第47話 黒猫くえすと(3)
道場での模擬戦は、スキルや魔法を禁じ手とした戦いであったと言えど、短くも見ごたえのあるものであり、その結果、勝者は新人冒険者の少女である。
スキルや魔法のある世界で、己の身体のみの戦いでのそれは、実質的な勝敗には値しないのであろうが、このときの若月のレベルが4、対するマスターのレベルは3倍以上の差があり、若月の剣による技術と強さは
「これ少し危ういにょ。でもまあまあ強いにょ。なでなでも上手だから合格でいいにょ。」
黒猫が若月の拘束を解き、先ほどと反対の前足を舐めながらそう言う。
マスターが腹部に受けた痛みを魔法で癒しながら立ち上がる。
「いや~驚いたね。想像以上に面白かったぜ? つぶ猫様もOKだそうだから仕事よろしくな。」
「わ!やりました!!はい。ありがとうございます!」
何事もなく、たった今まで…殺意を向けた相手に対し満面の笑みで答える彼女。それを見て、彼はふと思いつく。そして頭の中で一つの依頼を出す。
「なぁつぶさんや。」
「何にょ。」
「明日からは午前中に図書館とか買い出しに行って貰って、外への散歩はこの子の依頼と一緒にってのはどうだ?」
「ゴブは不味いから嫌にょ。」
「リリアに美味い依頼を頼むってことで…ボアとかクルックとか。どうよ!」
「乗ったにょ!!!」
「よし決まり。じゃあ若月ちゃんもそれでいいよな!」
「ふぇ?え?え?」
昨日、冒険者組合で依頼を受けるときのデジャブのように若月は固まる。
「ん?分からなかったか?依頼書には確か午前中に猫の世話をして終われば、午後は冒険者として自由にしていいって書いておいたけど?」
「あ、はい。それは聞いています。えっと…すみません。それでも良くわかってないかもです。」
少し下を向く若月にマスターは少し焦って言い直す。
「すまんすまん。そんな下を向かなくてもいいって。要は、つぶ猫と街の外に行く仕事と食事を、若月ちゃんの依頼と兼ねて行ってきていいぞってことだ。」
「食事も?」
他の討伐系依頼を兼ねて散歩…というのはわかったが、ペットのお散歩を魔物討伐と一緒に行うことの意味に若月はピンと来ていない。それに加えて食事をというワードが更に彼女の頭を悩ませる。
「そそ。こいつ偽猫だから魔物がご飯。だから、リリアに美味しい魔物の討伐を斡旋してもらう。それを若月ちゃんが倒して、猫が食う。どうよ!」
「ふぇえええ。」
もふもふと撫でていた黒猫が魔物なのは、さっき聞いて理解したつもりであったが、その猫の餌が魔物であることに、若月はまさかの坂を転がり落ち奇声をあげる。
「俺の予想。お前ら良いパートナーになる…はず?若月ちゃんは、模擬選中にあっちの世界に逝っちゃってたけど、最後はこいつに縛り上げられて帰ってきただろ?この黒猫は結構強いんだ。」
「結構は余計にょ。今夜の夜食に寝ているお前を食うにょ?」
「ふぇ。わ…私食べられてしまいませんか?」
「安心するにょ。お前みたいな悪意がなく危うい奴は美味しくないって相場は決まっているにょ。だから食わないにょ。」
欠伸をしながら、若月に言う黒猫の言葉を笑いながらマスターが補足する。
「はは。要するに、若月ちゃんのことを気に入ったから、仲良くしようねって言ってるみたいだぞ。」
「う…五月蠅いにょ。」
「ふ…ふぇえええええええ。」
大好きな猫のお世話と聞いて依頼を受けた若月である。
その猫が実は喋る魔物で、更に何故かマスターとの模擬戦を命じてくるし、最後は謎な霧に拘束してくる。
挙句は、若月が依頼で討伐した魔物を黒猫に食べさせるという依頼に、それが変更されたと分かったところで、彼女の脳内キャパは一杯となり、頭から煙を上げてその場に座り込んだ。
「こいつ、顔はいいし強いけど。頭は弱いみたい…にょ。」
「いやいや。お前の存在を今になって実感して目を回してるんだろ?」
「は?しばくにょ。」
※ ※ ※ ※
「お、少しは落ち着いたかな?」
マスターがコーヒーを淹れてくれ、若月に渡す。
飲むとはちみつが入った甘いコーヒーで、ホッとした気持ちになり落ち着き謝罪をする。
「すみません。思っていたよりこちらの世界の猫ちゃんが強烈で…。」
「うん。そこ違うよ~。まだ混乱してるね~。このつぶ猫様が変なんだよ~?」
「に”ょ”?」
「・・・。」
さてと…そろそろ、この子に仕事を教えないと時間が無くなるな、とマスターは自分で淹れたコーヒーを持ち立ち上がる。
それに、誰かが彼女に伝えなくちゃいけないことがある。それはコールマンとリリアではダメで自分の役目だと、
こいつら、思った以上にヤバい情報をこの短期間で…って、身内絡むからコメントしにくいなぁ。
「さてさて、若月ちゃん。君は剣を持つと危ういね。仲間も殺しそうだが多分君には自覚がない。正直に言うとね君はとても
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