第50話 黒猫と猫姫剣士(1)
どうやら、若月は納得したらしい。そして理解したらしい。
それは、いい。八木が丈二に聞かせれないと判断した理由があるなら、丈二は受け入れるし、関与しない。そういう男である。だからそれはいいのだ。
だがしかし!
何故!若月は堕女神ケレースを褒めているのだ!!
それがマスター丈二とその眷属でケレースの部下であるサニーは納得がいかない。
もやもやしている彼らを横目に黒猫のツブリーナが痺れを切らして言い放つ。
「お前らいい加減に本題に入るにょ!こちとらそんなに暇じゃないにょ!」
それを聞いた丈二はジト目で黒猫に訴えかけている。お前は常に暇だろと。
「そんな目で見るんじゃないにょ!いいかにょ危うい女。よく聞くにょ。」
「は…はい!」
「お前はさっき結果的に僕に負けたにょ。今からお前は僕の下僕にょ。」
「ふぇ?」
「だけど、危うい下僕はお断りだにょ。安心の昼寝が脅かされるにょ。だから、お前がもう少し自分を制御出来るまで調教してやるにょ!覚悟するにょ!」
黒猫がこんなに喋るのを初めて見た。
そして、打合せした筋書きと違う。
だけど、これはこれで面白いと丈二と八木は思う。
「つぶさんや?それだと俺の出した依頼内容と少し違って来ませんかね?」
一応丈二は否定してみる。
「五月蠅いにょ!お前らはまどろっこしくてイライラするにょ!」
「はぁ。」
「いいかにょ!これから1週間下僕は僕の面倒をみるにょ!あ、違うにょ。その後もお前はご主人様である僕の面倒をしっかりみるにょ!返事はどうしたにょ!」
フシャーフシャー言いながらツブ猫が若月を威嚇する。
「は…はい!ふぇえええ。」
若月もその圧に押されて返事をする。
それを見たサニーが「あっ…」と声を漏らす。
それと同時に若月と黒猫が黒く光る。
「よし!にょ。」
「ご主人様…今若月様が、ツブリーナの従属になっちゃいました…。」
「へ?」
「ビュレト…悪魔と契約しちゃいましたよ。若月さんが従属の方で…。」
「「『ふぇええええええええええ』」」
二人の異世界に飛ばされた日本人と、日本にいる日本人一人が同時に感嘆の言葉を漏らす。
「ああああ…悪魔と契約してしまったのですか?私。」
「みたいだな…。」
「どどどど…どうなるのでしょうか。私箱庭で1年程生活してやっと卒業できた3日後に魂取られちゃうんですかね。」
「暗闇一瞬だったのに箱庭1年って大変だったな!後でおじちゃんが上手いもの食わしたる!魂をツブ猫に食われてなかったらだけど…。」
「ご主人様は1日でしたからねぇ。若月様とは真逆ですね。」
「おい。魂なんて食べても美味しくないにょ!お前ら馬鹿なにょ?」
黒猫は満足気に前足で眉毛を整えている。
丈二は万科辞典を展開し、「悪魔ビュレトとの契約、人間が従属の場合を検索」する。
→【人間が悪魔ビュレトに服従を誓った契約では、ビュレト側から事前に条件が示されるケースが多く、その条件には逆らえなくなる。代わりに、お互い同意範囲でビュレトの持つマナを貸し与えられる。その反面、レベルアップによるスキルの獲得はこれ以上望めなくなる。尚、強制的に職業が猫〇〇になる。】
「えっと…おめでとうごいます。若月さんは、魂は取られないけど、ずっとこの黒猫を飼わないといけません。そしてそれは拒否出来ません。その代わりに力を貸してくれるそうです。」
「そんなのでいいのですか?それなら全然かまいませんが。」
「次に残念なお知らせです。あなたはレベルアップをしてもこれ以上のスキルは覚えないそうです。そして職業が猫なんちゃらに勝手に転職しているそうです。」
「え?あ…職業が猫姫剣士になっています。」
『わっ…。じょっちゃんこれ。』
八木から猫姫剣士の職業検索結果が送られてくる。
→【猫姫剣士:猫に愛され崇められる剣士。猫と話が出来るようになる。稀に猫の技がその日の気分で使えるかもしれない。】
まさかの…かもしれないシリーズ。
丈二は、「猫に愛される存在で猫と話が出来るようになったらしいぞ。後猫の技がたまに使えるらしいけど詳細はわからん!」とだけ伝えた。
「な、なんとお!猫ちゃん達とお話が出来る!なんて夢のような職業なのでしょう!スキルなんてよく分かりませんから問題ありません!猫ちゃんの技とはどんなものなのでしょうか。楽しみですね!」
若月の死にかけていた顔がぱぁ~と華やく。
「全部の猫と話せる訳ではないにょ。従った猫だけにょ。」
黒猫がため息を吐きながら話を続ける。
「はぁ…。偉大なる黒猫契約について、お勉強は済んだかにょ?この新しい下僕が受けた依頼は僕をお世話すれば達成するでいいにょ?」
「いいと思うけど。」
「なら、つべこべ言わず飯を食べさせるにょ!無駄な魔力使って腹減ったにょ!」
「ご…ご飯ですか?午前中は図書館と先ほど指示を受けたばかりなのですが、宜しかったのでしょうか?」
「そんなのそこのヘタレが勝手に決めたルールにょ。今日はもう本の気分じゃなくなったにょ!お前は僕に従っていればいいにょ!」
「は…はいいい。ふぇえええええ。」
あ。本当に逆らえないんだと黒猫以外の全員がそう思った。
※ ※ ※ ※
結局、彼女が自分を客観的に観ることが出来たこと以外は、他は何も導けなかったと思いながら、若月と人間型になっているサニーにお茶を出す。
その間に、黒猫を連れて中庭に出て煙草を吸う。
「なぁ何であそこまでしたんだ?」
黒猫に聞く。
「何にょ。文句があるにょ?」
「そういう訳じゃないんだけど。何時も無関心なお前があそこまでって思っただけだ。」
「あれは生まれ持っての猫姫にょ。その素質があった…それだけにょ。」
続けて
「その猫姫があの危うさとは、少し寂しいにょ…。だから僕が調教するにょ。」
とボソッと黒猫は言った。
「ふふ。お前は愛すべき優しい悪魔だよツブ猫。」
丈二はそう言って、皿に入れたミルクを、ツブリーナという名前の黒猫の悪魔に差し出し、美味しそうにでふ~と煙を吐き出した。
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