第51話 黒猫と猫姫剣士(2)

 ご主人となった黒猫のご要望の通り、若月は冒険者組合で討伐依頼を受け、素材以外の肉類をご馳走することとなり、黒猫を頭に乗せ冒険者組合に向かう。


 今回は、マスターこと丈二も同行する。

 曰く、食事のシーンは流石に初見だと心配とのこと。


 組合に入り、リリアが受付している列に並ぶ。

 先に対応して貰っている冒険者が、リリアを口説いているのが分かり、若月は心の中で、「ヒビキさんのお構いなく作戦ですよ!」と囁く。


 そんな若月の心配を余所に、リリアも海千山千の受付嬢。受付嬢の仕事以外ガン無視で淡々と作業を進める。

 一瞬心配そうに身を乗り出そうとした丈二も、リリアと目が合うと彼女からのアイコンタクトを受け「ふふっ」と笑っていた。


「本当に毎日同じことを言って飽きないのかしらね。」

 前の冒険者が帰り、若月と丈二に彼女が愚痴る。


「心の中でヒビキさん作戦ですよ!って念を飛ばしてました。」


「念を飛ばすって良く分からないけど。ありがとう若月ちゃん。」


「俺は触ったら殺すって眼を飛ばしてたけどな。」

 笑いながら言った丈二の言葉に、リリアの頭はお花畑になり、10秒程度あちらの世界に行っている。

 この光景も丈二のギルドメンバーが見れば、見飽きたと言うくらい恒例となっている。


「そんなことより事件だ。」


 丈二のそのひと言ででリリアの思考があっちの世界から返ってくる。

「事件って。若月ちゃんも一緒で…どうしたんですか?」


「若月ちゃんがツブ猫の奴隷になった。」

「ふぇ。奴隷じゃないですよおお。眷属になっちゃっただけですうぅ~。」


「どっちも同じじゃ…ってええええええ!」


 ―――かくかくしかじか。


「あー。それはご愁傷様です。」


「てな訳で、美味しい依頼を見繕ってあげて。毎日!お願い。」

「にょ!」


 ※ ※ ※ ※


 リリアは「あはははは…。」と苦笑いしながら、サニーが居るならと、2つの依頼を持ってきた。

 ひとつ目は、グレートボアの討伐3体。

 ふたつ目は、マウントカウの討伐5体。


 何れも、食用として重宝される高級食材で、重量級の魔物のため、少し難易度が高くDランク相当の依頼であるが、若月の実力と丈二のレベルを加味すれば、適切な配慮であった。


「お。Gボアと山牛か!ツブ何体食べたいんだ?」

「にょ?全部に決まってるにょ!」


「そんなに食べれないだろおよお!1体づつ寄越せよ。」

「闇魔法の空間で保存するにょ!嫌だにょ!欲しければ余分に1人で狩ればいいにょ!」

「ケチだなぁ。今までの恩を忘れたのか!」


「ふんにょ!もうお前に食べさせて貰う僕じゃないにょ!下僕がいるにょ!」

「私…下僕なんだ…あははは…。」


 リリアはずっと「あははは…。」と苦笑いし続けていて、下僕と言われた若月も彼らの問答が終わるまで同調していた。


 ※ ※ ※ ※


 お互い買い物を済ませ門集合となり、少し早く着いた若月は頭に黒猫を乗せて、門番の面々と談笑しながら丈二を待つ。


 その足元には、来る途中に出会った猫達5匹が姫を門外まで護衛するにゃんと整列している。

 その言葉を聞いたとき、若月は「やっぱり猫ちゃんの語尾は普通にゃんですよね。」と猫たちを撫で、それを聞いた黒猫のご主人にどやされた。


 この猫達、雄3匹、雌2匹の猫レンジャイ達は、何時も一緒の猫グループらしく名前もないため、今度名前を付けてあげようと若月は思う。


 くしくも、その光景が門番たちに強く印象付けされ、思えばここから、街の人たちは、彼女のことを「猫姫」の二つ名で呼び出したのかもしれない。


 10分程待つと丈二が白銀の狼を連れて門に現れる。

 若月は白銀の狼を見て「ハスキーさんのお母さんですか?」と尋ねると、1人と1匹はお互いの顔を見合わせ笑った。


 笑われて「?」と最近の流行り?の思考停止をしていると、頭の上の黒猫が「あれは、あのハスキーだにょ。」と教えてくれる。

 身体変化というスキルで、大きさと見た目をその種族の大人と子供程度には変われるらしい。


「因みに、サニーさんは箱庭の風の御神体だぞ。若月ちゃんを落ち着かせてくれたあのお姉さまが本当の姿かな。色々あって眷属契約をしてくれて、一緒に来てくれたんだ。」


 若月は、箱庭で会った「水の聖霊ルサールカ」の話を交えながら、サニーの説明を受ける。箱庭での試練聖霊には色々いるらしい。


「はい。とっても可愛いお魚さんでした。」

 と、若月は笑顔で「水の聖霊ルサールカ」の感想を示したその一言が、サニーとディスプレイ越しのケレースに刺さったようで、脳内でダブル御神体が爆笑をしていたのが印象的であった。


「まぁ、そんな感じで、サニーさんは俺達に迷惑を掛けないように見た目を変えることがあるので、おいおい覚えてあげて。」


 と丈二がお願いをし、若月は「はい。」と答え白銀の狼の立派なたてがみをモフる。


 サニーの紹介も終わり、若月達は、猫レンジャイの猛烈なエールを受けながら、依頼達成に向けて門を後にする。


 ※ ※ ※ ※


 今回の討伐依頼…黒猫のご飯は、グレートボアの討伐3体とマウントカウの討伐5体。

 フィルム北東にある森周辺に生息する魔物らしい。

 森に入るともっと強い魔物が出るため気を付けるようにとリリアに注意されていた。


 生息ポイントは徒歩で半日はかかるため、一回り大きくなったサニーの足で進むことにする。丁度バイクの二人乗りをする感じで、丈二が前に乗り後で若月が丈二にしがみ付いて進んでいく。


 1時間と少しぐらいであろうか。

 そのポイントに彼らは到着する。


 サニーさんの走る速度は、時速50kmくらいの体感でしたかね?明日も来るとしたら、徒歩でだと往復一日は必要ですね。

 と、若月が明日のことを考えていると、丈二が見透かしたように、「明日は近場のコモンボアとかになると思うよ。」と教えてくれた。


 2人はサニーから降りて少し歩いた処にある一本木の根元に拠点を作る。

 丈二が、木の周りに簡素で小さな堀と壁を土魔法で作り、その中に荷物を置く。


 他にも、解体するスペースや、素材を入れておく横穴を素早く仕上げて行き、彼の生活力の高さに若月は関心するのであった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る