第52話 黒猫と猫姫剣士(3)

「さあ。ツブちゃんのご飯を狩りますよおお!」

 と、丈二のサバイバル術を目の当たりにし気合が入る若月。


「落ち着くにょ。あいつと狼が獲物を探すまで黙っているにょ。」

 …黒猫に怒らる。


 出鼻を挫かれてシュンとする若月に丈二が言う。

「俺はスカウトレンジャーって職業で、そうだな、探検するのが得意な職業なんだ。サニーさんも風の聖霊で鼻が利く狼だから、敵を探すってのがふたりとも得意なんだよ。」


 丈二は、ここに来るまでに気配感知をONにしていたが、お目当ての獲物が引っかからなかった為、仲間と良く来るここのポイントへ来たのだが、当然感知に引っかからない以上は獲物もおらず、狩りのベース拠点として整備する。


 それならばと、辞典を使って獲物を探そうとすると、目の前にポイントを×で記した地図が送られてくる。

 他の冒険者が記した地図が検索で引っかかったようで、八木から送られてきたものだ。


『ん。今日はうまうま肉のポップが少ない。』

『GMに文句言うっすよ!!』

 頭の中で二人が騒ぐ。


『いやまて、ゲームじゃないからポップしないからね!それに堕女神よ。もしGMがいるなら、お前の母ちゃんかお前ら神格全員がGMだからな!!』


 まったく。こっちの世界に来てから数回は死にかけている自覚があるのだ。そろそろゲーム感覚は辞めてほしい。そもそも、こっちで死んだら普通に死にますよって、教えてくれたのはお前だぞ!堕女神!と言っても絶対無駄なので、心の中で突っ込みを入れておく。


 そんなやり取りを頭の中でしている丈二の横で、若月が少し嫌そうな顔をしている。


「若月ちゃん。どうかしたのかな?」

 気になった丈二が声をかけた。


「はい。突然、猫の危険察知ってのが発動して、それ以来、あの森の奥のほうが気持ち悪くて。」

 彼女は、本当に嫌そうな顔をして答える。


 猫の危険察知って…。それにあの森の奥だ…と、丈二も悪い予感しかしない。

 だが、それをあえて否定するように黒猫が紛らわす。


「強い魔物ってのだけが危険じゃないにょ。お前らの感知に引っかからないってことは、他の何かにょ。気にしたら負けにょ。それより肉にょ。」


 くッ!黒猫が何時ものように太々しく…ない!!!

 お腹が空きすぎて干からびている。


 若月は、カバンから街で買った干し肉数枚を取り出し黒猫にあげ、あの嫌な感覚が気にはなると思いながらも、兎に角つぶ猫にご飯を上げなくては怒られると、丈二の後にいそいそと移動をした。


 ※ ※ ※ ※


 何よりも今日の依頼遂行である。

 八木に示された×印の場所に獲物がいることを期待する。


 その場所に着くまでに、彼らはパーティを組んだ。

 初めての共闘となる若月には、

 ・組み方

 ・メンバーの体力値と魔力量が赤と青のバーで示されること

 ・その残量に配慮しながら戦うこと

 ・明日から黒猫と組むこと

 のみが教えられた。


 細かく教えても、また頭から煙を吹くことが目に見えていたので、丈二は必要最低限のみ伝えたのだ。


 ポイントに着く手前、マウントカウの群れが探知に掛かった。

 よし!数は7匹。群れは水を飲んでいるようである。


 今回の討伐は5体と多めなので、まずは群れのボスの隣にいる2匹を、気配をスキルで消した丈二が強襲しサニーとの連携で仕留める。そして、若月が群れから距離を置かれた単独のボスを狩る。

