第49話 宮村 若月(2)

 

「本当にこれは、御し難い程、危ういにょ。」


「だなぁ~。若月ちゃん自分の歪さ、観れた?」

 床に落ちた丈二の首がこちらを向き笑顔で聞いてくる。


「ひぃ~。」と若月は思うが見えている自分の顔に感情がない。

 こんなにも、自分が冷たい目をしていることに…と思う。そう、深層心理でそれを知っている。いや擦りこまれている。


「冷静に自分を分析すること。君は暗闇試練の中では、その必要がなかったのではないかな?君にとって暗闇の試練は恐らく1時間程度の体感だったんじゃないかなぁ。羨ましい限りだけど。」

 生首がやれやれといった顔をする。


『まったくだよ…。』

 パソコンのディスプレイの前で一部始終を観察していた八木陣が、ぽつり…と言うが暁 丈二の耳には届いていない。それを横で見ていた女神ケレースも切ない目をする。


(そう。私にとってあの暗闇の試練はただの変わった体験でしかなかった。ただ無感情に進む作業で良かっただけ…。それが変わってると、その後の世界で女神に笑われたんでしたね。)

 若月は心の中で、丈二からの問いかけに答える。


 それを見ていた黒猫が、片目を開け「飽きたにょ。」と黒猫が尻尾を振る。


 若月の視界は揺れ我に返る。

 そして、目の前に優しい笑みを浮かべる丈二が立っていて、自分は誰かに優しく後ろから包まれているのを感じた。


「大丈夫ですよ。私たちはあなたのそれを否定していません。」

 暖かい風が彼女を包み彼女は手に持った小太刀を離す。

 

 人型になり、彼女を優しく癒すサニーの効果で彼女に感情が完全に戻る。

 もう少しそのままでいてくれとサニーに伝え、丈二が口を開く。


「よし。まずは猫に危ういって言われる理由は分かったかな?他人目線で自分を見ると歪だろ?」


 若月はこくんと首を縦に振る。


「OK。で君は理解しなくちゃいけないことが、取り合えず2つ。ひとつめはもう君が裏でごにょごにょしてた世界に君はいないということ。もう一つはこのままではギルドに入れない。正確には入ったはいいが、君は何処かで仲間を殺しちゃうよね?」


 もう一度首を縦に振る。


「で、俺は、君が剣を持ち戦う時の感情をある程度コントロール出来ればそれでいいと思っている。対魔物や明らかに悪意を向けてくる者へは、今のままぶっ殺せばいいんじゃないかな?と。」


「え?」


「日本と違って命のやり取りをしている世界だから、全然ありなんだと思うんだ。でもさ、仲間にして殺されたら溜まらないじゃん?それだけ。」


 この人が何を伝えたいのか分からない。


 あの家に生まれ、表の剣の腕前を師範代まで鍛え上げられたと同時に、真剣を持った時の感情を殺された。お家の裏の顔を守るためには非常になるよう作られた。

 それが普通ではないことを常に意識していた。

 だからこそ、私はそれ以外では自由奔放に生きた…いや振舞った。


 そう、常に自分にかかった呪いを自分自身が一番否定していたのに、この男は何故「肯定する」のだろう。


 それでも若月は、先にひとつの疑問を丈二に投げかける。

「マスターさん。私の事情をどうやって知ったのでしょうか。このことは日本政府も知らないことです。これも…この世界の魔法の力なのでしょうか。」


 そう、あり得ないのだ。

 この機関が設立されて以来徹底した秘匿されていた裏の闇。


「ん~。そうと言えばそうなんだけどね。よし調べた本人に任せよう。」


 丈二は耳栓を若月に渡し耳に着けさせる。


「実は、俺のは、現世の協力者に情報を調べてもらって教えてもらうことが出来る能力なんだ。君も知ってる女神ケレースもこれに絡んでいて、気が付いたら通話が出来るように改造されちゃっててね…。なので調べた本人とお話でもして確認してくださいな。」


「え?そんなことが可能なのですか。」

 丈二はサムズアップで答える。そのタイミングで耳栓から声が聞こえた。


『ちぇっくちぇっく。ハロー異世界TV。若ちゃんっすか?こちらケレース。多分数日ぶりっす。』


『え?あら。ケレースさん。その節はどうもお世話になりました。』

『ういっす!って言ってもあたしは分体なので、最近の本体の記憶はないんっすけどね。てへぺろ。』


『あーごめん。若月さん。僕はマスター君の親友で八木って言います。』

『あ。はい。初めまして。』


『取り合えず、この状況は理解頂けたかな?でね何故宮村流のことを知っているかってのは、調べたら、うちの社長…マスターのおじいちゃんなんだけど、そっちの筋だった。それだけのこと。』


『マスターのおじい様…。マスターは暁 丈二さん…あ…。』

『YESYES。暁 城一郎。』


『そそ。で、じょっちゃんここからプライベートだから、じょっちゃんは切るね。』

『はぁ?ええ?俺の能力なのにそんなことあるの?出来るの?』


『うん。ケレたんとお互いのプライベート機能追加したときに、こっそり改造した。』


『さいですか…。』


 それからは、彼女が納得する何かを八木は話したらしく、首を縦にコクコクと何度も縦に振る彼女は、話が終わる頃に、表の明るい性格にすっかり戻っており、丈二に向かってこう言った。


「ケレースさんって本当に素敵な女神様ですよね。」


「「はぁああ?どうしてそうなる!!!」」


 今度は、丈二とサニーの表情が一瞬で「無」になっていた。

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