第48話 宮村 若月(1)(閲覧注意)
「歪ですか?それに…前の世界って!?」
若月はその発言に目を丸くする。
「そそ。個人的には嫌いじゃないパーソナリティなんだけどね。」
マスターは笑顔で答える。
「歪と言われたのもですが、前の世界と言うことは私が…。」
下を向き言葉を止める。
「迷い人、ゲスト…まぁ日本人だよな。宮村さん。」
「え。じゃぁマスターも、若しかしてですか?」
「ああ。はじめまして。『暁 丈二』 日本人の迷い人だ!」
※ ※ ※ ※
箱庭の試練で女神さまから、若月と同じような箱庭卒業生がいることは聞いていた。何処かで出会う可能性は頭にあったが、こんなに早く出会えるとは思っていなかった。
出会えなかったとしても、試練を乗り越えてきている。気持ちは抑制できる。
だが…。
同じ日本人が、同じようにあの暗い世界を、理不尽なひとり生活を体験した人が、「ここにいる」。自然と涙が出た。
一方、その気持ちは、マスターこと暁 丈二も同じで、多少先輩ではあるものの、同郷に出会えた感動は一塩で嬉しく思う。
彼にはこちらの世界に来たその日に、心で繋がるパートナーのサニーがいて、しかも、自分の権能で親友と繋がることができた。信頼できる仲間も隣にいる。
彼女は、コールマン一家という理解者に最初に出会えた幸運はあるが、心細かったのは間違いない。箱庭の試練があったとしても、その気持ちは心のどこかに燻っていることを彼は知っている。
昨日リリアから彼女のことを相談されたときは、日本人であることを話すのは彼女に任せるつもりであったが、早めに彼女に僅かばかりの安心を与えた方がいいと思えた。
「本当はもう少し先でこの話をしようと思ったんだけどね。」
「はい…はい。お会い出来て嬉しいです。この世界でひとりぼっちは大丈夫ですけど、大丈夫じゃないので。」
「だよな。」
「もう、な…に言ってるのか、自分でも…わか…らないですけど。辛くないけど、辛いというか…ふえ~ん。」
「だよな。箱庭卒業…だもんな。」
丈二は若月の頭を、ぽんぽんと軽く撫で、抑えきれない涙が止まるまで胸を貸す。
彼女の涙が止まる頃、彼は交渉術をONにして、彼女の人格を否定し始める。
「若月ちゃん。剣を持った時の君は、ある種の呪縛のようなものに心が殺されかけているよね。多分君のお家の事情からなんだと思うけれど。」
若月は黙って聞く。
「宮村流剣術…宮内庁御用達の裏御業。」
丈二の言葉に、ビクッっと若月の体は大きく揺れ、そして震える出す。
「やっぱりか。君はその若さで…。」
「…。」
彼女の震えは、スッと止まり越しに帯刀している小太刀にそっと手をかける。
先程まで、荒めであった呼吸も心音も一瞬で無くなっているのを丈二は冷静に感じ取る。
《これは、流石にサニーさんでも落ち着かせられませんよね?》
《そうですね…。交渉術を使っての結果ですから厳しいかと。》
《取り合えず、切られたら痛そうなので…隠密スキルON。》
隠密スキルによる気配の行方が隠蔽されたことで、彼女の行動にもスイッチが入るその一瞬。
――― 暁 丈二 の首 が 床に 落ち た。
その映像を彼女の心は鳥観の視点で目の当たりにする。
「嗚呼。何故…依頼人を私は…。嗚呼。何故…同じ日本から来た人を私は…。嗚呼。何故…。嗚呼。でも…『仕方ない』。」
「本当にこれは、御し難い程、危ういにょ。」黒猫が、寝転びながら呟く。
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