 先に厄介そうな3匹の確保してしまおうという作戦である。


 そうと決めてからの2人と1匹の行動は素早い。

 その点はやり易いなと、お互いを確認しながら3頭の獲物に足を向ける。


 丈二はそれ以外の指示は必要ないと思っており、彼女に耳栓通信を渡していない。

 相手は、目安としてレベル5相当の気性の荒い牛で、格付けは彼女とほぼ同であることから、彼女の剣技であれば、これらを難なく倒すであろうと自由にさせる。


 まずは、丈二が動く。

 ボス牛の右にいる大き目の牛に奇襲を仕掛け、延髄へ棍を叩き込む。

 そして、そのままボスを飛び越し、左の牛の首元に棍先を刺す。


 サニーは、丈二が左に移動したタイミングで風魔法を右の牛に放ち止めを刺し、素早く空中に飛び上がり、スキル空中ダッシュで空気の足場を蹴り上げ、左の牛まで空中を走って追い越し、振り向きざまに牙で噛みつく。


 まずは、丈二とサニーが呼吸のあった攻撃でしっかりと2頭を仕留めた。


 そのまま、サニーはボス牛以外の牛を睨みつけ逃げないように回り込む。

 改めて丈二も気配を遮断しボス牛のヘイトを消すことで、ボス牛が若月と戦うように誘導する。


 この時のお互いの立ち位置が絶妙で、ボス牛はまんまと若月と正面対峙する形となる。


 若月はゆっくりとコールマンから借受けた剣を抜き、彼女にとっては奥義とも呼べる剣士の一般スキル「落葉の足取り」を発動させ、間合いを計る。


 その時の若月の表情を確認していた丈二は、彼女の表情が何時もと同じであったため、彼女は、剣を抜けばその都度、歪スイッチが入るという訳ではないんだなと思った。


 対するこの牛も流石は群れのボスである。

 鋭く尖った角を突き立て若月の間合いに合わせて突っ込んでくる。

 牛の振り上げのタイミングがピッタリと若月の距離と合った!


 ボス牛の鋭い角が若月の胸に突き刺さると思われたその瞬間。

 落ち葉が揺れるが如く若月の体がゆらりと角を躱し、ボス牛の首が若月を通り過ぎたと同時に、黒く禍々しいマナを纏った彼女の剣がその首をねる。


 ポトリと首が落ち、ボス牛の巨体が地面に崩れ落ちてことは終わる。


「うーん…ツブちゃん。この牛さんは首を落としてしまうと味が落ちてしまいますか?それとも血抜きをすることを考えたら適切な処理だったのでしょうか。一応コモンウルフさんの時と同じようにしてみましたが…。」


「味は知らないけど、血抜きはしてくれた方が収納がしやすいからGJだにょ。」


 淡々とした会話を続ける黒猫と猫姫。


「なぁ。お二人さんや。」

「あ、はい。また私が何かやらかしちゃいましたか?」


「いや、それは良いんだけど。最後の剣の黒もやは何だったのかね?切れ味やば過ぎなんだけど?」


「えっと。コールマンさんの剣は魔力特性?があるとかで?ツブちゃんが剣に魔法の力をくれたみたいな?」


「ん~まぁ大体あってるでいいにょ。ただ単純に闇の切れ味を剣にエンチャしただけにょ。小さなことは気にせずに、とっとと残りの牛を調理するにょ。」

「わかりました。サクッと調理しちゃいましょう。」


「お…おう。」


 残り4体の牛は、ボスを失ったことで統率を失うかと思われたが、その場を離れる為に一斉に立ち向かう若月に向かって走りこんできた。


「にょ。」

 黒猫が若月に黒い靄をかける。

 スキルの足取りと合わせ、若月の体が蜃気楼のように歪む。


 その歪んで見える若月の体を通り過ぎた牛達は、彼女から1m程度過ぎたところで首を落としながら次々と倒れていった…。


 その後、グレートボアに遭遇しそれも一刀両断をした、猫姫ペア。


 その光景を見たマスター暁 丈二は、

『これ。あかん組み合わせをくっ付けてしまったのかも。』

 と、同じくディスプレイ越しでそれを見ていた親友に言うと。


 その親友は『味方ならALLOK。』と言ってニヤリとするのであった。

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