※


「いや~ワシの目に狂いはなかったでぇ。逸材や!」

 と、ご満悦なカットレイであったが、次の議題に入ることで声のトーンが落ちる。


「次の話はにいちゃんから説明したってや。」


「わかった。ただその前に、若月ちゃんはサニーさんと一緒に「ワッフル」を作ってもらえないか?皆に食わせてやりたい。それに、ここからは、明日の話になるので、まだ君には直接関係のないことだからね。」

 真剣な眼差しで丈二は若月に言う。


「あ。そうですね。1週間はツブちゃんのお世話の依頼を受けていますからね。」

 丈二の言ったことを理解し、若月は了解をする。


「そそ。その依頼はうちからの依頼だから、今ギルドに入ると報酬が出ないんだ。だからここからは、ゆっくりワッフルでも作ってて。気になるなら大まかな情報だけサニーさんから教えてもらえばいいよ。」


「わかりました。では、サニーさん、お手伝いをお願いできますか?」

 ハスキーになっているサニーは、頭を若月に擦り付けて了解を告げる。


 その光景を見て、この子は「歪」で抜けているところは多々あるけれど、物事の本質お見抜く力は鋭いんだなと、丈二とカットレイは目を細める。


 若月が食材庫に向かったところで、丈二が改めて話し出す。


「先程、組合にも報告したんだけど、若月ちゃんのクエストに同行した時に、彼女に発動したツブ猫の危険感知が「北のあの森」で危険を察知していたんだ。」


「ふん。それは、あくまでも察知しをただけにょ。「あれ」とは限らないにょ。」

 丸くなっていた黒猫が丈二の膝の上にぴょんと飛び乗り言う。


「でも。可能性はありそうよね。」


「あぁ。だから。明日からの狩の日は、あの森の調査に変更したい。組合からも調査依頼が出るように話は通してあるから報酬もそれなりなはずだ。本当に、明日の素材に期待をしていた奴らには申し訳ないのだが…。」


 申し訳なさそうな顔の丈二を補足するように、カットレイが会をまとめる。


「ええか。若しものことを考えたら、ワシ等は居場所を守ることが第一優先や。だから意義は認めへんで?まぁ「あれ」が絡む可能性があるんやったら誰も意義なんて無いと思うけどなぁ。よし!今日の話し合いは以上で終わりや。」


 カットレイの〆の一言で会合は終わりとなり、各々は好きな酒を楽しみ出す。

 そんな中、ワッフルを焼き終えた若月が、カットレイに近寄って来て、申し訳なさそうに言う。


「すみません。私の紹介をして貰ったのはありがたいのですが、私にも皆さんを紹介してもらえませんか?お酒を運ぶように頼まれたのですが、誰が誰やらで…。」


 その一言を聞いて、全員が「あっ」と顔を見合わせ大笑いをする。

 そして、ひとりひとりが、新しくメンバーに加わった可愛い『歪な猫姫』に自己紹介を始める。


 ※ ※ ※ ※


 会合の後。ここからは、店を完全貸切にしての宴。新しい仲間を祝う宴。

 トリオの奏でるも音楽自由になり、JAZZからワルツに代わり最後はルンバとなる。


 この日、丈二の店の名称は「BARみたらし団子」から「BARわっふる」に代わり、ギルド名は「チームみたらし団子」で正式登録することが決まる。そして、ギルド内に、若月とつぶ猫の「黒猫姫組」が誕生する。


 『歪な猫姫』と称される「少し壊れた女の子」若月が新しい仲間を得た、門出の夜の出来事。

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